日産 エクストレイル 新型(AUTECH)《写真撮影 中野英幸》

2022年7月20日に日本デビューとなった新型『エクストレイル』。全車にVCターボエンジン+e-POWERを採用し、4WDには『アリア』にも搭載された「e-4ORCE(イーフォース)」を採用した。

オフロードのトラクション向上、オンロードのハンドリング向上、そして乗り心地の改善まで、4輪の駆動を自在にコントロールすることができる、日産渾身のアイテムである「e-4ORCE」。はたしてe-4ORCEのメリットとは?他社の4WD制御とはどこが違うのか?開発に携わったエンジニアに話を聞いた。

「4WDが8割」のエクストレイルこそ必要な技術
お話を聞いたのは、パワートレインEV技術開発本部エキスパートリーダー・企画先行技術開発本部技術企画部担当部長 平工良三氏、そして、車両計画・車両要素技術開発本部 車両計画・性能計画部 操安乗心地性能計画グループ主管 富樫寛之氏。両名とも、多種多様な日産車の走行性能を見て、取りまとめをおこなうエキスパートエンジニアだ。

4WDといえば、かつては、雪道や雨のような滑りやすい路面でのトラクション確保が主目的だった。それは今でも変わらず4WDのメリットなのだが、昨今はどのメーカーでも4輪の駆動制御が進歩しており、ドライのオンロード路面で、「クルマの回答性を高める」といった目的でも使われるようになっている。日産のe-4ORCEも、4輪に理想的な駆動力配分を行うことで、オンロードからオフロードまで、オールラウンドで走破性を高めることが狙いだ。

e-4ORCEを最初に採用したアリアは、どちらかといえば、オンロード志向の都会派SUVであったため、「2WDでもよい」というユーザーも多いようだが、先代モデルの4WD販売比率が8割だったエクストレイルは、その「オールラウンドでの走破力」が求められるクルマであり、e-4ORCEはエクストレイルにこそ必要な技術といえる。

駆動トルクの制御でヨーモーメントをコントロール、さらには乗り心地も改善する制御
平工氏によると、「e-4ORCE」は、簡単にいうと、4つのタイヤが駆動する力を変えて、ドライバーの意図通りにクルマの向きを変えたり(変えなかったり)、車体のピッチングを抑えて乗り心地をよくする制御技術のこと。前後モーターと左右ブレーキで各輪の駆動トルクを緻密に制御することで、旋回時のヨーモーメントをコントロールしているそうだ。

アクセルオフ時には、フラットな姿勢を保つよう、前後輪の制動力をコントロールすることも可能。制動時のピッチングを抑えこみ、乗り心地が良くなったように感じるという。

だがこの手の駆動制御は他のメーカーでも行われている技術であり、別段、目新しいものでもない。トヨタ『RAV4』に搭載の「ダイナミックトルクベクタリングAWD(ガソリン4WD)」や「E-FOUR(ハイブリッド4WD)」、ホンダ『CR-V』搭載のリアルタイムAWDも、後輪への駆動トルク配分によって、悪路でのトラクションやコーナリング性能向上を行っており、実際そうした電制4WD車は、滑りやすい路面では抜群の安定感を誇る。しかしe-4ORCEは、これらとは少し違う。

「FFとFRのいいとこどり」が可能
富樫氏によると、e-4ORCEの特徴は、リアモーターの絶対出力が大きいことだという。エクストレイルe-4ORCEの場合、フロントモーター150kW/330Nm、リアモーターは100kW/195Nm。『ノート』比で、フロントは1.2倍、リアは1.9倍も高出力になる。滑る路面で挙動を安定化するだけならば、正直、これほどのリア側出力は不要。例えば、RAV4ハイブリッドのE-FOURのリアモーターは、40kW/121Nmの出力であり、新型エクストレイルe-4ORCEの半分程度でも十分だ。

(参考)
・エクストレイルe-4ORCE:FRモーター(150kW/330Nm)、RRモーター(100kW/195Nm)
・アウトランダーPHEV:FRモーター(85kW/255Nm)、RRモーター(100kW/195Nm)
・RAV4 ハイブリッド:駆動力 FRモーター(88kW/202Nm)、RRモーター(40kW/121Nm)
・アリアB9 e-4ORCE 最高出力290kW、最大トルク600Nm ※前後配分は未公表

富樫氏は、「e-4ORCEの強みはFFとFRのいいとこ取りができること」だという。e-4ORCEが目指したのは、どんなシーンでも加速しながら曲がっていけることであり、特にスノー、ウェットで信頼できることだそうだ。

e-4ORCEは0:100から100:0までトルク配分可変だ。これ自体はほかのモデルでもできることだが、リアモーター出力が大きいと、例えば、上り坂のコーナーでリアに荷重が乗っている場合、リア側の100kW(135ps)を主体に駆動することで、すばやく加速ができる。また下り坂のコーナーでも、フロント側はクルマの向きを変えることに特化し、リア側主体でトラクションをかけることで、外側にラインが膨らむことなく、狙い通りのライントレースができる。まさにFR車のコーナリングのメリットだ。

もちろん、平地での加減速や高速走行のときには、フロント主体で駆動することで、高い直進安定性が望める。実際には、FFとFRがスイッチのように切り替えているわけではなく、シームレスに制御をされており、「運転がうまくなった」感覚になるそうだ。

アリアの最強モデルB9 e-4ORCEが日産の「本気」?
ちなみに、安心感が欲しい人は、街中でもスノーモードにするとよいらしい。e-4ORCEが100%介入するモードとなり、悪路・雪道・アスファルト・砂利道など、どんな路面でも絶対的な安心感を味わえ、また、絶えず制駆動時の姿勢制御もしてくれるので、乗り心地がとても良くなるそうだ。

e-4ORCEでいえば、まだ公開されていないアリアの最強モデル「B9 e-4ORCE」も注目だ。システム出力は、290kW/600Nm(前後バランスは未公開)級であり、エクストレイルを上回る後輪側出力となるはず。日産本気のe-4ORCEは、今夏デリバリー予定の「B9 e-4ORCE」で見ることができるだろう。

日産 エクストレイル 新型(AUTECH)《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型(AUTECH)《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真提供 日産自動車》 日産 エクストレイル 新型《写真提供 日産自動車》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 エクストレイル 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 アリア e-4ORCE《写真提供 日産自動車》 日産 アリア e-4ORCE《写真提供 日産自動車》