プジョー 408《写真撮影  内田俊一》

ステランティスジャパンはプジョー『408』の日本導入を開始。セダンとファストバック、そしてSUVを融合したクロスオーバーだというこのクルマに関して、そもそもの成り立ちやターゲットユーザー等について話を聞いた。

◆新しい選択肢を提供することが成長のカギ
---:初めに伺いたいのは、この408はなぜ開発されたのかということです。

ステランティスジャパンマーケティング部プジョープロダクトマネージャーの八木亮佑さん(以下敬称略):これが答えだみたいなものは資料等で読んだ記憶はないのですが、私がそういったものを読んで総合的に感じたのは、プジョーとして新しい選択肢をお客様に提供したい、いまのプジョーのラインナップのどれにもないものを作りたいというのがあります。

いまプジョーにはコンパクトハッチバックやサルーン、MPVなどのボディバリエーションがあり、さらに5年くらい前にSUVを本格的にもう一回真剣に取り組みました。そうして『3008』や『2008』が登場し、プジョーに新しい風がかなり起きたのです。

そしていま、SUVも急速に普及していますから、“その次”が提供できるものを考えなければいけません。いままでのクロスオーバーはソフトSUVみたいな感じの商品企画が多かったと思うのですが、408の場合はハッチバックでもないし、セダンでもないし、SUVでもない。しかし、お客様がそれぞれのカテゴリーに感じている魅力を少しずつ取り入れて、良いバランスのクルマを作ろう。そこにSUVの次のような形としてファストバックを組み合わせて商品化することで、プジョーにとって新しい地平線が開けるのではないかという仮定のもとに作られたのです。これが私の感想としてはありますね。

自動車は歴史が長いのでそれぞれのカテゴリーが成熟しきっています。さらに例えば我々の『308』のデザイン性や、ドイツ車に追いつけ、追い越せではありませんが、クオリティ面などすごく頑張って、いまの308が仕立てあがりました。でもすごくジャンプアップしたり、ワクワクしたりするようなものや、新しい何かを感じさせるものとなると、やはり新たなセグメント、新たなボディタイプを作らないとトレンドにはならないでしょう。そこで3カテゴリー(セダン、ファストバック、SUV)にまたがるクロスオーバーになるのです。あくまでもオンロード、オフロードのクロスオーバーではなくて、3カテゴリーにまたがるクロスオーバーを企画したのです。

◆え! そんな見方があるの?
---:ステラティスグループには、シトロエン『C5X』というクロスオーバーがあります。そことの関係性はどうなのでしょう。

八木:基本的な技術面、プラットフォームやパワートレーンは旧PSAとして開発して、それぞれのブランドがその元となる技術を自分たち流にうまく使っています。ですから、割とシトロエンと比べてどうかというのは実はあまり見ていない節があるんです。そこで兄弟車などという表現をすると、「え!そんな見方あるの?」という反応があります。

つまり、同じ技術ベースを使ってシトロエン的なるものを作り、プジョー的なるものを作ったというプライドがありますので、中身は一緒で、外側違いでちょこちょこっと変えてきたと捉えられるのでしょう。ですから、基本中身C5Xですよねみたいなことをいうと、「え!そんな見方があるの?」という反応になるのです。

確かに基本的なところは同じなのですが、(シトロエンとは)壁で仕切られた中で、プジョー的なるものを作り上げているわけです。シトロエンと比べてどうかというよりも、これらの技術を使ってプジョーとしていま何ができるのか、プジョーのブランドっぽいもの、プジョーっぽいものとして何ができるかなと考えて作っているものなので、あまり横目で見ながらというのはやっていないですね。

---:つまり、プジョーとしてクロスオーバー作るのがベストと考えて、プジョーの中で考えて作り始めた。そしてシトロエンはシトロエンで作り始めたということでしょうか。

八木:そうだと思うんですよ。

---:それでたまたま両方同じ方向性なので、共用できるところは共用していこうと考えた。

八木:いや、正直そんなに連携しながらやってるとは思えないですね。

---:それよりは308のいいところをもっと吸い上げてやろうというイメージですか。

八木:そうですね。多分408を開発するうえでプジョーの人たちが考えていたのは、308をベースにどうするかだったのでしょう。ですからおそらくプロダクトの企画としては、C5Xとは割と別個のものだと想像できます。

社内の感じからしても、チームが全く別なので連携していないのでは、という感じがします。例えばデザインスタジオに行くと、壁があってプジョーの人はシトロエンが何をやってるか知ることはできないし、シトロエンの人はプジョーのことを知ることはできません。本当に別個に動いていますので、だからこそシトロエンっぽい、だからこそプジョーっぽいというものが守られているわけです。

両方を横目で見ながらだとどうしても似通ってきてしまったり、判断がぶれることもあるかもしれませんが、それぞれのブランドの独立性が保たれていますので、連携してるのかと聞かれて、そうは感じられないと答えたのはそういうところなのです。

ですから、本当にプジョーの中だけのモデルのポートフォリオを踏まえながら次の一手として、たぶん新しいものを提案しなさいというお題があったのでしょう。プジョーにとって、健全な成長をもたらす何かを考えなさいというのはあったとは思います。やはり台数を増やして成長していくということであれば、何らかの新しい提案をしなければいけないので、そういったようなお題はあったのかもしれません。

◆実は直球ど真ん中
---:では、日本に408を導入したのは、新しいユーザーが取れそうだと踏んだからですか。

八木:そうですね。このボディサイズを見たときに、日本ではとても使いやすいクルマだと感じました。サイズ感もちょうどいいですし、全高が原因でSUVを諦めている人にもかなりSUVチックなものが提供できます。グランドクリアンスも上げてありますので若干ですがヒップポイントも上がっていますので、ちょっと車高の高いクルマの乗り降りのしやすさもこれだったらあります。

そして、ずっとセダンに乗ってきて、次もまたセダンか、でもハッチバックだと狭いからどうしよう。そこで大型のハッチバックはないのかなといわれたら、ほどほど大きなハッチバックがここにありますよと。

このようにいままで何かが原因でそのカテゴリーを諦めている人に向けて、新しい何かを出す。そして、次に買うんだったらまた同じものではなく、何か新しいものも良いなという人に向けて本当にちょうど良い提案にもなるでしょう。何も我慢しなくていいクルマなのです。

ですからすごく格好は良いのですが、実は中は狭くてとか、荷物が全然載らないというようなクルマであれば、商品企画としては許されません。しかし408はスタイリッシュで、荷物も積めて後ろも広いです。ですからこれを見た時に特に日本のお客様には刺さるだろうと考えるに至りました。

フランスから見るとちょっとスペシャルなクルマ、特別なクルマという見方もあるようです。しかし、日本では、プジョーの308Wやそれ以前のクルマをずっとご購入いただいてきて、そろそろ次は別のものもいいかなという方に、これが提案できるわけです。そこに気づいた時に、プジョーにもう一度新たな成長をもたらしてくれる重要なモデルなのではないかなと感じました。そういう人に新しいものを提供するのであれば、こういうクルマは絶対に必要です。

確かにパッと見にはちょっとニッチっぽい見え方や、あるいは追加モデル、直球ど真ん中ではなく変化球と見られがちなのですが、実は意外と直球になり得るなと感じていますし、ですから日本は割と売れると踏んでいます。

◆次の新たな一手を求める方に
---:では日本でのターゲットユーザーはどういう人たちですか。

八木:実はすごく難しかったんです。「3セグメントのクロスオーバー」と言うのは簡単なんです。でもこれを買う人は誰なのか。結果として、既存のカテゴリーのものを十分に味わい尽くして、次のものを探している人、新たな次の一手を探している人でしょう。少し抽象的なんですがそれなんです。

自動車は成熟産業ですし、50歳代くらいになってくると本当にいろんなクルマに沢山乗って様々な経験をして来た方が多いですよね。それでもまだワクワクドキドキしてもらえるような、新たなチョイスをしてもらおうというのが、本社の企画意図にもありますし、日本でも同じ見え方になるかなとは思っています。

---:そのユーザー側からの視点では、やはりシトロエンC5Xとの住み分けが気になります。

八木:そうですね。ボディサイズ的には少しC5Xの方が大きいのですが、似ているのは確かです。C5Xも若干ファストバックスタイルには見えますが、思いきりエレガンスに振っていますよね。一方の408はシャープでパキッとしていて、そのほかの要素からもスポーティ感覚があるでしょう。

ですからC5Xが良いなと思っておられる方は、408はスポーティすぎる、シャープすぎると思います。しかしC5Xを見てちょっと落ち着きすぎだなとか、すごくいいんだけど、もうちょっとダイナミックな感じがいいなとおっしゃる方は、やはり408なのだと思います。

もちろん乗ってみても結構軽快です。まったりとしてとして深呼吸するような快適さのC5Xに対して、走ってキビキビ楽しい。このボディサイズもあまり感じないくらいのハンドルを切った時の結構ダイナミックでスポーティなレスポンスもあるでしょう。

---:実際に乗ってみると、本当にプジョーブランドを見事に表現しているなと感じますね。

八木:それもあってステランティス内だと似ているといわれた瞬間に「?」って思うのでしょう。お客様の好みは全然違うからです。

技術的には確かに共通する部分が多いのですが、狙う層とか出したい雰囲気、ブランドの色が全然違うのですから。

◆ガソリンメインで
---:日本ではガソリンターボとPHEVの2つのパワートレインが用意されました。おおよその販売割合はどのくらいを想定されていますか。

八木:私の目論みとしては、ガソリン8に対してPHEVが2ぐらいです。というのはこのクルマは、実用車として、実利として買われる方が多いのではないかという期待があるからです。

---:それは308から来るからというところもあるのですか。

八木:そういうところもありますし、便利そうだから買う、よく見ると自分のライフスタイルにぴったりそうだと感じられるクルマでもあるでしょう。要するにスペシャリティカー、スペシャルなものというよりは、結構便利で、しかも格好良いじゃないかと感じていただける人が多いのではないかと思っています。そういうこともあって、499万円という値付けをしました。一方、PHEVは629万円と、いかに補助金が使えたとしても500万円台後半くらいにはなるでしょう。ではそういう実利を求める方たちがそこまで出すかというとどうなのでしょう。

ヨーロッパだともうちょっとPHEVの比率が高いと踏んでいるみたいです。彼らは前述の通り408はスペシャルなクルマと見ており、実利を求める方は全部308に行くとみています。ですからもうちょっとPHEV比率が高く見込んでいますが。日本だと408に実利を求める方が多いのではないでしょうか。格好良くて使えるクルマですよね。

確かにフランス側はもう少し適正に高くしたかったとは思います。でもこれが530万円といわれると、500万円台になりますのでずいぶん印象が違うでしょう。やはり日本では408をかなり格好良くて便利なクルマして購入される可能性が高いことを踏まえると、台数はそれなりに期待ができます。ですから、価格は低めにさせてくださいと交渉を頑張りました。

---:最後にこのクルマについてお話しておきたいことがあれば。

八木:先日カスタマー向けのセッションを開催したのですが、そこには308や508に乗っていますという本当に我々が思い描くようなお客様たちにたくさん来ていただけました。

そういった方々からは、このボディで1.2リットルの3気筒、1.6リットルではなくて大丈夫なのかというご意見が多く聞かれました。しかし最近のプジョーはボディが軽いですし、空力も頑張ってCd値0.29です。タイヤも低転がりタイヤの、ミシュランEプライマシーを履いていますので、実際に乗ると問題はありません。しかし結構そこを気にする方が多かったですね。

スペックだけ見てるとエンジンが小さすぎないかと思われるかもしれません。それでもトルクは230Nmもあるので、一昔前のNAであれば2リットルから2.4リットルぐらいある値ですので、トルクの問題はないですとご説明すると、納得していただけます。さらにこのエンジンは超ロングストロークの3気筒ですので、低回転力の動き始めにきちんとトルクが出ますからそういったシーンでも全く問題はありません。このエンジンはプジョーとしてすごく頑張って作った最新のエンジンです。エンジンオブザイヤーも受賞した自慢のエンジンなんです。しかもATとのマッチングもすごく頑張って作っていますので、ギクシャクとした動きなどは一切ありません。

どうしても1.2リットルというところだけに注目されてしまいますが、トルクは十分ありますし、結構回すと音も良いエンジンです。そして8ATとのマッチングと合わせて評価していただけると嬉しいですね。

プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C5X《写真撮影  内田俊一》 ステランティスジャパンマーケティング部プジョープロダクトマネージャーの八木亮佑さん《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》 プジョー 408《写真撮影  内田俊一》