トヨタ GR 86(左)とスバル BRZ(右)《写真撮影 雪岡直樹》

操る楽しさに満ちた後輪駆動のスポーツクーペがトヨタ『86』とスバル『BRZ』だ。トヨタが企画とデザインを担当し、スバルが開発と生産を行って誕生したアライアンスモデルで、走り屋たちの期待を一身に集め、2012年春に登場した。あの感動のデビューから9年、第2世代のFRスポーツクーペが秘密のベールを脱いだ。

BRZはネーミングを変えていないが、トヨタ86は車名を『GR 86』に変えている。GRはトヨタのモータースポーツ部門を統括するガズーレーシングの頭文字を取ったブランドだ。『スープラ』と同じように、トヨタの特別なスポーツモデルという印象が一気に強くなった。


エクステリアは初代の発展進化版で、遠くから見ても86、そしてBRZと分かる。ロングノーズにショートデッキを組み合わせた2ドアクーペで、フロントマスクの雰囲気も似た味わいだ。ただし、GR 86とBRZで表情を変えた。BRZはスバル伝統の六角形グリルを採用し、バンパー外側のエアロパーツもデザインを変えている。リアビューも力強いデザインで、GR 86はリアフォグランプが標準だ。個人的にももう少しアグレッシブなデザインでもよかったように思うが、まとまりはいい。

◆初代の不満点をうまく解消した新型


袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗したのは最終のプロトタイプだ。GR 86と新型BRZは、先代と違って走りの味付けを変え、走り出した瞬間から性格が違うことが分かる。プラットフォームは先代からのキャリーオーバーだが、新世代のSGP(スバルグローバルプラットフォーム)の知見とノウハウを盛り込み、骨格を補強するとともにサブフレームやリアのスタビライザーなどにも工夫を凝らした。軽量化を図るとともに、エンジンなどの低重心化も断行した。

まずは慣らしを兼ねて初代モデルのステアリングを握る。きめ細かい改良を行なった最終型はいい仕上がりだ。運転するのが楽しい。リア駆動ならではの軽やかなハンドリングで、横滑り防止装置を切ればリアを気持ちよくスライドさせることもたやすい。だが、剛性感がそれなりなこともあり、操舵フィールや乗り心地に粗さを感じた。


新型に乗り換えると、不満だったところがうまく解消されていることが分かる。サスペンションは、フロントがストラット、リアはダブルウイッシュボーンだ。だが、ダンパーもスプリングも両車で異なる味付けとした。GR 86はフロントハウジングを鋳鉄としているが、BRZはアルミ製で、フロントとリアのスタビライザー径も異なっている。リアスタビライザーの取り付け構造もGR 86はリアサポートサブフレームなしで、ブラケット取り付けとした。これに対しBRZはサブフレームを設け、ボディ直付けとしている。リアのトレーリングアームブッシュもBRZは硬度を高めた。

走り出すとボディがシャキッとしており、リニアリティあふれるハンドリングが1ランク上のレベルに引き上げられていることが分かる。ルーフをアルミ材に変更し、エンジンの搭載位置を変えたことが洗練されたハンドリングに大きく寄与しているようだ。コーナー入り口でステアリングを切ると、狙った方向に正確にクルマが向きを変え、リアの追従性も素晴らしい。一体感のある走りに磨きがかかった。

◆BRZはマイルド系、GR 86はキビキビ系


洗練度を高めたのは、操舵フィールと接地フィールだ。手のひらと腰を通してクルマの動きが上手に伝割ってくる。とくにBRZは、フロントのグルップレベルが高いことに加え、リアの抑えが効いているから安心感が絶大だった。リアが流れたときに修正舵を与えたときのコントロール性も秀逸だ。テールスライドもアクセルワークで自在に引き出すことができる。乗り心地がよいのも美点の1つだろう。

BRZはAWDを作り慣れているスバルらしいセッティングだった。これに対しGR 86は、ステアリングを切り込んだときの反応がBRZより敏感だ。ちょっとステアリングを切り込んだだけでクルマがスッと軽やかに向きを変える。BRZはタイトコーナーへの進入で少しアンダーステア気味になった。だが、GR 86は舵の入りがよく、ノーズが気持ちよくインに向いた。アクセルを踏み込むと、リアの動きも大きいように感じる。慣れないと修正舵が大きくなるコーナーもあるが、コツをつかんでしまえば気持ちいい走りを楽しむことができた。

BRZは落ち着いた、マイルドな挙動を好む人に向いている。ワインディングロードなど、公道で気持ちいい走りを引き出しやすいから、デートカーとしても無理なく使えるだろう。GR 86は、それなりのテクニックを持つドライバーやリアを滑らすキビキビ系の走りを好む人には最適なパートナーになる。シートのサポート性とホールド性もいいいから、サーキットでも思い切り振り回せ、とても楽しい。ブレーキもハイミューパッドの製品をオプションで用意した。

◆400ccの排気量アップは大きな魅力


パワーユニットはトヨタの直噴D-4S技術を採用した2387ccのFA24型水平対向4気筒DOHCを搭載する。最高出力は173kW(235ps)/7000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kg-m)3700rpmだ。トランスミッションは6速MTと電子制御6速ATを設定した。ちなみにAT車には先進的な運転支援システムのアイサイトを標準装備する。これはうれしい。

先代のFA20型水平対向エンジンも、サーキットや坂道ではもう少しパワーとトルクが欲しいと感じていた。新型BRZはクラッチの踏力がちょっと増しているが、扱いにくさはない。アクティブサウンドシステムの効果なのか、エンジン音も先代より気持ちいいと感じる。サーキットではFA20型エンジンより実用域でパワーとトルクの力強さを実感した。応答レスポンスは鋭く、タコメーターの針は7500回転まで一気に駆け上がる。登りになるコーナーの脱出は驚くほど俊足だ。


3速ギアの守備範囲が広く、FA20型エンジンのようにパワーバンドに乗せなくても力強い走りを見せつけた。400ccの排気量アップは大きな魅力となっている。6速MTのシフトフィールも滑らかさを増した。ちなみにGR 86はパワーとトルクの出し方がBRZとは違い、メリハリを感じる味付けとしている。

6速ATも非凡な実力だ。スポーツモードを選び、パドルシフトを使えば気持ちいい運転を存分に楽しむことができる。変速したときのダイレクト感と滑らかさが増し、扱いやすい。ただし、高回転を多用するサーキット走行では何度かシフトダウンを拒否されてしまった。多段化すれば、さらに魅力を増すはずだ。

BRZはひと足早くデビューした。GR 86は秋に発売される予定だが、正式発表が待ち遠しい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

片岡英明|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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