ヤリスクロス GR SPORT(左前)とアクア GR SPORT(右前)を比較試乗《写真撮影 中野英幸》

◆“GR SPORT”はノーマル車と何が違うのか?
トヨタブランドの市販車をベースに、モータースポーツで得た知見をもとに商品開発を行なっているというGR SPORT(GRスポーツ)。GRブランドの世界観をより多くのユーザーに広める役どころを担ったシリーズだ。

GRの説明によれば「ベース車もGRスポーツも、それぞれユーザーが求めている車両特性、価値観に沿う形で存在しているもので、どちらかがどちらかよりいいということではない」とのこと。つまりグレードの上下ではなくキャラクター違いとしてベースグレードとGR SPORTは存在しているという訳だ。目下GR SPORTの国内ラインアップは全6車種。『アクア』、『ヤリスクロス』、『CH-R』、『ハイラックス』、『ランドクルーザー』、そして『コペン』と、SUVや軽自動車まで幅広いカテゴリーのモデルが用意される。

ちなみにGR SPORTでは、“意のままの走り”と“機能美”を2大テーマとしている。走りについてはハンドリングに重点を置き、走らせる楽しさを強化。具体的には、人をクルマ作りの中心にし、クルマとの対話を目指して、外乱・操作に対し車両の反応が安定していて安心であることと、操作に対し車両の反応が意図通りで自然なことを重視。ハンドリングを重視した走る楽しさの強化を図っているという。もうひとつ、機能美については、機能の本質に根ざしながらも見る人を魅了し、感情に訴えるスタイルがテーマだ。

今回の取材は、『アクア GR SPORT』(2022年11月登場)と『ヤリスクロス GR SPORT』(同年8月登場)の2台。それぞれノーマルグレードと比較する形での試乗が叶った。するとノーマルグレードに対して「なるほど」と納得させられる違いが実感できた。

◆『アクア GR SPORT』はハンドリングカーの王道を行くスポーティさ
まずアクア GR SPORTだが、このクルマはズバリ“走りのしっかり感”と“旋回性能”を主眼に開発されたという。そのために床下トンネル部に2本のブレース、さらにリヤバンパーリインフォースを追加し操縦安定性の向上を図っている。

サスペンションでは、コイルスプリング、ショックアブソーバー、バウンドストッパーを専用化したほか、フロントのロアアームブッシュはGRヤリスのそれを流用し、スタビライザーも剛性アップを図り、リヤ側では溝付きワッシャボルトの採用で、これも剛性感の向上に寄与させている。タイヤはBSのポテンザRE050A(サイズは205/45R17)を採用している。

さらにEPS(電動パワーステアリング)もPOWER+モードを専用のマップとしたほか、Dレンジ・アクセルオフ時の減速度も約0.1Gと強め。Eco、ノーマルモードもGR SPORT専用の特性としている。

それとアクアGR SPORT専用の外観デザインもこのクルマの大きな魅力。前後バンパー、サイドスカート、ドアミラー、アルミホイールがGR SPORT独自だが、GRらしい、シンプルでクッキリとしたデザインに好感がもてるし、ノーマル車と大きな差異がひと目見てわかる。ドアサイドのプレス形状に繋げたフロント部のポンツーンは揚力を抑える効果を発揮しているという。インテリアではフロントシートの形状変更などが行なわれている。

そして走りは、GRの説明を聞くまでもなく、手応えのあるものだった。「乗り心地は優先順位を落としている」(GR)というとおり、路面に段差があった場合など、そのショックは明らかな大きさで伝わる。が、それはタイヤを含めたサスペンション系、ステアリング系、ボディの剛性が高いからこそといったところ。走らせていると、シーンを問わず確かな接地感が伝わり、ひたすらドライバーの操作と意志にあくまでクルマが忠実に応答遅れなしに反応してくれる……そんな実感が伴う。

現行のアクアのベース車は欧州コンパクトカーと同様の快適な乗り心地と素直な操縦性が持ち味だが、GR SPORTはハンドリングカーの王道を行くような仕上がりぶりで、パワー感も小気味よく、今回は限られた時間の試乗(しかも雨にも見舞われた)だったが、クルマを走らせることに歓びを感じるドライバーであれば、走り込むほどにその奥深さに魅了されていくはずと思えた。

◆快適性、上質感を1ランク高めた『ヤリスクロス GR SPORT』
もう1台のヤリスクロス GR SPORTは、スタイル(GR SPORT専用デザインが施されている)、実用性はベースモデルの良さを活かしつつ、運転そのものが楽しくなるクルマに仕上げられた。とくに軽快で安心感のあるハンドリングとソリッドで収まりのいい乗り心地によりクルマとの一体感が実感できるようにしたのがポイントだ。そのためにサスペンション系では、フロントにGRヤリスと共通のブッシュ、補強パッチ、リヤには剛性感を高める目的で溝付きのワッシャボルトを使い、フロントとのバランスを取るなどしている。

またボディは、フロアトンネル部2箇所とリヤ下部の3箇所にブレースを追加することで剛性感が高められた。そのほか電動パワーステアリングの専用チューニング、ハイブリッド車ではバネ上制振制御をスポーティ側に振ることでピッチングを抑制したという。

さらにパワートレーンにも手が入り、アクセルストローク、駆動力変化、加減速が意のままに感じられるようにし、リニア感も重視。これらのためにモーターの過渡特性を最適化し、アクセル応答を向上させた高応答パワートレーン制御を導入。ねじり剛性を約1.5倍に上げたドライブシャフトも新規採用されている。

実際に走らせた印象は、アクア GR SPORTがベース車を大きくスポーティ方向に振っているのに対して、ヤリスクロス GR SPORTは、ベース車が元々持っているキャラクターにより磨きをかけ、快適性、上質感を1ランク高めたクルマになっていることを実感した。

筆者はベース車の上質感もなかなかのものとは思うが、GR SPORTに乗り換えると、理屈抜きでクルマそのものの安定感が増しているのがわかるし、パワートレーン系の制御が入ったことで駆動力がスムースに発生、そのことが加減速時でもクルマの挙動を乱さないことにも貢献している点もいいと感じた。とにかく自分の“こう走らせたい”という意志に対して齟齬のないクルマの反応が自然で気持ちよく、いわばオトナのGR SPORTといったところだ。

■5つ星評価
・アクア GR SPORT
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

・ヤリスクロス GR SPORT
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。

アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT(左)とヤリスクロス GR SPORT(右)《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ノーマルのアクア(左)とアクア GR SPORT(右)《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 アクア GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT(左)とノーマルのヤリスクロス(右)《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT(左)とノーマルのヤリスクロス(右)《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 ヤリスクロス GR SPORT《写真撮影 中野英幸》 島崎七生人氏《写真撮影 中野英幸》 GR SPORTラインアップ《写真撮影 中野英幸》 GR SPORTラインアップ《写真撮影 中野英幸》