プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》

2021年3月1日、Groupe PSA Japanは、プジョーブランドで展開している『リフター(RIFTER)』に、上級グレードのGTを追加すると発表した。リフターは、本国フランスで商用車としても使われている骨太なMPVだ。GTグレードの追加によって、リフターは、ベースグレードの「ALLURE(アリュール)」との2グレード構成となった。

リフターは、スタイリングはMPVやミニバンとよばれるジャンルに入るが、高い地上高やグリップコントロールといった走破性を高める装備を備えているモデルだ。そのリフターに今回、幸運にも試乗させていただくことができた。その様子をお伝えしていこう。

◆リフターの魅力をより引き立てる無骨なエクステリア


リフターGTは、2列シート5人乗りの5ドアMPVだ。欧州市場向けには3列シート7人乗りのモデルもあるが、日本仕向けのリフターはファミリーユースに特化し、2列シート5人乗りのみとなっている。ちなみに、シトロエンの『ベルランゴ』と兄弟車だ。

パワートレインは、最大出力130ps/最大トルク300Nmを発生する1.5リットル直4ディーゼルターボエンジンを搭載。8速オートマチック(EAT8と呼ぶ)を組み合わせ、WLTCモード燃費は18.2km/リットル(市街地15.7、郊外17.8、高速19.8)を達成する。発進時のエンジントルクが太く、速度が上がるほどに燃費が良くなるディーゼルエンジンは、この手の長距離移動向けのMPVにはベストマッチだ。

ボディサイズは、4405×1850×1880(全長×全幅×全高)mm、ホイールベース2785mmと、欧州Cセグメントのカテゴリにギリギリ収まるサイズ感。見た目や用途が似ている、三菱の『デリカD:5』(4800×1795×1875)よりもずっと小さいのだが、目の前にしてみても、デリカD:5と変わらない大きさに見える。これは、リフターの背の高さと、オーバースペックにも思える大径タイヤからきているようだ。


エクステリアは、カジュアル寄りなベルランゴに比べて、リフターは武骨さを前面に押し出した印象だ。60扁平の17インチタイヤやルーフレール、ボディの下部やフェンダーを覆うハードプラスチックなどによって、全体的にリフトアップしたクロカンにも似て、なかなかカッコ良い。休日に、ロードバイクを積み込んで、出先で自転車ツーリング、という使い方がよく似合いそうだ。

インテリアも、日本車のそれとは一風変わった雰囲気だ。プジョーが「i-Cockpit」と呼ぶ小径ステアリングホイールとメーターディスプレイのレイアウトは、想像よりも見やすくてよい。また運転席からの高い視界は、いかにも商用車ベースだなあと感じられるが、その分、前方左右の視認性はバツグンだ。

ただし、楕円の超小径ステアリングホイールは、ハンドルを回していった際どこを次に握って良いのかやや迷う。これも慣れ次第だが、ハンドルの操作量が少なくて済むのは、市街地走行では結構役立った。



◆荷室勝負でリフターに敵うMPVは皆無


まず何よりすごいと思ったのが、電動シェード付の巨大なガラスルーフだ。ここから注ぐ明かりは眩しいほどに車内に入ってくる。センター部は白の半透明タイプで、軽めの荷物を乗せることはできそうだ。もっとも、それ以外にも様々なところに収納ボックスがあるので、わざわざここに収納する必要もなさそうだが。

横方向にサイズの広い前列シートは、上から見下ろすようなドライビングポジションとなる。座り心地はちょっと硬めの印象で、背中にフィットする印象は少ないが、締め付けられるような苦しさは感じない。また、後列シートは3人座りのセパレート式となっており、ばらばらに折りたたむことができる。3脚とも座面が足元へ沈み込むダイブダウン方式なので、例えば中央席のみを倒して使うこともできる。

1850mmの車幅を有効活用した荷室はとにかく広大で、使い勝手がよい。リフターを購入されたお客様の中には、荷室にバイクをズドンと乗せて、トランスポーターとして使う方も多いという。旅行の荷物や遊び道具を満載し、アウトドアやキャンプへと出かける、そうした使い方こそが、リフターが本領発揮するシーンに間違いなく、荷室勝負でリフターに敵うMPVは皆無だろう。

◆1.5リッターの走りはお見事の一言


欧州車系のディーゼルターボエンジンは、排気量2.0リットルクラスが王道だが、リフターに搭載されているのは、たったの1.5リットルのディーゼルエンジン。このエンジンに、どれほどの実力があるのかは、よく見ておきたいポイントだ。

まず、アイドル時のエンジンノイズは、聞こえはするが気にならい音量だ。ゆっくりと走り出しても、コロコロとした音質で嫌な感じはない。また、最大トルク300Nmによって、車重1650kgもあるリフターを軽々と発進させてくれる。一旦走り出してしまえば、定常走行や加速騒音、そしてロードノイズも小さい。アクセルペダルを思いっきり踏み込んでも、やや太めのサウンドが響く程度で、8速ATがポンポンとシフトアップする。全体的に質感の高いエンジンだ。


MPVにハンドリング性能を求めるのはナンセンスではあるが、高い高速直進性だけは備えていてほしいもの。その点リフターは、期待を上回る高速直進性を持っていた。市街地などの通常走行時にはやや重めに感じたハンドル操舵力は(小径ステアリングホイールが影響していると思われる)、高速走行中にはむしろ直進性を高めてくれる。17インチタイヤもグリップ力が高く、まっすぐ走ることにそれほど気を遣わずに済む。60扁平のタイヤのおかげもあり、突起や段差の衝撃をいなしてくれる乗り心地の良さも好印象だ。

ワインディングも走ってみたが、「キビキビした動き」はなく、「安心感のある動き」に抑えられている。ときたま小雨が降るシーンもあったが、制限速度程度であれば、地面に張り付くような安定感があり、怖さは感じなかった。

◆骨太MPVに乗って、今すぐアウトドアへ出かけよう


と、ここまで絶賛してきたリフターGTだが、細かい点をみていけば、気になる点がないわけではない。日本車だと当たり前の電動スライドドアがなかったり、前席のドリンクホルダーに四角い500mlペットボトルが入らなかったりと、惜しいポイントは所々ある。だが、この無骨なデザインと、欧州快速MPVとしての実力は間違いなく、日本でも大いにその魅力を享受できる。

リフターGTの車両本体価格は税込361万円。試乗車にはメタリックペイント(6万500円)、専用ナビゲーション(25万4100円)、フロアマット(1万2760円)、ビーウィズスピーカー(前後用足すと22万円)などが装備されており、総額416万円、というモデルとなっていた。

トランスポーターとして、日本車でライバルとなりうるのは、近しいサイズの日産『NV200』(税込223万円〜)、低床のホンダ『ステップワゴン』(271万円〜)、クロカンの三菱デリカD:5(391万円〜)、商用車ベースのトヨタ『ハイエース』(254万円〜)あたりだろうか。リフターGTはやや割高ではあるが、欧州の骨太MPVに憧れている方や、一風変わったMPVが欲しい方には、おススメの一台だ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★

吉川賢一|自動車ジャーナリスト
元自動車メーカーの開発エンジニアの経歴を持つ。カーライフの楽しさを広げる発信を心掛けています。

市街地などの通常走行時にはやや重めに感じたハンドル操舵力は、高速走行中にはむしろ直進性を高めてくれている印象がある《写真撮影 中野英幸》 最大トルク300Nmを発揮するディーゼルターボは、1650kgもあるリフターを軽く発進させてくれる《写真撮影 中野英幸》 215/60R17の大径タイヤホイール。タイヤはグッドイヤーエフィシエントグリップパフォーマンスを装着。ウエット性能は最高グレードの「a」を取得した、ハイパフォーマンスコンフォートタイヤだ。《写真撮影 中野英幸》 8インチナビモニタ(オプション25万4100円税込)は、センター最上段にレイアウト。i-Cockpitはハンドルとメーターの位置関係に視線の高さを合わせれば、違和感はなくなる。《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 横方向にサイズが広い1列目シート。上から見下ろすようなドライビングポジションとなる。《写真撮影 中野英幸》 ボディサイズは4405×1850×1880(全長×全幅×全高)ミリ、ホイールベース2785ミリ。欧州Cセグメントのカテゴリにギリギリ収まるサイズだ《写真撮影 中野英幸》 リフターが大きなMPVに見えるのは、1900ミリに近い背の高さと、オーバースペックにも見える大径タイヤからきているのだろう。《写真撮影 中野英幸》 ダイヤル式のシフター周りのレイアウトはやや寂しい。《写真撮影 中野英幸》 後列シートは3人乗りのセパレート式。座面が沈み込むダイブダウン方式で折りたためる。両側スライドドアは非電動で、ドアの開け閉めにはそれなりの力がいる(特に内側から閉じるとき)。《写真撮影 中野英幸》 後席を倒せばフラットで広大なスペースが誕生。バイクをそのまま乗せて遠征する方もいるという。《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 巨大なガラスルーフから注ぐ明かりは眩しいほど。電動シェードで直射日光を防ぐことができる。《写真撮影 中野英幸》 ガラスハッチとなっているリアウィンドウ。トノカバーの一部が開き、そこから荷物の出し入れができるが、位置がかなり高いので、荷物に手が届かないかもしれない。《写真撮影 中野英幸》 アクセルとブレーキペダルの段差が大きめで、踏み間違えることはまずない。ただし、アクセルペダルを踏み込んでいくと、後ろのホイールアーチにつま先が触れて止まるのはあまり良くない設計。《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 吉川賢一氏《写真撮影 中野英幸》 60扁平のタイヤのおかげもあり、突起や段差の衝撃をいなしてくれる乗り心地の良さも好印象《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 吉川賢一氏とリフターGT《写真撮影 中野英幸》