日産ノートオーテック《スケッチ提供  オーテックジャパン》

日産『ノートe-POWERオーテック(以下ノートオーテック)』は、近年オーテックのブランド名を冠した各車と同じく“湘南”をテーマにデザインされた。そこで具体的に湘南をどのようにノートオーテックに反映させたのか。デザイナーに話を聞いた。

◆湘南の海に差し込む光の躍動感を表現したホイール

「一言で『オーテックブランドは何?』と聞かれた時に答えるのは、プレミアムスポーティを志向しているブランドだ」と話し始めるのはオーテックジャパンデザイン部の若林康二さんだ。

オーテックは1986年創業し、主にワーキングビークルなどの特装車などを手掛けている。「そこで培われてきたクラフトマンシップを生かしながら、“プレミアムスポーティ”という軸でデザインしている」という。そして今回のノートオーテックのエクステリアデザインも、「湘南の美しさにインスパイアされた日産のプレミアムスポーティーサブブランドとしての佇まいを目指している」と述べる。

2017年11月に『セレナオーテック』が投入され、このクルマから積極的にプレミアムスポーティをうたい始めた。そして、それを踏まえながらさらに、「湘南の地に根ざしていることをよりプロモーションし強くアピールしようと、ノートオーテックの内外装には様々なところに湘南からインスピレーションを得たパーツがある」という。

特にエクステリアでは大きく3つ。まずはブランドの専用ホイールが挙げられる。このモチーフは、「水中に差し込む光の躍動感、きらめきだ」と若林さん。

一方で、「日産の基準車のラインナップには様々なクルマがあるので、単純にプレミアムスポーティといっても、全てをロー&ワイドで高級感、ハイエンドな雰囲気を訴求すれば成功するかというとそうではない。ただしブランドとしての一貫性は担保したいとこのテーマはキープしながら、車種ごとのコンセプトに合わせて多様な表面処理のパターンを行っている」と話す。

セレナオーテックや『リーフオーテック』などでは、ダーク金属調塗装を採用。「基準車よりも手の込んだ塗装表現でプレミアムに見せている」。その後に追加された『エルグランドオーテック』やノートオーテックでは、「切削表現を取り入れた」と若林さん。「普通は切削しているところ以外はブラック塗装で切削面のグラフィックパターンを強調するデザインだ。しかし我々は、きらめきをモチーフにしているので、従来黒くしていた切削ではないペイント部分も、明るめのシルバーを用いた」という。その理由は、「コントラストとしては淡いが、その中でドラマが見られるような表現に挑戦している」。

そして、『キックスオーテック』は、「がっつりとSUVらしいタフネスの足元を見せたいので、切削表現とは違うと考え、従来のダーク金属調よりもより暗いダークメタリックを施した。しかしテーマは全て一緒にしていこうというのがこれからのオーテックの流れだ」とその考えを説明。

◆グリル周りは大磯の海のきらめき

次にフロント周りのクロームドット加飾だ。「ブランドの顔として一貫性を示すため」に、グリルをはじめリーフオーテックではフォグフィニッシャーに採用。このモチーフは、「オーテックオーナーズグループミーティングが開催される大磯から見た海のきらめきをモチーフに、海面のキラキラした感じをグリルで表現しようとして始まった」と説明。

最近はドットの入ったグリル表現も多くみられるが、「その多くはホットスタンプで平面的で奥行きはあまり感じない。そちらの方が手もかからず量産も簡単だからだ」と若林さん。「しかし我々はあえて粒に立体感を施すというあえて手間のかかる処理をした。そうすることでいろいろな角度から見た時にきちんと光るので、そこを大事にしたかった」と込めた思いを語る。

そして最後はロアーに配している金属調シルバーパーツだ。これもホイールと同様に、全てロー&ワイドに見えるような表現はしておらず、従って、「全車に装備するわけではない」とのこと。

「我々が求める一番の理想形はロアプロテクターに配したものをよく考える。これは白波の勢いと美しさをモチーフにしている。これも塗装が単純なシルバーではなく、初めに黒を吹いて、その後にその黒を透過するシルバーを吹いている。そうすることですごくコントラストが強く出るのだ。そこで強い金属の質感というものを表現して、バリューを高めている」と語る。

◆クルマごとに臨機応変に

ここからはもう少し具体的な話を伺ってみよう。

----:いまのお話しのなかで、シルバーの加飾パーツをフロントの下周りに取り入れる際、全車には採用しないとのことでした。具体的な基準のようなものはあるのでしょうか。

若林:そこは非常に難しく、今後の展開を考えると、これとこれを装備しないとオーテックにならないなど、決め過ぎて、固め過ぎてしまうと時が経つと古く感じられてしまったり、あるいはそこから発想が飛躍しにくくなってしまったりする可能性もあります。

ブランドのホイール、クロームドット加飾、最後にこのシルバーパーツの順で説明をしましたが、これは架装のヒエラルキー順といってもいいでしょう。ホイールは絶対に外せない。続いてドット加飾もやり続けよう。そしてシルバーの加飾は、ブルーとのコントラストでプレミアム感のある金属調シルバーを開発していますので、なるべく全車種に入れていきたいのですが、全てのクルマが車高を低く見せたいわけではありません。ただし、実はドアミラーにも入れているのですが、これに関してはやり続けようと思っています。

また、金属調シルバーの見栄えをどう進化させていくかは目下開発中です。基準車には出来ないことをやろうというのがオーテックの精神でもありますので、簡単に真似されないものをどんどん開発していかなければいけません。そこは難しいところです。意外と基準車がやってくることもありますので(笑)。

オーテックジャパンデザイン部の青山雄未さん:この考えは、エクステリアの青と一緒です。エクステリアの青も車種ごと、クルマのキャラクターと面質によって作っていますので、様々な青を採用しています。それらを総評してオーテックブルーとは呼んでいるのですが、これと同じように、先代ノートオーテックと現行ノートオーテックとではこのシルバーの比率が違っています。

つまり、我々がシルバーを常に同じように使うと、先代を購入したユーザーの、オーテックブランドのクルマが古く見えてしまうかもしれません。我々は、古いクルマも決して悪くないと思っていますので、初代ノートオーテックを、いまのノートオーテックの隣に置いても、同じ価値、同じプレミアムスポーティとして見えるようにするために、シルバーの加飾に関しては、臨機応変に考えているのです。

若林:実際にどのように採用するか、あるいは採用するかどうかを決めるのは商品コンセプトです。オーテックのブランドコンセプトはプレミアムスポーティ。これはエクステリア、インテリア、CMFもそのデザインキーワードで決まっています。それに則ってきちんとお客様がいるところに作って行かなければいけません。

直近ではキックスオーテックも発売しましたが、これは難しかった例です。いままでのオーテックの作法を改めて本当にそれでいいのかと考え、例えばクロームドット加飾をグリルではなくフォグフィニッシャーにイルミランプと一緒に扱いました。これは顔のど真ん中にキラキラしたものがありすぎると、(価格は)高くは見えるかもしれませんが、コンパクトSUVで少し個性的なクルマを求めている人たちにとって、ベストかどうか。

それよりも、低いところにアイキャッチになるものを持ってくることでロー&ワイドにも見えるということもあり、キックスオーテックではグリルはSUVらしいタフさを表現するために黒のままにしました。

このように車種ごとにそのコンセプトとお客様のことを考えながら、採用したり、ちょっと変えてみようかとアレンジしたりするようにしています。その結果、これをやっておけばオーテックになるから大丈夫という短絡的な感じはなくなります。毎回商品コンセプトのところは結構な時間をかけて判断しています。

青山:少し前の例では“ライダー”のように、日産バッジを取って日産のクルマに見えないようにしてお客様に買ってください、というコンセプトは、オーテックブランドではありません。オーテックブランドはそれぞれ、例えばノートが持っているキビキビとしたアクティブなキャラクターや、セレナが持っているファミリーに愛されるようなおおらかなキャラクターなどを感じ、それぞれの車種が好きな人達にも選んでもらいたいブランドなのです。つまり、車種のキャラクターをそれぞれエンハンスしてオーテックブラントに見えるようにしていますので、それによって判断基準がバラバラになるわけです。

----:1車種ごとにコンセプトを詰めて行くので、大変ですね。

若林:クルマのコンポーネントは、NISMOから使えるものは使いながら、方向性の違うものを仕立てようというところから始まっていますので、NISMOと伍していきたいという思いがあります。

NISMOは最初からレーシングDNAというすごく知られたバックグラウンドがありますので、ブランディングとしては割とスムーズにいったと思います。しかし我々はバックボーンがなく、オーテックで培ってきたクラフトマンシップだけで勝負しようとしていますので、チャレンジングスピリットや他の人のやっていないようなところをやっていかないと、簡単に落ちてしまいます。そこを常に見つけながら、しかも我々が持っているリソースで出来るもので、ブランドを作っていくことは非常に苦労しています。

◆センスが良く賢そう

----:今回のノートのエクステリアにおいて、一番こだわったところを教えてください。

若林:実はベースとなるデザインをCGで見た時に、最初少し物足りなく感じてしまいました。逆にいうと化けさせることが出来るわけです。ヘッドランプなどはLEDを採用できるという話がありましたし、コンパクトクラスですが高く見えるクルマが欲しいと思っているお客様はたくさんいるはず。また、取り回しも良く女性も運転しやすいクルマです。

一方でNISMOも出るはずですので、レーシーな雰囲気はなるべく出さないようにして、しかし(価格や質が)高く見えるのはどういうことだろうと考えていきました。フロントやサイド、リアのプロテクターに関しても、アクセサリーの設定はもう少しレーシーなフィン形状の薄い板のようなものでした。それはそれでかっこいいのですが、我々はそうではなく、もう少しソリッドで金属調シルバーのありがたみも表現したい、また、速そうというよりも高そう、センスが良さそう、賢そうというところを目指してバランスを決めていった経緯はあります。

ホイールに関しても、あまりインチアップしてローダウンして見える方向ではないと、乗り心地も含めて16インチを選択し、その中で最大限大きく見えたり、奥行きを感じたりする表現を目指しました。その結果、エクステリアは評判もよく成功したと思います。実は飛んだ絵、例えばもう少しレース寄りの案もありましたが、最終的にはこのコンセプトに落ち着いたのです。

----:プレミアムとスポーティは相反する要素があり両立させるのはとても難しい面があると思います。例えばエルグランドオーテックはスポーティというよりは上質なイメージを強く感じました。そのようなバランスを踏まえると、ノートではどういう按配でどのように仕上げていったのでしょうか。

若林:我々も案を選定する段階で何案かを出します。その時にデザイン開発のキーワードとしてエクステリアはダイナミックとハイエンドとエラボレイト(手の込んだ)でした。その中でダイナミック度が強い提案や、エラボレイトが強い提案などを並べて、その中で今回のお客様にあうのはこの辺りかなというところに落としていきました。確かに車種ごとにプレミアム度とスポーティー度では、そういう差があるように意図的に作っていることになります。

----:その辺りはデザイナーの勘なのですか。

若林:勘が一番大きいような気がします。実際に絵を描ける人ではないと分からないところがありますね。我々の会社の商品企画にもマーケティングにもクルマが好きな人はいっぱいいますので、スパッと判断してくれるのですが、やはり最初に材料として絵がないと何も始まらない。その一発目の絵をどれだけ効率よく作れるかは勝負ですね。

日産ノートオーテック《スケッチ提供  オーテックジャパン》 オーテックジャパンデザイン部の若林康二さん《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 オーテックジャパンデザイン部の若林康二さん(左)と青山雄未さん(右)《写真撮影  内田俊一》 日産ノートオーテック《写真撮影  内田俊一》 日産エルグランド・オーテック《写真提供 日産自動車》 オーテックブランドのエルグランド、ノート、キックス《写真撮影 吉澤憲治》 キックス オーテック《撮影 小林岳夫》