
新しい『クラウン』はバリエーションで勝負? 発表の時から4車種がラインナップされることは解っていたが、そのしんがりを務めるのが『エステート』である。
昔のクラウンだってエステートは存在したが、今回のエステートは相当に異質である。このエステート、一般的にはステーションワゴンと呼ばれるケースが一番多いと思う。まあメーカーによっては他に、単にワゴンと呼んだり、フランス系ではブレーク、そしてVWなどはヴァリアントなどとも呼ぶ。いずれの場合も、セダン系のボディ後半部のルーフを引き延ばして大きなカーゴスペースを作り出しているので、デザイン的には前半部が完全にセダン、そして後半部が商用バン的に見えるスタイルだ。
その昔日本ではこの商用バンをライトバンと呼び、それゆえに商用車と区別がしにくかったことから、ステーションワゴンは人気がなかったが、80年代にボルボのワゴンが人気を得て、横文字系の職業の人が好んで使うということ(単なる噂かもしれないが)から、爆発的な人気を呼んだ。しかし時代と共にSUVに淘汰されて、少なくともアメリカなどでは今は全く人気が無くなってしまった。
◆外観に似合わず、エステートを名乗るに相応しいユーティリティー今回新しいクラウンのエステートは、従前のステーションワゴン風とは趣を異にしていて、まあ言ってみればワゴン風SUVであろうか。セダンはともかくとして、「クロスオーバー」と「スポーツ」、それに今回のエステートはどれも車高が高く、SUV風を作り分けている。それにしてもあの手この手で、作り分けているものだ。
例えばセダンは縦置きエンジンの基本FRのレイアウト。他はすべてエンジンが横置きで、ベースはFWDである。このFWD組でもまあ細かい部分は似て非なるところがあるのだが、比較的背が高いSUV風という点ではクロスオーバーもスポーツも、そしてエステートも同じなのだが、クロスオーバーはセダン同様独立したトランクを持ち、スポーツとエステートはテールゲートを備える。だから当然ながら使い勝手としてはスポーツやエステートの方が良いと言えると思うのだが、スポーツはその名の通り走りを優先している関係で、ボディがコンパクト(若干ではあるが)に作られている。
で、件のエステートである。3車を並べてみたわけではないけれど、いずれも似たようなデザイン・テイスト(クロスオーバーは少し違うが)であって、インテリアのスペースに大きな違いはないだろうと高を括っていたが、どっこい、テールゲートを開けて驚いた。流石にラゲッジスペースが広いのである。
かなり奥行きがあって、これならもしかするとゴルフバックを縦に積めるのでは?と思えるほど。しかも当然ながらリアシートは降りたため、さらにそのリアシートバックレストには、折り畳み式のいわゆる拡張ボードが装備されて、シートをたたんでさらにそのボードを出すと、2mに達する巨大なスペースを生み出せるから、外観に似合わず、エステートを名乗るに相応しいユーティリティーを備えている。
◆走りそのものに違いを見出すのは難しいが今回お借りしたのは、「エステートRS」というグレードだが、ドライブトレーンは2.5リットル直4とモーターの組み合わせのPHEV。バッテリーは18.1kwhを搭載し、カタログ上のEV走行距離は89kmとなっていたが、実際には70km程度が現実的な走行距離である。それでもロングドライブでない限りは、サンデーツーリング程度でも片道は優にバッテリーだけで事足りてしまう。
正直なところ、エステートであろうが、スポーツであろうが、あるいはクロスオーバーであろうが、走りに違いを見出すのは難しい。とりわけRSというグレードは、どちらかといえば走りに振ったモデルではあるのだが、ドライブモードでノーマルをチョイスして走ると実に快適である。
因みにドライブモードはカスタム、スポーツ、ノーマル、エコ、それにRrコンフォートの5種類で、Rrコンフォートはリアのコンフォート(快適性)を高めるモード。残念ながら後ろに座っていないので、確かめることはできなかった。スポーツをチョイスすれば明確にステアリングの重さと操舵感覚が変わるが、足の硬さについては一般道を普通に走る限り違いは感知出来ない。
タイヤは21インチのミシュラン・プライマシーである。写真で見るとなんとなくポジキャンバーが付いているような印象に写っているが、そんなことはないと思う。いずれにしても適度に快適で、十分に安心感がある。スポーティーかといえば、残念ながらそんな印象は受けなかった。
さすがにバッテリー搭載量が多いからか、お値段はクラウンシリーズで初めて800万円オーバーとなる810万円。オプションを加えた試乗車のお値段は825万5100円であった。
■5つ星評価パッケージング:★★★★★インテリア居住性:★★★★★パワーソース:★★★★★フットワーク:★★★★おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。








































