BYD ドルフィン《写真撮影 中村孝仁》

最高出力95ps、最大トルク180Nm…。トルクだけを見ると、実は軽自動車の日産『サクラ』よりも低いのである(パワーは軽自動車なので64psだ)。これは、BYD『ドルフィン』のスタンダードモデルの性能である。

ロングレンジと称する高性能版では、これが204ps、310Nmとなるから、パワーに関しては倍以上の開きがある。なんかちょっと心許ない…と感じる人もいるかもしれない。確かに数字上は心許ない。しかし、1週間ほど使ってみて、まあこれで十分だな…とも思ったし、何よりもWLTCの一充電可能走行距離は400kmと、サクラの180kmの倍以上である。

それに受電能力の差もある。この受電能力に関しては自動車メーカーからのアナウンスが少なくて、市場認知度も低い。最近は新東名などに容量の大きな(例えば150kW)の急速充電器が多く出現しているが、確かに充電能力は大きいものの、実際に充電する側のクルマにその能力がないと、いくら大容量の急速充電器を使っても無駄である。日産サクラの受電応力は30kw。つまり150kwの急速充電器に差し込んだところで、30kw以上は入っていかない。一方のドルフィンは65kwの能力を持つので、150kwとは言わないものの、高い性能の急速充電にもある程度対応する。

と言ったように、電気自動車、筆者を含めまだまだ分からないことだらけで、つい先日バッテリーメーカーであるAESCで勉強会を開催して頂いたが、この種の啓蒙活動が不足していることは、バッテリーメーカーも認めていた。

◆フィンランド製スタッドレス装着でも十分なフィール
では性能的に冒頭「心許ない数値」と表現したが、実際の走りはどうか?という問題。

結論から行くと、性能的には十分である。大した距離は走っていないが、高速上で追い越しを掛けた場合など、その加速性能の良さに隣に乗っていた我女房殿は、「これ、速いわね」と、想定外だった加速性能に驚いていた。因みに走行モードは標準のスタンダードで、スポーツをチョイスるとさらに速くなる。以前はエコでも十分だと思っていたが、今回改めて乗ってみると、ロングレンジとの性能差から来るものなのか、エコでの発進はかなりのもたつき感があって、あまりお勧めできるものではなかった。

今回は装着タイヤも初めからスタッドレスを履いていたので、乗り心地などにもそれなりの影響があったと思う。ビックリしたのはフィンランド製のノキアンと言ういわゆるウィンタータイヤを専門に作るメーカーの、「ハッカペリッタR5」というタイヤを装着していたこと。

このタイヤ、世界的にも珍しいアイスグリップ性能の認定を受けたアイスグリップのマークが付けられているのである。つまり氷上性能が良いタイヤにしかつかないピクトグラムをつけており、道を選ばずオールラウンドで極めて高い性能を持つタイヤであるということ。

で、その走行フィールはと言うと、スタッドレスの割に音振性能はとても高く、EVだから当たり前に静かで、逆に外界からの入力には敏感になるはずだが、ロードノイズにしてもパターンノイズにしてもほぼ気にすることなく走行できた。極端なハンドリング性能を試したわけではないが、一般走行するには十分なレベルである。

◆何でもかんでもディスプレイからコントロールするのは…
一方で、ロングレンジのドルフィンに対し大きな違いがあるのは、リアサスペンション。ロングレンジはマルチリンクを採用しているのに対し、スタンダードのドルフィンはトーションビームである。元々、ドルフィンは直進安定性が良い方ではなかったが、さすがに外乱に対してバタつき感がこちらの方が大きい。まあ擁護するわけではないけれど、取り立てて目くじらを立てるほどの性能というわけではないし、日常的に使うにはこれで十分である。

むしろ使い勝手の点で面倒だなと思ったのは、シートヒーター。これをオンにするためにはセンターディスプレイから「車両」を選び、さらにそこからシートを選んでオンをチョイスするという、かなり階層の深いところに埋もれているので、寒い冬に走り出す際、なんとも面倒であった。

何でもかんでもディスプレイからコントロールするのは、それによって物理スイッチが減って都合は良いのかもしれないが、考えものである。それにドライバー前のメータークラスターは非常に小さく、結果としてそこに表示される文字が小さい。フォントサイズを変えられるのか不明(探したが見つからなかった)だが、老眼の入った身には辛かった。

それにしても価格は車両本体価格が363万円である。アクセサリーカタログを見ても、欲しいと思えるのはドライブレコーダーとETCだけ。敢えてディーラーで購入することもないので、そのまま市中の自動車用品店に行けばよいと思う。日産サクラは一番高いモデルが259万9300円だから、まだ100万円以上のひらきがある。まあ、サクラと比較するつもりは毛頭ないけれど、費用対効果はとても高いクルマだと思った。因みに東京から富士山周辺までのドライブなら楽々往復できる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来47年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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