スズキ商品企画本部四輪B・C商品統括部チーフエンジニアの森田祐司さん《写真撮影  山内 潤也》

スズキは2024年秋ごろに、日本国内での発売を予定している新型コンパクトSUV『フロンクス』に関する最新情報を解禁。これに合わせ、実車を一部メディアに公開した。インドで生産されている2代目『バレーノ(日本未導入)』をベースに開発されたこのモデル。日本導入のねらいとは。開発責任者に聞いた。

◆バレーノをSUVにしたら格好良いのでは
スズキは全長4mほどのハッチバック、初代バレーノを日本にも導入していた。商品としての評価は高かったものの、日本での台数は伸びなかったモデルだが、インドでは人気で現在2代目に進化している。

インド市場ではバレーノが属するプレミアムハッチバックから次のステップとしてSUVが注目されており、特に若者に人気だという。そういった市場背景もあり、初代でもバレーノの開発に携わっていた、スズキ商品企画本部四輪B・C商品統括部チーフエンジニアの森田祐司さんは「(初代)バレーノをSUVにしたら格好良いのではないかと絵も描いていたりしていました」と構想があったことを明かす。その後2代目バレーノの開発がスタートし、そこでバレーノサイズの使いやすさとSUVライクなデザインをまとったフロンクスの企画がスタートした。

あえてフロンクスを日本市場に導入する意図は何か。森田さんは、ユーザーの共通性を挙げる。

「インド市場でユーザーにクルマを持つことで何が嬉しいのかという質問をすると、まず自分が運転していてすごく楽しい、ステータスだということが出てきます。そこには、大切な家族を横や後ろに乗せて出かける際、家族が嬉しいと自分も嬉しいということも含まれているんです。つまり運転する楽しさにプラスして乗せている人たちの楽しさがあるんです」

同じように日本でも、「クルマに乗せている家族や友達が快適そうだったり嬉しそうだったりすると自分も嬉しい、笑顔になれるということが分かりました」。そこで、「この嬉しさを日本でもしっかり訴求すればいいのではということで導入することになりました」と森田さんは語る。

しかし、日本市場では過去にバレーノを導入して台数が伸びなかった経緯がある。その点について森田さんは、「まず安全装備が第一」という。そのうえで、「日本は積雪地域が多いので安心して乗ることができる4WDが欲しい。この安全とか安心がバレーノにはちょっと欠けていました」と振り返る。そうした要望に応えられるようにフロンクスでは、「先進・安全機能や4WDについては、日本に入れるのであればしっかりと日本で販売している他のクルマと同じレベルに仕上げました」とのこと。特に4WDはインドにはない仕様だが、あえて日本向けに開発した。

同時にサスペンションのセッティングも変更。「インドの道路環境は日本と違い、荒れている道が多いですし、スピードブレーカー(スピードを殺すためのかまぼこ状の大きな障害物)が多くあります。そういったことを踏まえきれいな平坦な道を走るというよりは、少しいなしながら走るようにセッティングしています」と森田さん。しかし日本では、「平坦な道をきれいにスムーズにまっすぐに走らせる。かつ、橋の段差、僅か数センチですけれど、その段差も丸くいなしながら走るという考え方でセットしました」と、環境に応じてショックアブソーバーの減衰力等を変えているとのことだった。

◆「小さくは見えないのは大事」後席の余裕も強み
日本に導入するにあたりターゲットユーザーはどういう人を想定しているのか。「割と広い層です」と森田さん。まず、「シングル・カップル層。1人2人で乗ってもすごく魅力的なクルマですし、後席に友人を乗せても余裕があります」。また、「チャイルドシートが外れて自分で乗れるようなお子様がいる家庭でも十分後席も広いので、その方たちもターゲット」。そして、「お子様が独り立ちして夫婦二人になった方々も、上質感のあるインテリアですし、ご夫婦での普段使いがしやすいものになっています」と説明。

またダウンサイザーに対しても、「高い質感と運転しやすい大きさでありながら、小さくは見えないというのは大事だと考えました。そういったデザインが魅力になれば」と述べた。

『スイフト』との住み分けは、「(フロンクスは)後席の余裕がかなりあります。確かに自分で運転するとどちらもすごく楽しいんです。ただ後席を使うことを考えるとフロンクスの方が広いのでそこが違います。つまりスイフトはパーソナルメイン、フロンクスはパーソナルプラスアルファという位置付けです」と説明する。また、ドライビングそのものは「スイフトは本当にスポーティーカーで峠道でも楽しく元気に走るクルマ。フロンクスは同じく峠道で、安心して自分のペースで楽しみながら走るクルマという住み分けをしています」と話す。

◆デザインか装備か
日本に現行バレーノは導入されていないがインドでは両車が販売されている。そこでの棲み分けはどうなのだろう。「我々も最終的にデザインの好みだけかなと思っていたんですが、まず価格が同じグレードで比較すると加飾等もありフロンクスの方が少し高い設定です。ですから同価格で比較するとエクステリアの新しさでフロンクスか、装備の良いバレーノかとなります。その視点で若い方達はデザインでフロンクス、ある程度年齢が上の方はSUVのスタイルよりも装備が欲しいのでバレーノというイメージです。割と棲み分けできていて、フロンクスが発売されてもバレーノが下がったわけではなく、純増しています」とコメント。

日本市場ではコンパクト市場は大いに盛り上がりを見せており、価格を抑えた海外生産車なども含め多くの競合車が存在する。森田さんは、「フロンクスは広さも十分ですし、装備関係も充実しています。例えば全車速ACCや電動パーキングブレーキも備えています。内装も質感を高めていますので、値段だけで比較すると競合車が出てくるかもしれませんが、ちょっと違うポジショニング」だという。そのほかのクルマたちも、「AセグやBセグをベースにしているので静粛性や装備が大きく違います」とフロンクスの競争力は非常に高いと語る。

◆「思いが強すぎて結構補正されました(笑)」
「自分だけではなく家族もこれだったら十分いいよねというクルマを目指して開発しましたので、開発陣にも自分が買う時はどうだろうとイメージして様々な提案をしてもらいながら作り込んでいきました」

実は森田さん自身は自分の思いが強すぎて独りよがりにならないか心配だったという。「お客様がいらしてのクルマですから、開発陣に自分がお客様のつもりで意見してもらえるように、としたのはそういう意味もあったんです」と笑う。その思いとは。

「私は元々、一番好きなクルマが少し古いベーシックな欧州車なんです。走って楽しいうえに、ファミリーでも使えるクルマ。その絶妙なバランスが好きなので、軸足がどうしてもそっちにいってしまうんです。(自分好みの)軸足を置いて自分も楽しい、家族も楽しことは大事にしながらも、日本市場の様々な声に合わせるようにバランスを取っていったつもりですが、結構補正されました(笑)」

そうして出来上がったクルマを見て、「開発している担当者たちがこれ乗りたいなという声が多く聞こえてきたので、すごくいま、嬉しいと思っています」と語った。

開発者自らが欲しいと思うクルマは魅力だ。しっかりと日本市場も研究し、過去の反省のもと日本市場に向けた仕様を新たに作り上げたのは評価できる。コンパクトSUV市場においてまた1台、魅力的なクルマが表れた。

スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ商品企画本部四輪B・C商品統括部チーフエンジニアの森田祐司さん《写真撮影  山内 潤也》 スズキ商品企画本部四輪B・C商品統括部チーフエンジニアの森田祐司さん《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ フロンクス(プロトタイプ)《写真撮影  山内 潤也》 スズキ バレーノ(2016年)《写真提供 スズキ》