日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》

2020年11月24日の新型『ノート』発表から1週間、遂に、新型ノートへの試乗の機会を得た。

3代目となるE13ノートは、「新生・日産」を代表するクルマであり、日本市場の再強化を行ううえで、屋台骨の一本となるコンパクトカーだ。そのため、失敗は許されず、日産の開発陣の気合も、並々ならぬものを感じる。

今回は、この新型ノートに搭載された第2世代e-POWERの実力や、走行性能の進化に迫ってみようと思う。

◆第一世代e-POWERとは全く違う世界観がある


試乗車は最上級のXグレード(税込218万6800円)、16インチタイヤを履いたモデルだ。今回は、日産のクローズドコース「グランドライブ」(ちなみに新型ノートの生産は追浜工場で行われる)での試乗のため、一般公道よりも路面の凹凸が少なく、好条件での試乗体験であることは、始めに説明しておく。

新型ノートのドライブモードはECO、NORMAL、SPORTの3種類。それぞれにBモードを備えるので、計6通りのドライブモードとなる。なお、エンジン起動時の標準設定は、今回から「ECO」になった。ECOとはいえ、現行e-POWERのS(スマート)モード並を目指しており、加速力や減速力において、現行ECOのもたつくイメージは一切ない。



走り始めてすぐに感じるのが、ゼロ発進時のなめらかさと浮遊感だ。『フィットe:HEV』や『ヤリスハイブリッド』も、EVモードでのスタートでは、ほぼ無音で動き出すのでなめらかさはあるのだが、新型ノートの場合、20km/hくらいまでの速度域で、「フィーン」という独特の電子サウンドが伴う。

それが、まるで浮遊しているような印象を与えてくれ、発進時のフィーリングを一層滑らかに感じさせてくれる。日産担当者によると、新型ノートでは、目に見えるところのデザインと共に、音響デザインにもこだわったそうだ。新型ノートは、現行ノートとは全く異なる世界観を感じられる。これは乗ってみないと分からない感覚だ。

◆アクセルオフ時の減速のなめらかさに感動


強めの加速をすると、エンジンも強めに回転するのは、現行ノートe-POWERと同じだ。アクセル全開時は、決して静かとは言えないノイズが生じるが、その大きさは現行ノートよりも遥かに小さい。コストがかけられないコンパクトカーである新型ノートだが、一クラス上の『キックスe-POWER』並には抑えられている印象だ(誉め言葉だ)。

また発電時のエンジンの音質も、現行ノートの「ガーガー」という芝刈り機サウンドから、「グォーン」という澄んだ印象に変わっている。最も懸念していたエンジンノイズのレベルや音の質感は、十分に合格点だといえるだろう。

そして、減速時のフィーリングも優秀だ。具体的には、アクセルオフから減速に入る瞬間の、制御の所作が素晴らしい。ラフにアクセルペダルを離しても、段付きのような減速Gにならず、なめらかな減速となるよう、制御ができている。担当者によると、ジャーク(加速度の変化度合い)が小さくなるよう、入念な走行テストを繰り返したそうだ。スペック表には現れないこうした部分は、磨き込みが非常に難しく、開発も試行錯誤だったそうだ。

◆乗り心地とロードノイズはトップクラスに進化、コーナリングはNISMOへ


現行ノートは、高速直進性とコーナリング性能が魅力だ。やや引き締められた足周りによって、乗り心地は硬めではあったが、今年モデルチェンジしたばかりのフィットやヤリスに対しても、十分に戦える逞しさを備えている。

しかし、今回の新型ノートでは、やや乗り心地性能に振ったセッティングがされている。カーブでのロールやピッチングといったボディモーションは、現行ノートよりもやや大きく、レーンチェンジ時のリアの流れも、現行ノートよりも大きめだ。おそらく、転がり抵抗低減を重視したエコタイヤが影響していると考えられ、これらはタイヤを変えれば化けるだろう。

また終始、軽めのステアリング操舵力であり、据え切りや低速取り回しは至極、楽だ。だが、速度が上がればステアリング中立位置へ戻る力はしっかりと出ており、シャシーの出来の良さを明確に感じる。

路面突起との当たりの柔らかさ、といった乗り心地性能は、すこぶる改善している。突起も「タンタン」と軽い音で乗り越えてゆく。静粛性の高さが自慢のフィット並にインパクトノイズも抑えられており、ロードノイズも、テストコース内を走っている分には、殆ど気にならないレベルであった。


ノイズが静かになったのには、クルマの土台となるプラットフォームの進化がある。新型ノートでは、新開発の次世代上級小型車向けプラットフォームを採用し、現行ノートに対して、ボディ剛性30%も向上した高強度・高剛性ボディ、高遮音パッケージング、高剛性サスペンションなどが織り込まれている。

通称、「CMF-B」と呼ぶプラットフォームは、欧州市場で戦う2代目『ジューク』やK14『マイクラ』にも採用されてきたもので、欧州地域で人気のルノー『ルーテシア』も共用する、高いポテンシャルを持ったプラットフォームだ。

なお、担当エンジニアへ足周りの緩さを確認すると、一般道での快適性を重視する日本市場にアジャストし、確信犯的にセッティングを変えているという。「これでは物足りない」というドライビング好きな方には、おそらくこの後に登場するであろうNISMOに期待してほしい。

◆まだ見ぬ進化版プロパイロットの実力次第では「傑作」になりうる


新型ノートのファーストインプレッションとしては、ヤリスやフィットに乗ったときの驚きを超えている。特に、第2世代e-POWERの所作の良さ、浮遊感を感じられる室内サウンド、そして弱点でもあった乗り心地とロードノイズの改善、この3点によって、「質感の高い走り」を実現している。内外装といった見栄えを変えた以上に、中身もきちんと進化しているのは、短い試乗時間であったがよく分かった。

残すは改良版プロパイロットの実力だ。正直なところ、プロパイロットという名前に負けている日産車が多く、がっかりもさせられてきた。日本専売車となった新型ノートは、どれほどのレベルに達しているのか。今後の公道試乗にて、しっかりと見定めたいと思う。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

吉川賢一|自動車ジャーナリスト
元自動車メーカーの開発エンジニアの経歴を持つ。カーライフの楽しさを広げる発信を心掛けています。

日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型。右はノート オーテック《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 新型ノートのドライブモード切り替えスイッチ《資料作成 吉川賢一》 新型ノートのドライブモードと加・減速強さのイメージ。ECOとSPORTは、減速時にDレンジで強めの減速をする設定だが、NORMALは、減速度をあえて弱めの設定とし、一般的なレベルでクリープによる操縦をやりやすくした《資料作成 吉川賢一》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 日産 ノート 新型《写真撮影 中野英幸》 吉川賢一氏と日産ノート新型《写真撮影 中野英幸》