日本市場でもプジョーは3月には1911台を販売し、再々ブレイクといえる勢いにある。
同じくPSAグループのシトロエンやDS、またルノーも好調を維持しているが、フランス車全体の上り調子は、ニューモデルが魅力的であるだけでなく、従来ながらの輸入車ユーザーを満足させる走りの質、加えて、国産車ユーザーにもアピールする価格づけの妙もある。
そのプジョーの売れ筋、『3008』と『5008』の大胆にフェイスリフトされ、ついにデリバリーが始まった。前者はPHEVの4WDモデルが加わり、ほとんどモデルチェンジに近い内容ながらも、従来通りのガソリン1.6リットルターボや5008同様の2リットルディーゼルも揃える。
これは電動化戦略を「パワー・オブ・チョイス」と位置づけ、パワートレインの選択肢はできるだけ揃え、ユーザーの選択に委ねるというPSAグループの方針の表れでもある。これを念頭に、今回はPHEVの『3008 GT ハイブリッド4』と、ディーゼルの『5008 GT BlueHDi180』に試乗した。
◆共通点、相違点は?
両者とも共通するのは、近頃のプジョーに共通する牙のような日中走行灯に、クラシックなボンネット先端の車名ロゴ、そしてグリルのメッシュがフルLEDヘッドライトの下にまで及ぶ、フロントマスクだ。マイチェン前と顔つきが変わっただけでなく、重要な点はラジエーターグリルを縁取るフレーム自体が、消滅したことにある。
戦前車の馬蹄型から進化してきたラジエーターグリルを、210年以上の歴史を誇るプジョーがあえて簡略化してきた事実は、一連のテスラ顔や新しいホンダ『ヴェゼル』の一体グリルを鑑みても、面白い。パラメトリック(不等尺の)なグリルメッシュのアクセントはレクサスが先駆けたが、ボディ側へフェードインさせる意匠は例がなく、電動化という時代性を反映させた手並みはさすが。裏を返せば、それだけ長い時間軸にわたる観点からプジョーはデザインを練り上げている。
内装は5008が3列7座で、3008が通常の5名乗りであるのはそのまま、SUVにしてはアップライト気味のダッシュボードで、ドライバーの手元を囲むように配された操作類、腕を高くもち上げなくても操作しやすい小径ステアリングなど、リラックスできて操作性や質感の高い内装は、両者とも同セグメントの中でも屈指のレベルにある。
シートのステッチパターンやクッションの形状が見直され、見た目と座り心地がブラッシュアップされた他、前期モデルでウールのツイード風だった加飾パネルやシートトリムは、同じく起毛素材だがアルカンターラに置き換えられ、より現代的な雰囲気となった。またGTグレードではオプションで、ナッパレザーのフルレザー内装も用意される。
「3008 ハイブリッド4」と「5008 BlueHDi180」の違いが如実に表れていたのはメーターパネル内の液晶表示で、前者がハイブリッドのエネルギーフローなど青や緑主体のクールなアニメーションであるのに対し、後者はカッパー色をテーマとした温かみある雰囲気。
ドライブモードをシフトレバー脇のボタンで切り替えると、3008 ハイブリッド4には「Hybrid」や「Electric」「4WD」といった走行モードが現れるのに対し、5008 BlueHDi180では、砂や泥、氷雪路といったグリップコントロール機能で選択した路面が示される。
◆「3008 ハイブリッド4」は従来のFWDモデルとはまったく別のクルマ
まずは3008 ハイブリッド4を走らせてみる。パワートレインは、200psの1.6リットルターボと110psの電気モーターが前車軸を駆動し、112psのもう1基のモーターが後車軸を駆動する。FWDにもRWDにも4WDにも変化する駆動方式で、前後車軸は電気的に繋がれているのみ、プロペラシャフトはない。
ゼロ発進からデフォルトの「Hybrid」でスタートして、ある程度アクセルペダルを踏み込まない限り、「Electric」でなくてもリアモーターで走ろうとする傾向は強い。13.8kWh容量の駆動バッテリーがほぼ空になっても、直前のブレーキで回生しているのだろう、出だしのアシストが効かなくなることはなかった。登りや加速時にICEが介入しても、一定速度に入ればe-EAT8ことアイシンAW製のPHEV専用8速ATによって即、コースティングへと切り替わる。逆に必要な時は当然、再始動するとはいえ、いつそうなったか分からないほど振動もギクシャクもなく、スムーズだ。
リアモーターだけで距離を重ねる間は、メーター内の平均燃費もグイグイ伸びていくのは当たり前ながら、バッテリーがほぼ空になって燃費が悪化しても、3008 HYBRID4は15km/リットル弱で踏みとどまった。ようはここまで悪化する前に充電できれば、という下限だ。3秒以内ならアクセル操作せずに再発進するアクティブクルーズコントロールも備え、渋滞時の利便性も向上させるなど、日常使い性能もスキなく磨かれている。試しに4WDモードで砂浜にも踏み込んでみたが、危なげなく力強いグリップを披露して見せた。
3008 ハイブリッド4はパノラミックルーフ込みで1880kgというだけあって、普通のペースで流していると、それなりにマスの大きさは感じる。だが積極的に走らせペースを上げていくと、俄然その動的質感は輝きを増す。端的にいって、3008 ハイブリッド4は従来のFWDモデルとは、まったく別のクルマだ。
縦方向には鷹揚で横方向の剛性感はたっぷり、そんなEMP2プラットフォームのハンドリング特性は失われておらず、手元に伝わってくる。だが後輪のモーターによる駆動、つまり電気の立ち上がり素早いトラクションのおかげで、従来のFFより3008 ハイブリッド4は明らかにコーナリング後半で鋭い。Sportモードでの加速は、520NmものトルクとICEのパワーの伸びを最大限に活かす方向。さらに制動時にバイワイヤのシフトを1段引けば、Bモード回生も制動の援けとなり、それがまた走りに小気味よいリズム感をもたらす。
視線は高いが、この駆動レスポンスと身のこなしの軽さに、やがて1.9トン近い車重を忘れてしまう、そんな痛快さだ。
◆「5008 BlueHDi180」の力強いトルクで立ち上がる様は、躍動感に満ちている
対して5008は、ホイールベースが長い分、曲がり始めるまでに一瞬の間は感じるが、巨躯をうねらせ最大400Nmもの力強いトルクで立ち上がる様は、躍動感に満ちている。もちろん流す程度のペースでも、フラットで鷹揚とした乗り心地に、それでいてトレース性の高いステアリングは、単なるピープルムーバーやファミリーカー離れしている。ファミリー・グランドツアラーとでも呼びたくなるほどだ。
いずれプジョーはPHEVとなっても、その特長を燃費や4WD以外のところで主張しており、5008はディーゼルとして熟成の極みにある。3008 GT ハイブリッド4は565万円、5008 GT BlueHDi180が501万6000円と、いずれも大台といえる価格帯ではあるが、標準装備の充実度も考慮したら検討に値する。そう思わせるところが近頃のプジョー的SUVの画竜点睛といえる。
■5つ星評価「3008 GT ハイブリッド4」
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
■5つ星評価「5008 GT BlueHDi180」
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
【プジョー 3008 & 5008 新型試乗】乗ってわかったプジョー流の電動化戦略…南陽一浩
2021年05月19日(水) 12時00分
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