トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》

◆「心躍るデザインは人を元気にする」
「このデザインを成し遂げたかった」と力説するのは、新生クラウンシリーズのデザインを手掛けた宮崎満則さん(トヨタ自動車 MSデザイン部 室長)。宮崎さんは続けて「心躍るデザインは人を元気にしますから!」と語る。

確かに『クラウンスポーツ』(トヨタは「新型クラウン」(スポーツ)と呼ぶ)のデザインは老若男女を吸い寄せる。どこかでこんな印象を抱いたなと思ったら、1993年に登場した4代目トヨタ『スープラ』だ。グラマラスなボディは今見てもドキッとする。そんな話を宮崎さんにしたら、「私が担当していました」という。スープラにクラウンスポーツ、なるほど見れば見るほど吸い寄せられる。

新生クラウン4兄弟は、最初に登場したクロスオーバーを原点に位置付け、フォーマルな「セダン」、アクティブな(トヨタは理性的で創造的と表現)「エステート」(ステーションワゴン)、そしてわかりやすく走行性能を高めモデルとして「スポーツ」を展開する。

パワーユニットは直列4気筒2.5リットルのハイブリッド(システム出力234ps)と、同PHEV(システム出力306ps)の2タイプで、いずれも後輪に独立型モーターをもつE-Four(4輪駆動)で揃えた。

◆カローラ並みの最小回転半径を実現した「DRS」の恩恵
今回試乗したのは、通常のハイブリッドモデル。クロスオーバー同様に後輪操舵機能であるDRS(ダイナミックリアステアリング)を備え、一体感あふれる走りを目指した(DRSはドライブモードとも連動)。

ダナミックとあるようにスポーツ走行時に大きく走行性能を高めるDRSながら、じつは駐車場での微速域や市街地走行でも有効に働く。たとえば後輪を前輪の逆方向に操舵することで、最小回転半径は5.4mにまで小さくなった(クロスオーバーも同じ値)。例えば、スポーツつながりである『カローラスポーツ』の18インチモデルは5.3mだから、21インチタイヤ&立派なボディサイズを考えれば、クラウンスポーツの取り回しがいかに良いかわかる。

ドライブモードをノーマルにした場合、60km/hまでは前輪と逆方向で後輪が操舵するが、ここではクロスオーバーよりも強めに後輪を操舵するという。これは最大角度が増えるというより、逆方向に切れている時間が速度域が広いというイメージだ。よって、市街地走行でもクイックな操舵フィールになり、「お、なんかクルマが小さくなったみたいだな」とドライバーは感じやすい。

スポーツモードでは、70km/hまで後輪を逆に操舵するも、70〜80km/hでは意図的に後輪を動かさない。そして80km/h以上では、前後輪が同じ向きに操舵される。

狙いはよくわかる。以前、クロスオーバーをテストコースで走らせたが、50〜80km/hあたりの中速域で、「ものすごーく、パキッと曲がる!」という印象を抱いた。試乗の様子は当レスポンス誌に寄稿しているので確認頂きたい。

対してクラウンスポーツでは、スポーツ走行時に限りDRS効果を弱めている。「素の乗り味を楽しんでください!」といわんばかりだ。残念ながら今回の試乗コースは滞路が大半だったので実力を発揮しきれなかったが、それでもノーマルモードで60km/hまでのスッキリとした走り、都市高速でみせたどっしりとした安定性はよく理解できた。

開発陣曰く「後輪サスペンションは大出力のFR(後輪駆動)モデルにも十分対応できるキャパシティがあります」というから、実力は次の機会に試してみたい。

◆後席の開放感はセダンよりも上?
PDA(プロアクティブドライビングアシスト)の新たな機能である「車線内走行時常時操舵支援」も効果的だ。メカニズム的には「単眼カメラやミリ波レーダーで、ドライバーの操作を先読みしてステアリング反力を変化させ、不要な操作や操作遅れを防止する」と、なにやら小難しい説明が続く。

でも運転してみると、システムのアシストは積極的かつ明快。直進路ではビシッとまっすぐ走るように、またカーブでは切り遅れや戻し遅れが起きないように反力(≒自分の操作とは逆方向の、滑らかで弱い力を電動パワーステアリングに介入させる)で運転をサポートしてくれる。唐突感はなく、本当に優しくフワッとシステムが介入するので、自分の運転が上手くなったように感じられる。ここも美点だ。しかもDRSとの相乗効果も高いから、いっそう走りが楽しくなる。

せっかくの市街地試乗だったので、後席でも試乗してみた。シートサイズや静粛性は、抜群の乗り味を誇るセダンに大きく劣るものの、開放感はスポーツが高かった。セダンで気になった頭とボディ内装材との距離もスポーツのほうが余裕があり、後席からの前方視界も広かった。

とはいえクラウンスポーツの本丸はPHEVモデルだろう。いずれ公道試乗のチャンスがあるだろうから、その際は今回のハイブリッドモデルとの違いがどこにあるのか、しっかりレポートしたい。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

トヨタ クラウンスポーツ(左)とクラウンセダン(右)《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ《写真撮影 宮崎壮人》 トヨタ クラウンスポーツ PHEV《写真撮影 宮崎壮人》 デザイナーの宮崎満則さん(左)と、チーフエンジニアの清水竜太郎さん(中央)。車両はPHEVのプロトタイプ《写真撮影 宮崎壮人》