トヨタ アクア 新型《写真撮影 中野英幸》

ヤリスとは違う「小さな高級車」
新型『アクア』に対面し、そして試乗してみると、飛躍的な進化に驚かざるを得ない。

外観は、初代アクアの印象を残しながら、より美しく上質になっている。試乗の折にレストランの駐車場で新旧を比較する機会を得た。初代も特徴ある姿だが、新型は外観の造形の面構成により凝った抑揚ある美しさを、5ナンバーの枠の中で見事に仕立てた様子を確認することができた。

室内も、見栄えがよくなり、上級車のような居心地だ。運転していて、もはや単なる実用車としての小型ハッチバック車とは思えず、かつてトヨタが『プログレ』の導入で形容した「小さな高級車」の趣がある。空間のゆとりについては、鈴木啓友チーフエンジニアのインタビューに詳しいが、これで十分という気持ちにさせ、なおかつ5ナンバー車であることが国内の交通事情に最適であることも実感させる。

くわえて注目すべきは、後席の快適性と乗降性のよさだ。コンパクトハッチバック車の実用性に関わるところで、初代に比べ明らかに後席のゆとりが増え、また乗り降りする際の容易さへの配慮は、高齢者にもやさしい。この点は、『ヤリス』と大きな差を感じるところだ。

バイポーラ型ニッケル水素バッテリーが実現した上質
走りだして驚くのは、静粛性と上質な乗り心地である。

静粛性をもたらす要素の一つが、バイポーラ型ニッケル水素バッテリーの採用による、モーター駆動領域の増加だ。市街地を走行している間はほとんどエンジンの始動する様子はなく、電気自動車(EV)のような運転感覚を味わえる。ここは日産のe-POWERと同様だ。

同じ点は、トヨタが「快感ペダル」と呼ぶアクセルのワンペダル操作にもいえる。トヨタと日産ではハイブリッドシステム方式が異なるので、モーター走行やワンペダル操作の利用領域に違いはあるが、それでも、日常の走行では同じように扱える。この走行感覚は、これまでのトヨタのハイブリッドシステムでは味わえなかったところだ。

パワートレーン開発の主査は、「ヤリスとの差別化を目指したかった」と語り、豊田自動織機で開発中のバイポーラ型ニッケル水素電池の情報を手に入れ、これで「エンジンが掛った際のCVTのように車速とエンジン回転が不一致な点を解決でき、走りの喜びを広げられる」と、語る。ワンペダル操作は、ペダル踏み替えの懸念を減らし、ことに高齢者の運転の不安をやわらげることにも役立つ。

国内専用車だからできた乗り心地と走行性能の調和
乗り心地はしっかりとした手ごたえがあると同時に、ゴツゴツするような硬さがなく、これもまた上質さの一つだ。製品企画の主幹は、「ヤリスより車両重量が重くなっているにもかかわらずあえてバネ定数を柔らかく設定し、同時にダンパーの減衰力調整でしっかりした走行性能を出している」という。微振動の領域を調整するスイングバルブという機構を備えたダンパーが、それを実現した。「車体剛性が上がったことも、ばね定数を下げることに役立っている」とも説明する。

この乗り心地と走行性能の調和は、新型アクアが国内専用車であることも実現の背景にある。ヤリスのようなグローバルカーは、各地域の路面状況が異なるので、新型アクアのような作り込みをできない面があるとのことだ。

それらを含め、見栄えも走りも乗り心地も、そして乗降性や荷室の積載性などを含め、新型アクアは全方位で満足度の高いコンパクトハッチバック車に仕上がっている。しかも、価格も手に届きやすい範囲にある(198万円から)。褒め過ぎと言われるかもしれない。だが、それでも感動を呼ぶ小型ハッチバック車だと、正直おもう。

■5つ星評価

パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988〜89年FL500参戦。90〜91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。

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