ルノー カングー インテンス(ガソリン仕様)《写真撮影 中野英幸》

ルノー『カングー』はこの市場を確固たるものに作り上げた大功労車である。初代は2002年に日本市場に上陸しているそうで、昨年は20周年のアニバーサリーイヤーであった。

それにしてもヨーロッパの商用車がここまでの大ヒットを記録するとはお釈迦様じゃなくて、輸入するルノージャポン様でも気付かなかったことだろう。

◆カングーが日本で独壇場を作り上げた理由
知らなかったのだが最初期のカングーは、跳ね上げ式のテールゲート車のみで、その後に観音開き仕様がチョイスできるようになり、こちらが人気ということで以後跳ね上げ式は導入されなくなったそうである。初代カングー導入時に私が書いた原稿を読み返してみると、何故このクルマが日本に導入されたかの一端が見えた。
 
曰く「日本的にはどう見ても商用車である。現実に、本国ではかなりの数が商用車的に使われているはずだし、同じようなコンセプトのモデル、プジョー『パートナー』は完全に商用車だし、シトロエン『ベルランゴ』にしてもそれは同じ。しかし、カングーだけはどうやらそうではないらしく、ヨーロッパでも権威ある、ジュネーブショーの公式カタログ、オートレビューによれば、マルチパーパスカーとしてカテゴライズされ、日本では乗用車というくくりに入れるのだという。まあ、カングーだけは本国でも4WDモデルが存在し、エンジン・バリエーションも8種類と、プジョーやシトロエンのライバル3種類を圧倒しているから、似て非なるものと言えるのかも知れない。それにこのクルマ、本国では97年12月のデビュー以来、すでに100万台の生産を達成した、かなりの人気車なのである。」つまり、デビュー時からライバルを凌駕していて、しかも乗用車登録ができるということが肝のようである。当時ライバルメーカーだったシトロエンやプジョーに話を聞いてみたが、導入できない最大の理由はオートマチックが存在しないことにあった。」

という結果がカングーの独壇場を作り上げたのである。ところが3年ほど前から追われる立場になった。即ちライバルとしてシトロエン・ベルランゴとその兄弟車プジョー『リフター』が導入され、最近では同じ兄弟車でフィアット『ドブロ』も投入されるに至った。しかもドブロは明らかにカングーに狙いを定めたのか、カングーの「クレアティフ」や「ゼン」グレードのようなブラックバンパーを装備して登場している。

◆ライバルにはない、カングーならではの2つの要素
そんなわけだから、ルノー・ジャポンもかなり神経質に新しいカングーの仕様を決定し投入したようだ。その結果、ライバルになくて、カングーだけにある装備はきっちりと使い、差別化を前面に押し出して誕生させたように見える。その一つが前述した観音開きのリアドア。そしてもう一つはガソリン仕様の設定である。

この2点はライバルが持たない仕様で、カングーならではである。もっとも、ライバルのステランティスに聞いたところ、カングーからの乗り換えはほぼ皆無だそう(最近は判らないが)で、同じヨーロッパの商用車ベースながら、棲み分けはきちんとできているようにも見える。とはいえ、それほど大きなパイがあるわけでもないだろうから、今後は市場の奪い合いに発展していく可能性は高い。

では、新しいカングーのガソリン仕様はどんな印象かというと、一言で言ってそのスムーズさや静粛性の高さでは間違いなくライバルを凌駕している。あちらは1.5リットルのディーゼルしか設定がないからまあ当然と言えば当然だ。パフォーマンス的にはフルロードをかけて乗っていないので、そのあたりは不明だが、1人2人の乗車では何の不満もなく、3人乗車で移動してもアンダーパワーを感じることはなかった。

実は連休中に車をお借りして、とんでもない大渋滞で横浜青葉インタ〜千葉市若葉区の移動に何と3時間半もかかる大渋滞にはまってしまったのだが、1度の休憩(トイレタイム)を入れた以外は走りっぱなし(と言っても大半止まっていたが)でも疲れ知らず。やはりシートの出来は良いというのが実感であった。ただ、やはりエアコンの効きはイマイチで、後席ダクトは持つものの特に後部座席はかなり暑くなるようである。

◆オススメはスムーズで快適、静粛性の高いガソリン仕様
2代目が14年も引っ張った関係で、旧態依然化したことはご存じの通りである。おかげで3代目はまあ言ってみれば普通になった。特にADASの進化やキーなどはようやく追いついた感が強い。そんな中で敢えて、ナビについてはメーカーオプションの設定がない。

ナビはスマホをミラーリングして設定するのだが、この際アンドロイド系のスマホではグーグルマップ以外は使えず、iPhoneなら例えばヤフーカーナビが使えるのだがそのあたりはアンドロイド系スマホを持つユーザーには不便に感じる。

相変わらず乗り心地は商用車ベースとは思えない上質さである。とりわけフランスのクルマ作りはサスペンションの伸び側の制御が昔から上手で、快適と感じるのはここにその秘密があると思う。

燃費は前述の大渋滞にはまったにもかかわらず、トータルで400kmほど走って14.1km/リットルほどだから悪くない。そうは言っても仕方ないとはいえ、お値段が乗り出し400万円を超えてしまうのは、先代までのユーザーが乗り換えるにあたり躊躇する部分ではないだろうか。

因みにガソリンとディーゼルの価格差は24万円である。短距離移動派ならガソリンを選んで正解ではないだろうか。ランニングコストを吸収するには相当な年月と走行距離が必要になるから、スムーズで快適、静粛性の高いガソリンというチョイスが良いと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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