スズキ Vストローム800DE《写真提供 スズキ》

◆オフロードのテイストを強めた新モデル
仰々しいアドベンチャーマシンではなく、もっと気軽で使い勝手が良いのが『Vストローム』の魅力であったと思う。現在では1050を筆頭に長年ベストセラーに輝く650、そして250がラインナップされている。

スタイリングはオフロードテイストを感じさせるものの、その走りはあくまでオンロードを軸としているのがそれらのキャラクターである。

そんななか、2023年モデルとして加わった800ccクラスの『Vストローム 800DE』はフロントに21インチホイールを装着。前後サスペンションのストロークもシリーズ中最長であり、それはオフロードへのより強い意欲を感じさせるものであった。

また同時に新開発された並列ツインエンジンを搭載するのは、V型では難しいとされる前輪荷重の確保と同時に、スイングアームを伸ばすことによる操安性の確保ならびにスライドコントロール性を高めたものだと推測出来る。イタリア・サルディーニャ島で2日間に渡って開催された試乗会においてその走りを検証した。

◆疲れにくく扱いやすいエンジン特性
スズキ独自のスズキクロスバランサーを採用した775ccの新型並列2気筒エンジンは非常にトルクフルかつスムーズであるのが特徴だ。270度クランクを採用したのは兄弟分である1050や、650の90度Vツインエンジンのフィーリングを取り入れたかったからとのことだったが、インパクトとしてはやや薄いというのが走り始めの第一印象であった。

しかし、2日間しっかり走行した後には、その優しさの恩恵をしっかり感じることとなったのである。刺激的なエンジンは数あれど、それが長時間の相棒として適切かと言われると疑問でもある。 800DEはVストロームのポリシーに則って疲れにくく、それでいて無機質にならない個性もちゃんと備えている。

極低回転域からフラットに湧き上がるトルク。中回転域では心地良い鼓動感も味あわせてくれるが、それは嫌味なものではなく振動もしっかり抑えられている。それでいて、開ければ淀みなく吹け上がるパワフルさを持っているかなり万能な性能を持つ。

エンジンモードは3種類あり、アクセル操作に対する反応や出力特性が変更される。トラクションコントロールやABSにも複数のモードがあって、それぞれ単独で設定することが可能。ライディングモードをスポーツであるとかツーリングに設定することで、トラコンやABSがデフォルトで設定されるのではなく、それぞれを個別で設定する必要があるが、慣れればむしろ好都合なことも多いと感じられた。

この前後長を非常にコンパクトに設計されたエンジンを搭載することにより、車体設計の自由度が増したというが、オフロード性能を意識し過ぎてオンロードでの走りをスポイルしていないのが嬉しいところであった。

◆路面と状況を選ばない快適な走り
闇雲にスポーツ性を追求するのではなく、安定性からくる快適さを絶えず感じさせる設定。21インチモデルでありがちな、やや心許ないフロント周りの接地感とは異なる安心感をしっかりと備え、ワインディングでもかなりのペースで走行しても破綻する兆候もない。前述したエンジン性能と相まって、快適に長く走ることを快く許容してくれるキャラクターである。

実はオンロードを走行している際には、この安定感がどのようにオフロードで作用するのか少し心配でもあった。もしかするとオフロードでは自由度が少ないのでは?しかし、路面が土に変わったところで、その印象に変わりはなかった。

状況が変化したところでライダーへの影響が少なく、走りの組み立てを大きく変える必要がない。これこそがオールラウンダー。アドベンチャーマシンの本来の姿であるかのような振る舞いにも感心したのである。

ベクトルがややオフロード方向に向けられたのは確かである。しかし、それはより幅広いシチュエーションに対応したからこそのもの。万人に愛されるキャラクターはここにもしっかり受け継がれていたのである。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★

鈴木大五郎|モーターサイクルジャーナリスト
AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。

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