メルセデスベンツ EQS 450+《photo by Mercedes-Benz》

◆EV専用モデルとして登場した『EQS』

まだまだいろんな面倒に巻き込まれることを覚悟してはるばるスイスはチューリッヒまで出掛けたのは、メルセデスベンツのまったく新しいEV、『EQS』の試乗会に参加するためだった。

「まったく新しい」とあえて記したのは、既存モデルからのコンバートで仕立てたEVの『EQC』や『EQA』などに対し、EQSは新設されたEV専用のプラットフォームをベースに開発されたモデルだからである。

このプラットフォームは汎用性が高く、ホイールベースとトレッドの変更は簡単に行えるという。さらにセダンのみならずSUVにも対応可能とのこと。パワートレインはモーターやリダクションギヤやデフをひとつのハウジングに収め密閉したeATSと呼ばれるパッケージになっていて、「EQS450+」はリヤに、「EQS580 4MATIC」はフロントとリヤにそれぞれeATSを置く。ただし、フロントよりもリヤのモーターのほうがサイズもパワーも大きい(モーターの直径は変わらないが長さが異なる)。バッテリーはキャビンの床下に敷き詰められていて、eATSも含めて冷却システムは水冷式となる。


駆動用リチウムイオンバッテリーも新開発で、エネルギー容量は107.8kWh(セルモジュールが12個の場合。10個は90kWh)。これはEQCより約26%も大きくなっている。航続距離は最大770kmで、充電器によっては15分で約300km分の充電が可能だという。

ナビゲーションシステムは航続距離や充電ポイントも考慮した上でルート探索を行い、途中で充電が必要な場合は充電器設置場所に立ち寄るルートを自動的に敷いてくれる。「ドイツからであれば、ほとんどすべての隣国まで走行できる距離です」とのこと。満充電してあればフランスやベルギーやデンマーやスイスなど“外国”にまで行けてしまうという感覚は、いかにも陸続きの欧州らしい。最大回生力は後輪駆動で186kW、4輪駆動で290kWなので、回生ブレーキの効率もずいぶんいいようである。

◆「開かないボンネット」にも理由がある


ボディサイズは現行の『Sクラス』よりわずかに大きいくらいだが、ボディ全体がエッジがなく丸みを帯びているためか、そこまで大きくは見えない。このボディこそが、EQSのこだわりのひとつでもある。EQSのCd値は0.20で、これは量産市販車のトップレベルの数値である。バッテリーの性能や容量にはどうしても限界があるわけで、航続距離をさらに伸ばすにはエアロダイナミクスをどうにかするしかない。そこで空力性能を徹底的に突き詰めたという。

例えばEQSのボンネットは両端がフロントフェンダーまで回り込んでいるが、オーナー自身がこれを開けることはできない(ウインドウウォッシャー液の補充口はボディサイドにある)。ボンネットは高速域になるとわずかに浮いたり振動したりして空力的には悪さをするので、これを排除した。またリヤのホイールアーチの前方下部にはゴム製の小さなスポイラーがついていて、これだけで航続距離が3kmも伸びたという。


EQSは4ドアセダンを名乗っているが実は5ドアハッチバックである。フロントにエンジンやトランスミッションなどを置かないためエンジンコンパートメント部を小さくして、キャビンを前方に動かすキャブフォワードデザインを採用、Aピラーからリヤエンドまでを1本の曲線でつなぎ弓のようなラインとしている。

こうしたデザインも空力を優先したのかと空力担当エンジニアに聞いたところ「2BOXのハッチバックにすれば劇的に空力が改善されるというわけでもありません。EQSの前のCd値のレコードホルダーは3BOXのSクラスだったので。ただ、空力優先のデザインをやりやすいのはやはり2BOXです。あとは小さな改善の積み重ねですね」と教えてくれた。

◆メルセデスなんだけど、何だか新しい


EQSに乗り込むとダッシュボード全面に広がるハイパースクリーンに圧倒され、ブレーキペダルを踏むとドアが自動的に閉まるなど、次世代のクルマに直面しているような気分になる。いっぽうで、走り出すとその乗り味は紛れもないメルセデスベンツのそれである。スロットルペダルを踏み込むとほんの一瞬のタメがあってからスルスルとスムーズに加速していく様や、ステアリング操作に対して極めて正確に反応する感触などは、内燃機を積んだメルセデスとほぼ変わらず、むしろちょっと古いW124やW201の時代を彷彿とさせる。

もっとも驚かされたのは静粛性の高さ、それも風切り音の少なさである。120km//hくらいまでなら風切り音はほとんど聞こえないと言っても過言でない。こういうクルマにはこれまで乗ったことがないのでかなり新鮮だ。

乗り心地も極めて快適である。車重が2.5トン前後もあって重いバッテリーが床下にあるのだから、ある程度までは自動的に乗り心地はよくなるはずだが、標準装備のエアサスのセッティングが素晴らしく、速度域を問わず常にほぼフラットライドな乗り心地を提供してくれた。「メルセデスなんだけど、何だか新しい」という初々しい乗り味がきちんと構築されているのはさすがである。


今回は450と580の両方に試乗したが、個人的に好印象だったのは450のほうだった。580は確かにパワフルで前輪にもトラクションがかかってスタビリティが高い感じがするものの、日本の道路事情を考えるとややオーバースペック気味。450のほうがフロントが軽くわずかに軽快感があり、さらに駆動レイアウトはポルシェ『911』と同じわけで、少しだけ“RR”っぽいハンドリングを楽しんだ。なお日本導入は2022年秋頃で、当初は450のみとなる予定だそうである。

メルセデスもすべての新型車のEV化を計画しているようだけれど、「EVになってもメルセデスらしい乗り味とはなんなのか?」に関しては、EQSで早くもその答えに辿り着いたようだった。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★

渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。

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