ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》

ヤマハがラインナップするフロント2輪のスクーター『トリシティ125』が、フルモデルチェンジを受けて登場。乗り心地もハンドリングも一段と上質なものになっていた。

◆初代モデルからの変化は”質の向上”
その初代モデル『トリシティMW125』は、2014年9月に発売。この秋で丸9年が経過することになり、当初の異形感はどこへやら。街中を走る姿は、すっかり馴染みあるものになっている。

筆者である私(伊丹孝裕)は、長らくそれを所有し、日常的に乗っている。風雨を問わない酷使とも言える環境ながら、これまでトラブルは一切なく、いつも確実に目的地へとたどり着かせてくれる存在だ。2018年にはエンジンが新型になり、この時燃費が大幅に向上(WMTCモード値38.8km/リットル→ 43.6km/リットル)。今回は、そのさらなる改良に加えて、車体や足まわりも進化しているところがポイントだ。

初代トリシティと最新トリシティの間にある違い。それをひと言で表すと質の向上だ。スタイリングやカラーリングもさることながら、エンジンフィーリング、乗り心地、ハンドリングのすべてが柔らかく、常にしっとりとしたタッチでライダーを運んでくれる。

◆確かな路面追従性で突き進んでいく
最高出力12ps/8000rpmを発生する124ccの水冷4ストローク単気筒は、VVAと呼ばれる可変バルブ機構を持つ。基本的な仕組みは従来モデルから踏襲されたものだが、シリンダーヘッドや吸気バルブの改良で燃焼効率が向上。また、静粛性と振動軽減をもたらす「スマートモータージェネレーター」、信号待ちなどでエンジンが自動的に停止する「ストップ&スタートシステム」の採用といったアップデートが施され、より静かで滑らかな加速感を得ている。

新旧で比較しなくとも、純粋に堪能できる美点のひとつが快適性だ。街中をスローペースで走っている時、路面のギャップを拾った時、高いアベレージスピードで巡航している時……と、その場面を問わず、常に踏ん張り感の強い乗り心地を提供してくれる。傍目には分かりづらいものの、新しくなったフレームは剛性としなりの両立が図られ、ホイールベースとリアサスペンション長はそれぞれロング化。外乱の影響は最小限に留められ、確かな路面追従性で突き進んでいく。

ハンドリングもその延長線上にあり、直立状態からフルバンクに至るプロセスが一段としなやかだ。フロント2輪が路面をがっちりと掴んでいる感触が強く、マンホールや横断歩道のペイントが現れても、ためらいなくそこへタイヤを載せることができる。

その時の高い安定性は一般的なモーターサイクルにはないもので、だからといって、コーナリングが大回りになったり、力を要したりするものではない。自由自在にバンク角をコントロールでき、少々乱暴に倒し込んでも挙動は乱れない。実際にハングオフの姿勢を取り、レース気分を味わえるアーケードゲームを楽しんだことがある人は多いと思う。疑似体験ゆえ、どんなに無茶をしても転ばない心理的な余裕があるが、このトリシティを筆頭とするヤマハのLMW(リーニングマルチホイール)モデルは、それに近い感覚で操ることができる。もちろん、物理的な限界はあり、それを超えると普通に転ぶものの、この頼もしさは2輪史におけるエポックメイキングのひとつと考えている。

◆また一歩進められた”正常進化”
フレームと同様、これまた一見しただけでは分かりづらいのだが、実はフロント2輪を支える足まわりにも、改良が加えられている。『トリシティ300』や『ナイケン』といった大型LMWモデルで実績のある「LMWアッカーマン・ジオメトリ」のノウハウがフィードバックされているのだ。左右輪それぞれの軌道差は、車体のバンク角や回転半径に応じて変化していくが、それが同心円(2つの円の半径が異なっても中心は同じ位置にあること)になるように、タイヤの支持構造を最適化。これによって、よりナチュラルなコーナリング特性がもたらされた。

路面や天候の変化にほとんど左右されない安心感に、質の高さがもたらされたことの意味は大きい。さらには、スマートキーの採用、専用アプリを介してのスマホとの連携機能、さらなる燃費向上(WMTCモード値44.9km/リットル)といった実用面も充実。デビュー以来、着実に積み重ねられてきた正常進化が、また一歩進められることになった。

■5つ星評価
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ トリシティ125と伊丹孝裕氏《写真撮影 真弓悟史》