
2025年2月5日、VWの将来に関する発表があった。それによると、今回の将来の計画は、史上最大の将来計画なのだそうである。
何が語られたか。基幹工場であるウォルフスブルクは、次世代から電気自動車となる『ゴルフ』と『Tロック』の生産をすることになるそうだ。つまり、これから数年で矢継ぎ早にBEVのニューモデルを投入(2027年までに9モデル)するのだという。
完全に電気にシフトする姿がうかがえるのだが、デビューしたばかりの『ティグアン』がどうなるか、少し心配になってしまう。というのも世界的に見るとティグアンはVWの最量販車種であり、言ってみれば稼ぎ頭でもあるからだ。
ティグアンは新しいMQB evoと言うプラットフォームを採用している。このほんのちょっと進化したような“evo”という3文字が、実はとんでもない進化を見せることは、すでにかつてのディーゼルエンジンEA288からEA288 evoとなって、どれだけ進化したかを体験しているから、よくわかる。
そんなわけで多分、凄い進化しているのだろうなぁということは、おおよそ見当はついていた。個人的には既にこのMQB evoは体験済みだったから、ある意味ではおさらい的な試乗でもあった。体験済みは『パサート』に乗っていたからである。
◆機械技術と電子技術の見事な融合
新しいティグアンは、言ってみればパサートの中身をSUVボディに移植したモデルと言っても過言ではない。即ちMQB evoのプラットフォームと、それに伴って進化したDCC proの電子制御サスペンション、さらに15インチと巨大なセンターディスプレイに、ステアリングコラムからウィンカーのように出たレバーを回すことによって操作できる、新しいトランスミッション・シフター等々、すべてパサートと全く同じである。
それにしても2008年にデビューしてからいつも思っていたことは、このティグアンという名前のダサさである。そもそも何で「トラ」と「イグアナ」をくっ付けようという発想になったのか。
個人的に2年と少々ドイツに住んでいて、生真面目な性格であることは承知をしていたけれど、私が住んでいたミュンヘンという街は、それでもイタリアに近く、それなりにラテン気質があるところではあったものの、田舎臭いという点ではやはりずば抜けていた。イタリアやフランスから比べると、どうしてもそのイメージが付いて回るから、ネーミングにしてもこんなことになってしまうのかな?と思ったものである。
その名前はともかくとして、クルマはやはりずば抜けて良い。これはイタリアやフランスが絶対に勝てない、機械技術の優秀さを如実に示すものだ。最近は機械技術と言うよりも、電子技術がいかに優秀かと言う方が、プライオリティーが高くなっているようにも思えるが、少なくとも新しいティグアンはそれが見事に融合している。
◆乗り心地だけでなく運動性能もスムーズで気持ち良い
パサート同様、乗り心地がすこぶる良い。例ののDCC proの性能が余程良いのだろうと想像できる。今回は試乗時間80分という縛りがあったため、あれやこれやと試す時間はなかったし、日中の試乗だから新しいIQ.LIGHT HDというライト類の明るさなども体感できずである。単に乗り心地が良いだけでなく、運動性能も実にスムーズで気持ちが良い。
短い試乗時間でも、これでもかというほど体感できたのは、この1.5リットルのeTSIと言う4気筒エンジンが、アクセルをオフにするたびに休止することである。気筒休止ではなく完全オフになる。しかもアクセルに少しでも足がかかればすぐに復帰し、ラグがないので違和感をまるで感じずにスムーズな走行が行える。
恐らく燃費は相当に良いと思う(WLTCで15.6km/リットル)。とはいえガソリン価格はどんどん上昇していて、輸入車は基本ハイオクガソリンを要求するから、例えば高速道路のスタンドなどではリッター210円と極めて高い。
◆547万円のクルマなのにシートは手動式なのか
例によって空間創造は彼らの特技。ラゲッジスペースは先代でもクラストップレベルだったそうだが、さらに増えて652リットル(VDA)に拡大している。室内もたっぷりとしてスペースが確保されているから快適そのものだ。
それにしても車両本体価格547万円のクルマにも関わらず、シートアジャスターは手動式である。わからないのは前後スライドもシートバック調整も手動だというのに、何故かマッサージ機能 (空気圧式リラクゼーション機能)は、エレガンスやRラインには標準装備である。だったら、これを外してもパワーシートをつけて頂きたいものだ。特にダイヤル式のバックレストアジャストはとてもやりずらい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。


























