サクラにはフランクがないのですぐにエンジンルーム(アクスルルーム?)にアクセスできる《写真撮影 中尾真二》

EVのメンテナンスは難しいのか? ガソリン車とどう違うのか? 短期連載の3回目はバッテリーにまつわるトラブルの対処方法などを探る。

本稿では、筆者所有の日産『サクラ』を例にするが、一般的なEVについても重複する部分も多い。メンテナンスの詳細は、各車の取り扱説明書を必ず読んで、必要ならディーラー整備士などに相談しながら各自の責任で行ってほしい。

◆EVは電欠よりも12Vバッテリー上がりに注意
最近の車でもユーザーが交換やトラブルに遭遇するものとして電装品向けの車載12Vバッテリーがある。駆動用に400V〜800Vの高圧で30〜80kWhもの容量のバッテリーを搭載するEVも、電装品や補器類用に12Vの低圧バッテリーを搭載している。

EVでも12Vバッテリーがあがることがある。駆動用高圧バッテリーの残量が十分でも、低圧バッテリーが消耗するとコンピュータなどが機能しなくなるので、EVは止まってしまう。ECUが動かなければ車が動かないのはガソリン車も同じだ。この場合、EVも他の車両(救援車)とバッテリーをつないで復旧させることになる。

手順は一般的なジャンプケーブルを使った方法と同じだ。ただし、EVの充電ケーブルははずしておくこと。ケーブルをつなぐ順番は、救援される側(この場合EV)の12Vバッテリーのプラス端子>救援車のバッテリーのプラス端子>救援車のバッテリーのマイナス端子>救援される側のボディステーなど、となる。しばらくしてからEVの通常の起動手順(ブレーキを踏んだまま電源スイッチを入れる)を行う。エラーやバッテリーの警告灯などがでないで正常に起動したら、さっきと逆の順でケーブルをはずしていく。

EVの走行中は、駆動用バッテリーから電装品用の低圧バッテリーに充電が行われる。起動できればそのまま車を走らせることができるが、12Vバッテリーが弱っている場合、トラブルは再発するので念のためディーラーに持ち込んでチェックしてもらう。EVに限らずコネクテッドカーは、通信や各種タイマー設定など、使っていないときも電力を消費することがある。ドラレコによってはセキュリティ機能によって常時センサーを稼働させていたり、カメラなどが起動されることがある。エンジン車のスターターモーターほどの負荷はないが、長期間動かさなかったEVは要注意だ。

EVの12Vバッテリーは、ジャンプケーブルで回復・充電してもらうことはできるが、そのままでは他のバッテリー上がりの車の救援には使えない。セルモーターを回すような大電流による負荷が、EVのECUに影響を与える可能性がある。システムがただのバッテリー消耗と認識すればいいが、つながった車のクランキングによる急激な電圧降下をEV側がシステム異常と認識したり、その他のエラーにつながるからだ。どうしても必要な場合は、EV側のバッテリーの端子ケーブルをすべてとりはずした状態で行うしかない。この場合も、車両ECUがどのようにリセットされ、再起動手順がどうなるのかをディーラーやメーカーに「コールドスタート」の方法を確認する必要がある。ガソリン車でもそうだが、ケーブルをつなぎなおすだけでOKなものも多いが、一時的なログデータやエンタメ系の設定情報などがクリアされる覚悟は必要だ。

◆EVの牽引時の注意点
救援車が期待できない、または電欠(駆動用高圧バッテリーの残量不足)ではJAFやロードサービスの救援を依頼することになる。最寄のディーラーなど充電器のあるところへの移動を依頼する。牽引作業は専門家に任せればよいが、EVの駆動輪は浮かせての牽引が原則だ。4WDならば4輪を浮かせての牽引、またはトラックなどへの積載が必要となる。

駆動輪を浮かして牽引するのは、駆動輪が回転していまうとモーターが発電してしまい、機器に悪影響を与える可能性があるからだ。回生ブレーキでもモーターを発電に利用しているが、牽引走行では、モーターの冷却や制御ECUがうまく動作しない、最悪機器損傷につながる。正常な走行なら冷却システムも作動するし、インバーターやオンボードチャージャーも正しく回生処理を行えるが、牽引時に正しく機能するかはメーカーの設計しだいだ。

なお、山の頂上で電欠状態になっても、回生ブレーキを利用することでそのまま降りてくることは可能だ。

JAFでも電欠EV用の緊急バッテリーや充電器の用意がある。ロードサービスのメニューにも電欠対応が追加される動きもある。緊急時に路上で充電するのに、なにもフル充電する必要はない。ベルエナジーという会社が電欠ロードサービス用に3.35kWhのバッテリーパックと20kW出力のチャデモ対応充電ユニットを販売している。バッテリーパック2つと充電ユニットで、10分の充電でおよそ20km分の充電が可能としている。20kmあれば、ディーラーでも最寄の急速充電器まで十分だ。場所によっては自宅にも帰ることができる。

筆者所有のサクラの電費は通年で8km/kWh前後だ。1kWh充電できれば8kmは走れる計算だ。バッテリー容量は20kWh。サクラの充電受け入れ能力は30kWあるので、上記のロードサービスの充電器の20kW出力はほぼそのまま受け入れることができるはずだ。10分(1/6時間)の充電で3kWh(≒20÷6)入れば24kmは走れる計算となる。誤差を考慮して半分の10kmとしても、応急措置としては十分だろう。

◆ボンネットの中の点検項目
今の車は、ユーザーがボンネットを開ける必要はほぼないと述べた。EVも同様だが、「フランク」というフロントフード(ボンネット)下がストレージになっているEVがある。フランクのあるEVは、ユーザーが頻繁にボンネットを開閉することになる。だからというわけではないが、最後に、EVのボンネット内で日常点検ができる場所をおさらいしておこう。

JAFが示した15項目の点検事項では、ブレーキ液、冷却水、ウォッシャー液、バッテリー液、エンジンオイル(EVには不要)などが相当する。エンジンオイル以外はEVにも必要だが。バッテリーについては前編で記載したとおりだ。

サクラの場合、エンジンルーム、車両正面に向かって左側にウォッシャー液、ブレーキフルード、冷却水のキャップやタンクが見える。タンクに目盛り、または規定量ラインの印があるので残量はこれで確認する。ウォッシャー液以外は日曜整備で交換できる範囲ではない。廃油やLLC(凍結防止剤の入った水)は下水やシンクに流せない。補充、交換はディーラーに任せよう。

補足しておくと、EVにはエンジンはないがラジエターは存在する。モーターやバッテリー、さらにインバーター・バッテリー管理モジュールなどのECU類、これらを一体化させたeアクスルには水冷のものが多い。サクラも小型のラジエターを搭載し、バッテリーやeアクスルを冷却している。

他にもワイパーブレードや灯火類など日頃からチェックしておくと、いざというときに困らない項目もある。

こうしてみると、自動車の日常点検項目やメンテナンスに、EVもガソリン車も大した違いがないことがわかる。作業は異なるとしてもチェックすべきポイントや目的は変わらない。自分でできるメンテナンスは、自分でできるチューニングポイントでもあると思って、日々のメンテナンスを楽しむのも悪くないだろう。

一番奥の灰色のキャップがウィンドウウォッシャータンク、そのとなりのタンクがブレーキフルード。手前の白いタンクがラジエターの冷却水(LLC)《写真撮影 中尾真二》 ジャンプケーブルまたはブースターケーブル。12Vバッテリーどうしをつなぐ《写真撮影 中尾真二》 サクラのバッテリー:奥の赤いキャップがプラス端子。手前がマイナス端子《写真撮影 中尾真二》 ジャンプケーブルをつなぐときは赤いキャップをはずす《写真撮影 中尾真二》 ブレーキフルードのリザーバータンク。MAXの記載があるラインが分量の目安《写真撮影 中尾真二》 冷却水の分量もMAX表示のラインを目安とする《写真撮影 中尾真二》 筆者の日産『サクラ』《写真撮影 中尾真二》 サクラのバッテリー:プラットフォームはデイズと同じ。《写真撮影 中尾真二》 日産のEV「サクラ」で出張充電サービス「電気の宅配便」を実証《画像提供 ベル・エナジー》 日産のEV「サクラ」で出張充電サービス「電気の宅配便」を実証《画像提供 ベル・エナジー》