スズキとダイハツが農業分野でタッグ。「第9回国際スマート農業EXPO」では2社の軽商用車がブースに並んだ。《写真撮影 宮崎壮人》

軽自動車市場でしのぎを削るライバル同士であるスズキとダイハツがタッグを組んだ。10月12日に開幕した「第12回農業Week」内の「第9回国際スマート農業EXPO」で、共同でブースを構えたのだ。ともに農家での需要が高い軽商用車を展示したが、手を取り合った理由とは。

農家の困りごとを解決するためのタッグ
実は同展示会でスズキとダイハツが共同展示をおこなうのは今回で2回目。その意図について両社は、「スズキ、ダイハツは、農家の皆様を中心にご愛用いただいている軽商用車を約60年間にわたり、ご提供し続けてきた会社として、今後も農家の方々の困りごとを解決していく想いを発信するとともに、両社の意志に賛同していただける仲間づくりを行うため」と声明を発表している。

今回の展示テーマは「農家の『嬉しい』を探してカタチに」。スズキは発表されたばかりの軽商用車『スペーシアベース』とマルチワークが可能なロボット台車『モバイルムーバー』を、ダイハツは軽商用車『ハイゼットトラック』と「農業用ドローン簡易操作治具など」を展示し、農業に従事するユーザーに向けて製品をアピールした。

スズキのモバイルムーバーは、同社の電動くるま椅子の技術を活用したもので、肥料や農薬の散布、草刈りや資材の運搬、害獣への威嚇や夜間の見回りなどを想定した小型のロボット台車だ。オオカミを模した「モンスターウルフ」を搭載する台車が特に注目されていたが、肥料・農薬散布を想定した「茶畑仕様」の台車も静岡の企業であるスズキならでは。

ダイハツは農業用ドローンの積み下ろしを簡易的にできる装置をハイゼットトラックに搭載した。通常2人がかりでおこなう積み下ろしの作業を1人でおこなうことができるため、省力化につながるという。2020年から開始したドローン事業の収益化をめざし、実験的におこなっている取り組みの一環だ。また、トラックの荷台に置ける「農家専用収納BOX」も参考出品。トラックを農作業だけでなく日常でも使う農家の方も多く、収納スペースが欲しいという要望から試作したという。

ダイハツ工業の新規事業戦略室 農業活性化グループのグループリーダー田村明久さんは、「商品になるかはともかく、とりあえず作ってみるんです。生の声を聞く機会はあっても、実際にモノがないとなかなか皆さんピンとこない。だったら要望があれば作ってみて、見てもらう。皆さんの声を聞いて、商品づくりにフィードバックしていく。それがダイハツらしいやり方だと思っています」と話した。

軽トラの販売は関係ない
「軽トラックを作っているのは今は我々ダイハツとスズキさんだけ。農家さんは我々にとって共通の大事なお客さんですから、農家さんのお困りごとを聞いて、それを形にするようなところはもう一緒にやりましょうと。去年の7月から我々のグループにスズキさんのメンバーも加わってもらって一緒にやっています。クルマではライバル関係なんですけど、そこは仲良くやりましょうと。農家さんの役に立つ、という目的は一緒ですから」

スズキとダイハツの共同出展について、田村さんはその想いを語る。また、今回の展示を見ても分かる通り、この2社の取り組みは必ずしも「軽トラを売る」ことに直結するものではない。

「軽トラとつながれば一番いいんですけど、そこは上からも『関係なしでいけ』と。農家さんの困りごとがあったら純粋にそれを解決する。クルマの販売とは完全に切り離しています。ですから、農家さんに行く時もスズキとダイハツで一緒に行きますので驚かれますね。農家さんのお役に立つために、何かひとつでも作れたらという思いで取り組んでいます」

農業を通じてつながったライバル同士。軽トラの枠を飛び越えた新たな商品やサービスの登場が期待される。

スズキとダイハツの展示ブースコンセプト「農家の『嬉しい』を探してカタチに」《写真撮影 宮崎壮人》 農業用ドローンの積み下ろしを簡易にできる装置を搭載したダイハツ ハイゼットトラック《写真撮影 宮崎壮人》