日産・NV350《写真撮影 青山尚暉》

今年の3月11日で東日本大震災から10年。今年に入ってからも、日本各地で地震が頻発している。地震、災害大国の日本では、10年前の経験を生かし、さまざまな施策、対策が取られている。

◆地震や災害…愛犬の為にいざという時の備えは?

環境省による「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」が策定されているとはいえ、実際に愛犬との避難ともなれば、ほとんどの避難所では屋内にペットを同行させることはできない。飼い主が学校の避難場所の屋内に避難する場合、ペットは校庭の片隅のペット避難エリアなど、離れた場所での避難生活を余儀なくされるのが実情と言っていい。冬は寒く、夏は暑く、熱中症、蚊などの害虫被害も心配になってくる。

愛犬は家族の一員。そう考えると、ただでさえ誰もが不安になる災害環境下、愛犬と片時も離れず、愛犬を安心できる場所にいさせてあげたい気持ちになって当然ではないか。



3.11で被災した経験もあるわが家では、以来ステーションワゴンのラゲッジルーム〜後席部分に、あらかじめキャンプ用の厚さ1.5cmほどの断熱マットを敷き詰めてあり、後席を格納した状態で、足を伸ばして就寝ができるように仕立てている。

さらにラゲッジルーム床下のサブトランクには身の回り品、水、避難用品、ペット用品、枕、毛布、車内用寝袋、室内全周カーテン、LEDライト、蚊よけメッシュカーテンなどを常備。災害時、狭いながらも、なんとか夫婦2人と愛犬が車内で過ごせる工夫をしている。3.11以降、愛車は常に満タンにしているから、ガソリンがある限り、エアコンが使え、ラジオやTVも見ることができ、大切な情報収集面でもぬかりはないつもりである。





知り合いの愛犬家には強者がいて、愛犬同行避難のために大型のキッチンやシャワー付きのキャンピングカーを、災害時でも安全な場所にある専用駐車場とともに導入。持病のある愛犬の薬まで完備しているという。ここまでやれば、家族も、愛犬も一段と安心だろう。うらやましい限りである。



とはいえ、「キャブコン」といった大型キャンピングカーを所有するのはなかなかハードルが高い。日頃の駐車スペース、日常の足としての用途には適していないとも言えるのだ。前述の彼も、まるで1LDKのような室内空間がある「キャブコン」とは別に、2台の乗用車を所有しているからこそ、キャンピングカーの所有が成立しているわけだ。



◆普段使いできるキャンピングカー達

現実問題として、一般的な愛犬家、自動車ユーザーが、アウトドアや車中泊での楽しみ、そして愛犬との災害避難を考えた上で、しかし所有できるクルマが1台だとしたら、キャンピングカーは諦めるしかないのだろうか。そんなことはない。4月頭に幕張メッセで開催された「ジャパンキャンピングカーショー2021」を見ても、普段使いできるようなキャンピングカーが揃っていたからだ。



ドッグライフプロデューサーであり、普段から新車の試乗などを行っているモータージャーナリストの立場からすれば、普段使いでも不満がないキャンピングカーの条件として、運転感覚、走行性、快適性、駐車性、先進運転支援機能などで、乗用車と変わらない性能があるのが理想だ。

そこで注目しているのが(というか個人的にも欲しいのが)、まずは「バンコン」と呼ばれるキャンピングカーの種類の中でも、ファミリー層にも大人気のボックス型ミニバンをベースに仕立てたキャンピングカーである。

ジャパンキャンピングカーショーに出展されていた、日本の多人数乗車可能なファミリーカーの定番と言える日産『セレナ』や『NV200バネット』(5ナンバーサイズが基本)をベースにした、日産車の特装車やカスタムカーを手掛けるオーテックジャパンが企画、販売しているマルチベットシリーズがそれで、3列シートのミニバンをベースに2列シート化し、広大な車内をベッド化できる1台だ。セレナならプロパイロット付きも選べるため、先進運転支援機能もバッチリである。




セレナクラスでは、さすがに水回りやシャワー、トイレの設置はボディサイズ、車内空間的に難しいとはいえ、愛犬と自由に過ごせるリビングスペースとベッドスペースが確保できるのだから、災害対策としては十二分と言っていい。大きく開くバックドアの外側にタープを張れば、テラススペースも展開できるのだ。





もちろん、最大のメリットは、運転が不慣れな人でも楽々運転、駐車でき、普段の買い物やレジャーユースにもまったく困らずに使える点だ。

また、普段から大型車に乗っているのであれば、「バンコン」の人気車種、トヨタ『ハイエース』をベースにしたキャンピングカーを選ぶのもいい。こちらなら、豊富な収納から簡易キッチン、冷蔵庫、ポップアップルーフ、フルフラットベッド、そこから引き出せるシャワーが付いた車両も一般的で、大人2人+子供2人と愛犬が、暮らすように過ごすことだってできるようになる。



ハイエースでも比較的コンパクトな、ハイエースロングバンDXがベースであれば、ボディサイズは全長4695mm、全幅1720mm、全高2090mm〜、室内高1600mmと、全高を除いてセレナと大きく変わらないサイズに収まっているから運転、駐車も安心だ。いろいろなオプションを付けていくと、それなりの価格になってはしまうものの、災害時の愛犬を含む家族の安心快適保険料と考えれば、値段に代えがたいものがあると思える。




◆買う前にまずはレンタルで試してみるが吉

最後にひとつ、アドバイスを。どうせなら、「キャブコン」のような本格的なキャンピングカーが愛犬のためにも欲しい…と思ったら、まずはレンタルで試してみるのが正解だろう。今ではペット乗車専門のレンタルキャンピングカーもあり、実際に走り、ドライブし、使って過ごし、駐車してみるなどして、使いこなせるかを経験できるのだ。いきなり買って、手に負えなかった…ということがないようにするためには、これが一番ではないだろうか。




もし、サイズ的に手に負えないようであれば、ボックス型ミニバンベースの「バンコン」や、夫婦2人+愛犬のみの乗車であれば軽自動車ベースの「軽キャン」、さらにもっと安くお手軽に車中泊ができ、愛犬と避難生活が送れればいい…というなら、ホンダ『フリード』などのコンパクトミニバンを車中泊仕様にアレンジするのも手だ。




輸入車ファンなら、ルノー『リフター』やシトロエン『ベルランゴ』といったスペースユーティリティカーのキャンピングカー仕様もオシャレな選択になるだろう。もちろん、普段使いもOKだ。



いずれにしても、カーテンなどでプライバシーが守れ、大人が真っすぐ横になって寝られるような最小限の車内空間が確保できれば、一般的な乗用車とは別次元の快適な愛犬との車内避難生活が可能になる。家族の一員である愛犬と暮らす愛犬家にとって、そうしたクルマがあれば、いつ起こるか分からない災害、地震に対して、少しは安心できるというものだろう。だから、わが家も今、キャンピングカーに興味津々なのである。



青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージングデータは膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ番組、ラジオ番組の出演、イベントも手がけ、愛犬との安心快適な自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動、自動車用ペットアクセサリーの企画・開発も行っている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

【青山尚暉のわんダフルカーライフ】愛犬同行避難に理想的なキャンピングカーと災害時の対策《写真撮影 青山尚暉》 わが家のステーションワゴンにはキャンプ用の断熱マットを敷き詰めてある《写真撮影 青山尚暉》 蚊よけメッシュカーテンも常備《写真撮影 青山尚暉》 日産・NV350《写真撮影 青山尚暉》 日産・NV350《写真撮影 青山尚暉》 日産・NV350《写真撮影 青山尚暉》 ロータスRV・マンボウ(写真はイメージです) 左からセレナ マルチベッド、NV350キャラバン マルチベッド、NV200バネット マルチベッドワゴン《写真提供 日産自動車》 日産・セレナ《写真提供 日産自動車》 日産・セレナ マルチベッド《写真提供 日産自動車》 日産・NV200バネット マルチベッドワゴン《写真提供 日産自動車》 日産・NV200バネット マルチベッドワゴン《写真提供 日産自動車》 日産・NV200バネット マルチベッドワゴン《写真提供 日産自動車》 ハイエース ベースの コンパス・ビッツ《写真提供 ホワイトハウス》 ハイエース ベースの コンパス・ビッツ《写真提供 ホワイトハウス》 ハイエース ベースの コンパス・ビッツ《写真提供 ホワイトハウス》 ロータスRV・マンボウ ロータスRV・マンボウ ホンダ・フリード+アクセサリー装着車《写真撮影 青山尚暉》 ホンダ・フリード+アクセサリー装着車《写真撮影 青山尚暉》 プジョー シエル キャンパー シトロエン ベルランゴ キャンパー VW・ワーゲンバス《写真撮影 青山尚暉》