ルノー カングーディーゼル《写真撮影 中村孝仁》

昨年3月から販売が開始された新型ルノー『カングー』。先代も先々代もルノーの屋台骨を支えたルノー・ジャポンの主力モデルであった。そんなわけだから3代目(日本では)となるカングーに誰もが期待するし、当然ながらメーカーというか、インポーターも期待する。

で、イニシャルがどうなのかということになるのだけれど、カングーユーザーから漏れ伝わるお話によれば(あくまでも私個人が聞いた範囲での話であるが)、「普通になっちゃったよね…」とか、「日産車と間違えちゃうじゃん…」とか、「デカいよね…」とか、「もう買える値段じゃないよね…」等々、歓迎する話が聞けていない。

ライバルに対して絶対的な強みと思えていたガソリン、ディーゼルどちらも選べます、というメリットにしても、てっきりディーゼルに主力が移るかと思いきや、巷の噂に反してディーゼルが売れてない…だったりしたのでそこについて聞いてみると、これは間違いでガソリンとディーゼルに比率はほぼ拮抗しているそうなのである。

ただ、肝心のホントに売れているのか?という点になると、昨年のルノー・ジャポンの販売台数が7098台。対前年比で82.4%だったから、要は戻っていない…ということらしい。やはり巷に渦巻く噂はもしかすると当たらずとも遠からずなのだろうか?ということになってしまうのだが、実はライバルのシトロエンは対前年比100%以上を達成していて、あちらの主力は言うまでもなく『ベルランゴ』なので、少し旗色が悪い。

◆フランス車、だけどメリハリのある乗り心地
まあ、そんなことはあまり考えないようにして現行モデルとなって新たに追加されたディーゼル版にじっくりと乗ってみた。グレードは「クレアティフ」というグレードである。バンパー部分を無塗装としたもので、如何にもフランスの商用車的イメージをむき出しにしたグレードである。先代もどうやらこの無塗装に結構な人気があったらしく、この仕様は日本向けの特別オーダーによるものだということを聞いたような気がする。

先代の末期で実はディーゼルモデルが400台限定で発売された。瞬殺だったから、フルチェンジでてっきり人気車種になるかと思いきや、まあ半分程度。やっぱり値段なのかなぁ?と思う。何故って、モデル末期とはいえその時のディーゼルの値段は車両本体価格282万円。ニューモデルは419万円である。まあ抵抗感がないと言ったら嘘になる。ただ、ニューモデルは7速のEDC(デュアルクラッチトランスミッション=DCT)との組み合わせ。対する旧型限定車は6MTだった。

正直言って1週間ほど乗ってみるとそのEDCの発進にはもたつき感があると感じた。ガソリン車では発進のもたつき感はほとんど気にならなかったのだが、トルクのあるディーゼルだとそのあたりが少し違うのか、ステップATのようなメリハリ感がない。走り出してしまえば変速に対する不満は全くなくなるのだが、どうも発進時は気になる。

性能面でどうかというと、ベルランゴと比べて机上の性能は劣っているが、まあ互角と言ってよいと思う。最近のターボディーゼルはよく回り、ルノーのそれもレブリミットが5000rpmとそこそこ高めだが、ベルランゴのそれは5500rpmだからあちらの方がやはり少しだけよく回る。

不思議に感じられたのは、30km/h以下程度の低速域だと路面の不整から来る突き上げ感が大きめに入力されるのに対し、それ以上にスピードが上がってくると全くフラットな乗り心地に変わることだ。とかくフランス車の乗り心地はソフトで快適。旧型のカングーもまさにそれだったように記憶するが、新しいモデルはそうではない。好意的に見ればメリハリのある乗り心地で、その分ハンドリングが良くなっているという印象である。

◆ベルランゴを知っていると無いものネダリがしたくなる
300kmほど乗ってみて、その間我が家の足であるベルランゴに乗り換えてみると違いが鮮明だったのは、ペダルレイアウトだ。カングーの足元はホイールハウスに邪魔されてアクセルペダルが微妙に内側に寄っている。このためかブレーキペダルがドライバーのほぼ中心に位置するため、結果としてアクセルからブレーキに左足を載せ替えようとすると少し体が捩じられたような印象になるのだ。運転して違和感と感じたのはこれだけ。ハンドリングに関しては確実にベルランゴを上回るシャープさを感じさせる。

ドライバーズシートの頭上には例によって広い物入れが備わっているし、それだけにとどまらない収納の豊富さは文句なしである。ただ、ベルランゴを知る身としては、リアのルーフにつく大きな物入れが便利だったり、遊び心のあるモデュトップなどMPVとしての遊び心はあちらが上。こんなのがついていれば…とかいっそのこと先代にあったMT仕様を入れればいいのにとか、まあ無いものネダリに終始する。

ライバルに対して絶対的なアドバンテージは見出せなかったものの、この先仕様の違いが入ってくることで、動力源がチョイスできるメリットがアドバンテージになるような気がする。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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