VW ティグアン 新型《写真撮影 南陽一浩》

今年はすでに日本上陸を果たしたVW『ゴルフ8』を筆頭に「コンパクト」と呼ばれる欧州Cセグのハッチバックが当たり年。ということは、同じプラットフォームをベースとするCセグ・コンパクトSUVは、ちょうどモデルサイクルの半分が過ぎたところで、この夏あたり続々とマイナーチェンジ版が投入されている。

プラットフォーム的には半世代ほど古くなってしまったとはいえ、後期フェイズになって熟成度がぐぐっと増して、やたら好印象を残していくコンパクトSUVが多い。その代表格が、この夏からマイチェン版へと刷新されたVW『ティグアン』だ。

欧州ベストセラーSUVの座に長くあったモデルで、セグメント王者というタイトル保持車にしてVWという点ではゴルフと同じく。だが今だからこそ、ゴルフ8に乗った後だからこそいえるが、ハッチバックの方ではビミョーに希薄になった、ド真ん中をスパーンと射貫くような定番としての安定感が、マイチェン版のティグアンにはある。

◆新世代ガソリンエンジンこそがコンパクトSUVにふさわしい


エントリー価格は決してお安くはない。従来の「コンフォートライン/ハイライン/R-ライン」というグレード構成は、R-ラインだけそのまま、前2者が「アクティブ/エレガンス」に改められたが、価格は「407万9000円/483万9000円/503万9000円」と、限りなく総額500万円超に比重のある400万円台といっていい。

その分、パワートレインは前期型の1.4リットル+6速DSGから、1.5リットル+7速DSGへ、しかもアクティブシリンダーマネージメントという4本のうち2本を積極的に気筒休止させる機構を備え、一新されている。意外にも、『Tロック』には搭載されたTDI 150こと2リットルディーゼルの用意はなく、逆にTロックにティグアンと同じTSIの150ps・250Nm仕様が追加で載せられた。

ガタイがどうしても大きくなるSUVは、とくにCセグ以上の車格ではトルクの強いディーゼル需要が根強かったが、上陸当初からディーゼルを入れなかったボルボ『XC40』以降、日本における欧州ディーゼルの風向きが明らかに変わったことを感じさせる。ディーゼルゲート事件の頃から各国の排ガス規制ルールはふた回り以上しているが、VWも新世代ガソリンエンジンこそがコンパクトSUVに当面ふさわしい、そう判断したということだ。

◆ホッとした安堵を覚えたインテリア


外観については、変化はミニマムながら見た目は前期型とけっこう異なる。具体的には、水平方向にクロームを強調したグリルは前期型から不変のモチーフだが、「IQ.LIGHT」と呼ばれるLEDマトリックスヘッドライトを採用したことで、顔つきの雰囲気が変化したのだ。ヘッドライトの左右上端が伸びて切れ長の目つきになったのに加え、LEDダイナミックターンシグナル、いわゆる流れるウィンカーとなる。外観シルエットは前期型とほぼ変わらず。フロントバンパー周りがデザイン変更されたためだろう、全長だけが+15mm伸びて4515mmとなり、全幅1840mmと全高1675mmはそのままだ。

変化はあったが、ホッとした安堵を覚えたのはインテリア。VWが全車種で進める最新世代インフォテイメントシステムのお約束で、eSIMの通信モジュールを内蔵し、We ConnectやWe Connect Plusといったオンラインサービスがデフォルトで載っている。スマートフォンに専用アプリをインストールすれば、車両情報を見たりドアロック/アンロックが操作できるなど、デジタル的な使い勝手やエクスぺリエンスはまさに最新といえる。


それでいて何が安心材料だったかといえば、タッチスクリーン下のセンターコンソール最先端部、3ゾーンのエアコン操作パネルは、3連ダイヤルと物理的にストロークのあるボタンから、タッチパネル&スライダーにとって替わられている。

でも上下3列に分かれてピクトグラムも分かりやすいため、後から分かったことだが、触れるべきエリアを横1列に収めたゴルフ8のそれより、はるかに扱いやすいのだ。シフトコンソール周りの、サイドブレーキにドライブモード切替、パークアシストやアイドリングストップのオン/オフといったレバーやボタンは、ほぼ変更はない。


むしろボタンの数が増えたのは、ステアリングホイール左側、ACCやリミッターの操作系。今回のティグアンは「トラベルアシスト」と名づけられた最新鋭ADASをパサートに次いで採用しており、車線維持システムを含め、0〜210km/hの速度域で作動させられるレベル2だ。ドライバーがステアリング保持していることを、従来は操舵角によって確認していたが、今回のシステムはタッチセンサーに置き換えられ、軽く手を添えるだけで検知できる程度に精度が上がっている。ゴルフ8のようにメーターパネル内に、認識中の車線や他車を表示することはないが、実質的な使い勝手に差はほぼない。

◆エレガンスの車内に満ちる「余裕」

もうひとつ特筆すべきは、ティグアン専用のオーディオシステムまで用意されること。ファースト・エディションやR-ライン専用のラグジャリー・オプションとはいえ、ハーマン・カードンによる9個のスピーカーとサブウーファーによる装備だ。CセグのコンパクトSUVでは他に、ボルボXC40が同じくハーマン・カードンを、『DS 7クロスバック』がフォーカルを採用しており、必ずしもプレミアムを謳わないティグアンが、サウンド方面で艶気を忘れていない点は高く評価できる。


とはいえ、レザーシートパッケージをまとったTSIエレガンスの車内に身体を落ち着けてまず感じられるのは、余裕だ。座り心地から腕まわり、視界の見切りよさまで、心地よい適度な距離感、整然としたレイアウトのダッシュボードなど、ドイツ車らしい機能的な心地よさが息づいている。同じとはいわないが、ヒケをとらない余裕は、リアシートに座っていてすら感じられる。

文句をいうとすれば、センターコンソール両脇で膝に当たるハードプラスチックと、R-ラインからエレガンスにアクティブまで、すべてミドルトーンのグレー系に揃ってしまったインテリアカラーの乏しさだろう。試乗車はレザーパッケージで素材感が各所で異なったので、スタンダードな内装として居心地よかった。ただ、古い世代がスタンダードと感じるものが、徐々に「余裕」とか「(プチ・)プレミアム」の領域に片足突っ込んでいるのだなという感慨も、同時に沸いてきた。

◆駆り立てられるような面白さではないが


動的質感については、スタビリティ重視の手堅く忠実なFFかと思いきや、いい意味でシャキシャキしていて予想を裏切ってくれた。TSI 150は1500rpmからと、かなり下から最大トルクを吐き出すし、7速DSGは低速域でのマナーにも唐突さが無く、すこぶるドライバビリティは上々だった。

ステアリングの操舵フィールはキビキビ感や鋭さはないが、ノーズに反応が表れるまで鈍さも感じさせず、深すぎない初期ストロークといい、いい意味で中庸。ワインディングに踏み込んでいっても、パワートレインもシャシーもスロー過ぎる嫌いはない。ただし強めにアクセルオンにすると、まるで4WDかというぐらい直線的に蹴り出して、手元にトルクステアによる多少のキックバックを感じる。高速道路にのる時間はなかったが、スタビリティは高そうだ。


いわば駆り立てられるような面白さではないが、長い登り坂がかったるいとか、下りで冷や冷やするといった、バッドサプライズがない。かといってスイートスポットが広いだけでなく、走りに奥行もちゃんと感じられる。熟成シャシーに新しいパワートレインっていいな、と素直に思える出来映えなのだ。

ボタン一つでシャシーモードを切り替えるDCC機能は、R-ラインでオプション、今秋登場予定の『ティグアンR』には標準で備わるそうだが、18インチのバネ足仕様で十分にキマっている。それでいて、トランク容量は常時615Lで後席をフルに倒せば最大1655リットルまでエクステンダブルだし、リアハッチはパワーゲート開閉で女性も扱いやすい。助手席がテーブルかオットマンになるシートアレンジまで、芸も細かい。

◆ハッチバックを選ぶ理由が見当たらない

そう、「余裕ある生活車」という観点でブラッシュアップが進んだ新しいティグアンを見ていくと、ハッチバックを選好する理由がもはや見当たらなくなってくる。とはいえ、まだプレミアムにはにじり寄っただけとはいえ、スタンダードなコンパクトSUVとはいえ、それでも500万円前後。ゴルフ卒業生の誰もがおいそれと手を出せる価格ではないが、ゴルフ的なるものプラスアルファの魅力を、マイチェン後のティグアンに色濃く感じたことは確かだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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