トヨタ クラウンスポーツ RS(PHEV)《写真撮影 宮崎壮人》

HEVのクロスオーバーとスポーツ、そして燃料電池車をも含むセダンと、単一モデルでなく「群」としてワイドに、かつ厚みをもって展開を続けるトヨタの新型『クラウン』。昨年末、第2弾モデルの『クラウンスポーツ』(正式名称はクラウン(スポーツ))にPHEVが加わり、今回試乗が叶った。

◆女性や若者に選ばれるクラウンがついに
まず試乗車の「スポーツRS」というPHEVモデルの外観について、既存のHEV「スポーツZ」との違いを述べておこう。ブラックのルーフにエモーショナルレッドIIIという鮮烈なツートンを訴求カラーとしている以外に、デザインや意匠の差異はない。塗装ではなく金型を細かく磨くことで、黒いプラスチック素材そのもので表現されたフロントアンダーグリルからスポイラー、サイドスカードにリアディフューザーの色艶は、PHEVにも健在だ。

だがHEVと見た目の印象がかなり異なる理由は、足元にある。235/45R21に8.5Jというサイズこそ共通だが、標準装備ホイールがマットブラック塗装で矢羽根のようなスポークが交互に入る10本スポークが、ひとつめ。ふたつ目は、ホイールの奥に覗く、PHEV専用に赤く塗装された20インチ対向6ピストンアルミキャリバーだ。

HEVモデルの車両重量1810kgに対し、PHEVは2030kgと+120kg増。より容量の大きなリチウムイオンバッテリーを積んで、動力面で然るべきパフォーマンスと航続距離を確保するためだが、重量増に応じて制動キャパシティを増やすのは、単なるトッピングではなくクラウンスポーツとして王道を感じさせるチューニングといえる。

しかしアピアランスで外観以上に際立つのは、インテリアだ。ここにも専用カラーのレッドがあしらわれ、大胆にもアシンメトリックつまり左右非対称となっている。レッドの素材はラスターと呼ばれる人工皮革。センターコンソールから伸びたこのレッドが、水平基調のダッシュボードで上下に分けられつつ、助手席シート側を包み込むような演出は、エクステリアのフロントヘッドライト、例のハンマーヘッド・モチーフとも巧みに韻を踏んで、とても効果的だ。年配の男性以外に、女性や若い人にマイカーとして選ばれても違和感のない空気感を、いよいよクラウンが…そういう華のある静的質感にまとまっている。

惜しむらくは、ドアノブの素材感がいかにもプラスチックで、毎日毎回触れる部分だけに、欧州Dセグ辺りの輸入車と比べて触感で見劣りすること。またレッド・ラスターの演出がリアシート側にはなく、シートベルトだけが同色レッドであること。もちろんフロントシート側の2座にプライオリティのある車ゆえ、この演出でいいと解釈もできるし、「デートカー」の復活を歓迎する一定の(年配)世代もいるだろう。とはいえスポーツでもクラウンだからこそ、天井側の抉られた頭上と広い足元スペースでもってリアシートも望外に広く快適だからこそ、「さすがクラウン」の域を求めてしまうのも、確かなのだ。

◆重量を味方につけたしっとり感と、リニアで無駄がないパワー感
「走りについては、“クラウンネス”という言い方を開発チームではしているのですが、静粛性や快適性をDNAとしてベースとして織り込みつつ、各モデルの個性に合わせたチューニングをしています。スポーツは俊敏性を重視していて、喩えですが快適性スペシャリストのセダンとは対極にありつつ、足まわりが固いばかりがスポーツではないことを、感じていただきたいですね」

と、ミッドサイズ製品企画 ZS主査を務め、クラウンスポーツを担当してきた本間祐二氏は述べる。

より身体を包み込むようなショルダー部のサポートを備えた、これまたPHEV専用装備のスポーツシートに身を預け、いざ走らせてみた。ステアリングは徐行〜低速域ではかなりしっかり目だが、速度域が上がるにつれ自然な手応えで、ドライブモードをスポーツにしても横っ飛びするようなわざとらしいゲインではない。乗り心地も低速域からしなやかで、増えた重量を味方につけたようなしっとり感が印象的だ。

2.5リットルダイナミックフォースエンジンに前後それぞれの車軸に駆動モーターが組み合わされたパワートレインは、システム総計で最大225kW(306ps)と、HEVモデルの172kW(234ps)に対し約3割増し。とはいえ400ps超がデフォルト化したハイエンド欧州車PHEVに比べると、ごく控えめな数値に見える。だが、公道の限られた範囲でフル加速を試してみたら、薄皮が剥がれていくかのようにクラウンスポーツPHEVは本領を発揮し始めた。

加速では、恐ろしくスムーズで豪快、かつ爽快な伸びを見せる。無論、トップエンドまで試すことはできなかったが、電気モーターならではのトルク・レスポンスの鋭さと、いつエンジンと動力が切り替わったか分からない繋ぎの滑らかさ、それらを支えるトルク密度の緻密さは、トルクをトルクでオーバーラップして足し算式に打ち消すような欧州車PHEVのパワー感と、明らかに異なる。だからリニアで無駄がない。もちろんE-FourによるAWDで、ドライブモードをスポーツにすればパワー感も駆動の力強さもさら増しとなる。それでもEVモードでの最大航続距離は、カタログ値ながら90km、WLTCモード燃費は20.3km/リットルと、21.3km/リットルのHEVモデルに遜色ない数値を掲げている。

◆抜きん出た世界観をもつ一台
いわばクラウンスポーツPHEVの動的質感は、ギャンギャンに駆り立てたくなるというより、「高品位なスポーティさ」というべきもの。キレイに走らせるのが楽しいタイプだ。ブレーキペダルの制動タッチのリニアさと調節しやすさ、舵を入れてロールするまでのしなやかさ、安定した加速からの駆動フィールは、速度域に関わらず情報量リッチで濃密。じつはフロアトンネルにもブレースが追加され、ボディの背骨ごとHEVモデルより強化されており、これも操作感覚の忠実さ、リニアさの底上げに繋がっているだろう。

4輪独立でソレノイドバルブ式ショックアブソーバーの減衰力を制御するAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)や、速度域によって前輪操舵に対し逆相・同相を切り替えるDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)による後輪操舵のような、最適化デバイスも無論効いている。が、それらはあくまで黒子に徹し、走る・曲がる・止まるに関して、ドライバーに不自然さを感じさせることがない。

「それはテストドライバーたち、匠の徹底した走り込みによるセッティングによるものでしょう。とにかく人工的に造られたような挙動がないよう、制御していますから」と、本間氏も念を押す。

いずれトヨタらしい万人にケアフルな仕上がりに、ハイエンド欧州車のPHEVを凌ぐ高効率と独自のスポーツ性を加えた完成度には、瞠目すべきものがある。

ただドライバーズカーとしてもうひと磨き欲しかったのは、インフォテイメント周りだ。アンドロイドやカープレイへの対応、ナビや緊急時のコネクトといった機能面では、ひと揃い以上だが、ラジオや音楽再生のような基本機能の表示デザインや操作インターフェイス、ウィザードやアニメーションといった部分に、改善の余地があると思えた。ただそれは裏を返せば、ICEやEVを見渡しても、クラウンスポーツPHEVは抜きん出た世界観をもつ一台だからこそ、さらなる高みを求めてしまうということだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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