欧州において存在感を急速に高めている電気自動車。現時点ではSUVやハッチバックが中心となっているが、将来的にはミニバンなどにも広がることは確実だ。
そこで今回は、発売中もしくはこれからのデビューが予定されている“EVミニバン”を軸にEVミニバンにはどんなニーズが想定されて、どんなユーザーをターゲットとしているかを考察してみよう。
◆シャトルサービスなどに向いているメルセデスベンツEQV
現在、EVミニバンとして多くの人がまず思い浮かべるのはメルセデスベンツ『EQV』ではないだろうか。EVの独立車種として展開されるEQシリーズは『EQC』や『EQA』が発売され、そしてラージセダンの『EQS』もすでに欧州で販売をスタート。EQVは、ミニバンの『Vクラス』をベースにしたEVモデルだ。
90kWhという大容量のバッテリーを搭載し、1充電による航続可能距離は418kmを誇る。どんなユーザーを見据えているのか?
主なターゲットとなるのは、個人ユーザーではなく法人であり、具体的には空港や駅とホテルなどを結ぶシャトルサービスのような使い方とマッチングがいい。それほど遠くない範囲で、充電を挟みながら使うのであればこの航続距離があれば十分という状況も多いからだ。ちなみにモーター最高出力は204psとなっている。
◆商用バンとして期待されるシトロエンeベルランゴ
さらに極端なのは、シトロエンの『eベルランゴ』。日本のベルランゴは2列シートのショートボディだが、欧州ではロングボディの3列モデルも展開している。
電気自動車化したeベルランゴは138psのモーターと50kWhのバッテリーを組み合わせ、航続距離は280km。EQVよりもさらに短く、当然ながら高速道路を使っての長距離移動などは想定していない。つまりは都市内移動用のツールという扱いになる。
想定しているのは、EQVよりもさらに短い距離の送迎だ。たとえば空港や駅からその近隣ホテルまでの送迎などが考えられる。バッテリー積載量が少ないことで、EQVに対して価格が安いことがeベルランゴの強みとなるだろう。
実はeベルランゴにはもうひとつの顔がある。それはバンモデルだ。ビジネス利用のルートセールスや荷物運搬車として考えた場合、都市内の近距離移動だけに使って1日に200kmも走れば十分というニーズも少なくない。そのうえでEVはクリーンなイメージをもたらすので、都合がいいというわけだ。これは商用EVの大きなニーズになると考えられる。
ルノーが『カングー』のバンモデルにEVを展開するのも同じ理由だ。
◆航続距離が長く、個人もターゲットとなるフォルクスワーゲンID.BUZZ
一方で、全く違うニーズにマッチするEVミニバンもある。たとえばフォルクスワーゲンが2022年に発売するとされている『ID.BUZZ』だ。
同車のEVブランドである「ID」シリーズにカウントされるID.BUZZの特徴は、かつての名車「ワーゲンバス」を連想させるレトロモダンなデザイン。そして3列シート車も展開するミニバンであることだ。
バンモデルも展開するものの、乗用タイプは法人ではなく個人がターゲットで、一般的なミニバンと同様の使い方を想定。現在、もっとも一般ユーザーに近いEVミニバンといえるだろう。パワートレインは数タイプのモーターとバッテリーが用意されるようだが、最長の航続可能距離は500kmを超える見込みだ。サイズも手ごろで、これなら手元にあるガソリン車やディーゼル車の代わりとなるオーナーカーになり得る。
「EVミニバン」と一口でいっても、車体サイズや後続可能距離などはそれぞれ異なり、マッチングのいい使い方やユーザー層も異なる。しかし、一つだけ間違いないのは、今後はさらにEVミニバンが増えていくことだ。
日本でも拡大? 欧州ブランドのEVミニバン、それぞれの思惑と展望は?
2021年11月16日(火) 19時00分
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