日産 ノート AUTECH クロスオーバー 新型《写真撮影 土屋勇人》

登場から1年たらずの間に早くもいくつものバリエーションを送り出してきた『ノート』に、クロスオーバータイプの新顔が加わった。

「AUTECH」というのは、日産の関連会社であるオーテックジャパンが手がけた、プレミアムスポーティをコンセプトとするサブブランドだ。現行『ノート』についても、すでに『ノート AUTECH』が発売されているが、今回の『ノート AUTECH クロスオーバー』は、かなり性格の違うクルマに仕上がっている。

◆内外装ともベース車とは雰囲気が一変



価格はAUTECHがベース車の約30万円プラスで、こちらはさらに約2万円高の253万7000円〜279万6200円となる。そうなると日産のキックスとも競合しそうだが、よりサイズが小さく、4WDも選べるのが棲み分けてのポイントとなる。

カタログモデルではなく、AUTECHブランドというのにも意味がある。日産でラインアップしてもよさそうなところをあえてAUTECHから出したのは、他のクルマとはひと味違うプレミアムの表現を狙ったからだ。



外観は、地上高を高めて大径タイヤとタフなイメージのホイールを履かせ、ホイールアーチガーニッシュやフロントおよびサイドシルプロテクター、ルーフモールなどを追加。インテリアはオーテックのブランドカラーであるブルーを各部にあしらうなどして内外装ともベース車とは雰囲気が一変している。

◆AUTECH初の車高アップを実施



足まわりにも大いにこだわっている。オーテックジャパンでは、こうしたコンバージョンモデルをこれまでいくつも手がけてきたが、車高アップは初めてのこと。それが実はローダウンよりもはるかに難しかったと動的性能の開発責任者は振り返る。

重心高が上がるとフラつきが増えるのはいうまでもないが、サスペンション自体も単にバネを伸ばせばよいわけではなく、もともと想定しているジオメトリーの適正値から外れると正しく機能しなくなる。

幸いにもノートの場合はアライメント変化が少なく、もともとフロントにネガティブキャンバーがつけられていて、車高を上げると多少はポジティブになってもネガティブキャンバーが維持できたので、接地感としては問題ない。



リアについても状況は同じような感じ。ただし、ロールセンターと重心高の関係がどうしても変化してしまうところを、いかにもフロントのロール軸が低いと感じさせるようなロール感を狙い、バネをフロントよりもリアを強めにし、減衰力の最適化を図るなど、サスペンションチューニングの前後バランスにより上手くコントロールした。

内輪側を浮き上がらせたくないようリバウンドスプリングで伸び側の動きを抑制したのもポイントだ。これを減衰力の調整でやろうとすると乗り心地が悪化するところ、リバウンドスプリングを用いるとフロントの外輪を沈ませながらも内輪を浮かせず接地性を保てる。リアについては少し硬めにして粘らせる。タイヤについては、燃費、音振、調達性などを考慮して、ちょうどよい『セレナ』用のOEMタイヤを流用した。

◆持ち前のリニアな加速も健在



試乗したのは、横須賀の追浜にある「グランドライブ」という日産のクローズドコースだ。人間とは思ったよりも敏感なもので、シートに座るだけで25mmの差を即座に感じ取れて、走るとやはり標準車よりもタイヤのたわみを感じ、バネ下もやや重くなった感覚があるが、足まわり、タイヤ、ステアリングの一連のチューニングが巧く調和していて、一連のすべてのものが上手くバランスしている。AUTECHでないとできない、トータルコーディネートが図られていることが伝わってくる。

走りにはほどよいキビキビ感があり、一体感もまずまずだが、サイドウォールの厚い大径タイヤを履くと足まわりを固めてもタイヤが負けるだけなので、そこは過度に演出していない。それでもノートがもともと持っている走りの気持ちよさは損なわれていない。



e-POWERは高出力版のオーラではなくベース車やノートAUTECHのスペックを踏襲しており、持ち前のリニアな加速も健在だ。ただし、タイヤ径が大きくなり微妙に車両重量が増えたことを考えると、『ノートオーラ』の仕様にしてくれるとなおよかった気もする。

パワーステアリングについて、コーナリングではフロントだけで曲がるのではなく、4輪すべてが横力を出してクルマ全体がキレイに動くようなセッティングを念頭に置き、操舵力を少し重くして、横Gに対してしっかり感を出せるようにした。

こうした大径タイヤであればなおのこと、切りすぎてアンダーステアを出すことのないよう、しっかり手応えを出して、路面との接地状況を操舵力を介してインフォメーションがわかりやすく伝わるようにしたという。

◆リアのリバウンドスプリングが良い味を出す



2WDと4WDを乗り比べると、やはり2WDは走り味が軽やかだ。4WDはリアが100kgあまり重くなるが、むしろそのイナーシャを活かしたハンドリングに味付けされていて、ターンインでキレイに巻きながらインを向いてくれるようにされている。リア重視の駆動力配分もあって、弱アンダーステア傾向の2WDに対し、4WDはより積極的にハンドリングを楽しめる味付けとなっている。

この走りを実現するために、どうしても必要だったのが、リアのリバウンドスプリングだ。実は当初は付けないでいくことも検討したものの、性能を追求していくとどうしても欲しくなり、最後の最後に入れる判断をした。それなりにコストのかかるものだが、おかげでこの味を出すことができたという。

AUTECHのロードカーは現在7モデルがラインアップされていて、それぞれの車種の中での販売比率は平均5%程度のところ、ノートは約10%ともともと高め。今回のクロスオーバーでは5%程度と見込んでいるそうだが、人気のカテゴリーであることも後押ししてもっと上回りそうな気がする。高い付加価値と存在感を身につけた、AUTECHならではのプレミアムスポーティぶりが光る、このクラスで異彩を放つ1台に違いない。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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