
スズキの125ccスクーター『バーグマンストリート125EX』(以下、バーグマン125)に試乗。日々の街中をスイスイと駆け抜けられるコミューターとして、高い完成度を誇っていた。
バーグマン125は、2023年3月に発売された。今回試乗したのは、2025年6月に切り替わった新たなカラーバリエーションの1台で、「マットステラブルーメタリック」と呼ばれるシックな艶消しブルーを採用。他に、「パールグレイスホワイト」、「グラススパークルブラック」の2色が用意されている。
◆スズキ125ccスクーター3兄弟の違いは先にスズキのスクーターカテゴリーを整理しておこう。現在、50cc以下のモデルはすべて生産を終了し、125ccクラスに今回のバーグマン125の他、『アドレス125』と『アヴェニス125』を用意。また、400ccクラスに『バーグマン400』という構成だ。
3機種をラインナップする125ccクラスが主軸なわけだが、その中におけるバーグマン125は、ラグジュアリー部門を担当。対するアドレス125はスタンダード部門、アヴェニス125はスポーティ部門というポジショニングで差別化が図られている。
とはいえ、フレームやエンジン、サスペンションといった主要なコンポーネントは、3機種でほぼ共有する。では、どのあたりがラグジュアリーなのかといえば、まずエンジンにアイドリングストップシステムと始動音が静かなサイレントスターターシステムが追加されたところ。そして、リアホイールのサイズが12インチ(他は10インチ)になったところで、あとはウインドスクリーンの装備、ステッチ入りのシート表皮、外装デザインなどで機能や質感を高めている。
ラグジュアリーを「ゆとり」という表現に置き換えられるのなら、ライディングポジションがそれにあたる。両足が揃えられるフラットフロア構造も3機種共通ながら、その前後スペースに余裕があり、足を出し入れする際も、前方へ投げ出す際も自由度が高い。
高さが780mmあるシートは、表皮に張りがあり、座面も広め。したがって、足つき性は良好と評せる部類ではなく、112kgの車重はアドレス125とアヴェニス125に対して5~7kg重いが、特に使い勝手を損なうほどの差異ではない。それよりも、スッとまたがってスッと走り出せる乗降性のよさと下半身のゆとりの方が、遥かにメリットとして体感しやすく、ハンドルを右へ左へと大きく切ってもなににも妨げられない上半身も同様だ。
◆運動性と安定性の、ちょうどいい狭間エンジン始動時は、なるほどサイレントスターターシステムがきちんと機能し、ノイズになるモーター音も、それに伴う振動も抑え込まれている。もしも乗車中のアイドリングストップが煩わしければ、ハンドルから手を放すことなく、スイッチひとつでキャンセルできるため、このあたりはお好みで。こうした制御の場合、バッテリーへの負荷が心理的に拭えないユーザーもいるだろうが、もしもの場合はキックレバーが使えるため安心だ。
エンジンレスポンスは、スロットル微開域から全開域に渡って、スムーズそのもの。唐突さもなければ、まどろっこしさもなく、右手ひとつでグングンと車速を押し上げていく。メーターディスプレイの右側には、水温計とおぼしき目盛りが刻まれている。
十分なパワー感と伸びやかな回転上昇のおかげもあって、水冷エンジンのような感覚で加速を楽しめるわけだが、「SEP‐α」(スズキ・エコ・パフォーマンス・アルファ)と呼ばれるこのユニットは、ごくシンプルな強制空冷の4ストローク単気筒であり、水温計風の目盛りは、機内温度を6段階で示すエンジン機温計とのこと。外気温35度を超える中での試乗だったが、3段階目より上になることはなかった。
ハンドリングは、エンジン同様に過不足なく、このモデル単体でも比較でも軽やかと言えるものだ。リアホイールに12インチを採用していても、10インチ車に対して俊敏さを損なっておらず、それでいてギャップの吸収性は向上。運動性と安定性の、ちょうどいい狭間にある。
◆“ちょっと足りない”収納力を補う頑強なリアキャリアバーグマン125に限らず、アドレス125とアヴェニス125も含めてひとつ望みたいのは、シート下に設けられた収納スペースの大きさだ。21.5リットルの容量では一般的なヘルメットの多くは収まらず(筆者のジェットヘルメットは無理だった)、もちろんそれに備えてヘルメットホルダーが2個装備してあるわけだが、日々の利便性という点で物足りなさは否めない。
ただし、収納力を補うバーグマン125ならではの装備もあり、頑強なリアキャリアがそれだ。グラブバーの役割も兼用するキャリアには、積載物の固定をたやすくする荷掛けフックが備わる他、純正アクセサリーのアタッチメント(6270円)とトップケース(1万9800円/容量27リットル)を座面に取り付けるだけで、簡単に収納量を増やすことができる。
アドレス125とアヴェニス125にも、同じアタッチメントとトップケースを付けられるが、その場合は元々付いているグラブバーを外し、別途用意されているリアキャリア(アドレス125/1万3200円)、もしくはトップケースキャリア(アヴェニス125/2万9700円)に換装する必要があるなど、コストと手間を要する。
◆使用するシーンを最も選ばないコミューター車体価格は、バーグマン125が31万7900円、アドレス125が27万3900円、アヴェニス125が28万4900円である。これだけをみると、バーグマン125がラグジュアリーを謳うだけのことはあるのだが、トップケースとそれに付随するパーツを装着することを想定すると、その差額はグッと接近。もしそれらを選択しなかったとしても、リアキャリアの標準装備は利便性の面で無視できるものではない。
兄弟モデルと多くのパーツを共有しつつも、最後発ならではの美点が光り、使用するシーンを最も選ばないコミューターが、このバーグマン125である。
■5つ星評価パワーソース ★★★★ハンドリング ★★★★扱いやすさ ★★★★★快適性 ★★★★オススメ度 ★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。














































