ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》

2023年2月に日本に上陸したルノー『カングー』は、およそ14年ぶりに完全新設計となった新型だ。

カングーは、本国では働くクルマとしても有名で、パリのお花屋さん、パン屋さん、そして地方では農地でも活躍する商用車でもあるのだが、同時に乗用車タイプも設定され、それが日本へやってくるカングーなのである。

日本においてもカングーは、アウトドア派はもちろん、愛犬家、愛犬にとっても理想に近いユーティリティカー。これまで多くの愛犬家に愛されてきたフランス車でもある。

ルノーは以前、インタ―ペットという一大ペットイベントに出展し、そこで愛犬家仕様の「カングーWith Pet」を展示。多くの愛犬家と愛犬に注目されたこともあったのだ。

ルノージャポンのリクエストによって、これまでのブラックバンバ―×ダブルバックドア(詳細は後述)のジャパンスペシャルモデルが用意された新型カングーもまた、愛犬家と愛犬にぴったりのクルマであることは、言うまでもない。ここでは、そんなカングーのドッグフレンドリーポイントについて検証したい。

◆観音開きのバックドアがペットフレンドリーな理由
そうそう、オシャレさも際立つフランス車には、カングーに倣えとシトロエン『ベルランゴ』、プジョー『リフター』という同種のリヤスライドドアを備えたハイトワゴン、ユーティリティカーも存在するのだが、カングーのドッグフレンドリー度はそれらを上回る…というのが、モータージャーナリストでありドッグライフプロデューサーでもあるボクの率直な評価となる。

その最大の理由が、先代からも継承されるカングーならではのダブルバックドアだ。一般的なハイトワゴンのバックドアはボックス型ミニバンのように大きく縦開きするのだが、カングーは観音開き、つまり2枚のバックドアを両側に横開きするタイプなのである。これがどうドッグフレンドリーなのかと言えば、ラゲッジルームに乗せた犬を下ろす際、一般的な1枚のバックドアを縦に大きく開くと、不意の飛び出しをブロックしにくいのに対して、ダブルバックドアであればまず片側だけを開けることになり、飼い主の体(の幅)で犬の飛び出しを防止しやすい構造だからである。動物関係の仕事に従事するプロが、動物を運ぶための手段として、そうした観音開きのバックドアを持つクルマを重宝しているのも、そんな理由があるからにほかならない。

そもそも、こうしたハイトワゴン、ボックス型ミニバンの縦開きのバックドアを全開するには、車体後方に1m前後のスペースが必要になり、壁ギリギリに止める、車体後方にクルマが止まっている…というような場面では、バックドアを開けることは難しい(トヨタ『ノア/ヴォクシー』などは途中で止められるアイデアを持っているが)。しかし、観音開きであれば、車体後方にスペースがなくてもバックドアを開けやすく(左側バックドア全開時の車体後方に必要なスペースは約825mm。それ以下でも荷物の出し入れは可能)、荷物の出し入れはもちろん、愛犬の乗降にも有利ということだ。

◆愛犬が乗り降りしやすい、開口部の広さと低い地上高
もちろん、愛犬にとっての特等席は、エアコンの空調が行き届き、前席の飼い主とのアイコンタクトがしやすい後席になるのだが、スライドドアの開口部はステップ地上高約480mm(フロアはそこから110mm低い位置で段差があるのはちょっと残念)、開口幅最大約660mm、開口高約1120mmと広々。3座独立となる6:4分割可倒式の後席のシートサイズは座面長約420mm、総幅約1340mmと、座面長は特に長くないものの、幅方向はたっぷりとあり、小中型犬用のキャリーケースを運転席背後側に固定しても(1座分)、隣りに飼い主がゆったり座れるスペースがあるのがうれしい。

一方、クレートなどを用いて、大型犬などをラゲッジルームに乗せる場合はどうか。まず、ラゲッジルームの容量そのものは、先代比+115Lの715Lにも達し、新型はより広くなっている。具体的には、ラゲッジルームの開口部地上高は、メーカー値だと594mmとなっているが、ボクの実測では約570mm。先代が約545mmだったからやや高くはなっているものの、世界のステーションワゴンのラゲッジルームの開口部地上高平均値が約620mmなので、それよりずっと低く、愛犬が自身で乗り降りするにも申し分のない高さと言っていいだろう。開口部に段差はなく(掃き出しフロア)、犬が足を引っかけるような心配もない。

◆走行性の静粛性、安定性は?
新型カングーのドッグフレンドリーポイントはそれだけにとどまらない。先代に対して乗用車価値を高めているのも大きな特徴で、その成果のひとつが走行中の静粛性の高さ。犬は聴覚に優れ、人間があまり気にならない騒音もストレスの原因になりがち。新型カングーのとくに1.3リットルガソリンターボモデルは、走行中の車内の静粛性が飛躍的に高まっていて、それこそカングー史上でもっとも静かに乗り心地良く、スムーズに気持ち良く走ってくれるのだから、これもまた大きなドッグフレンドリーポイントになりうるのである。

さらに、車内でどこかにつかまれない犬にとって、カーブでの車体の姿勢変化はおおいに迷惑なはずだが、この新型カングーは全高が1810mmもあり、重心高が高いにもかかわらず、カーブや山道での車体の姿勢変化、揺れは最小限。しかも、文句なしにいい乗り心地を犠牲にせず、そうした安定感たっぷりの走行性能を実現してくれているのだから、これまたドッグフレンドリーと言えるのだ。

◆新型は先進運転支援機能も充実
ところで、愛犬家の方がこれまでドッグフレンドリーカーとして先代のカングーに興味を持っていても、今一歩、購入に踏み切れなかったケースがあったかもしれない。その最大の理由が、今では軽自動車にも付いている衝突軽減ブレーキを始めとする安全装備、先進運転支援機能を一切持たなかったことにありそうなのだ。だったら同種のリヤスライドドアを備えた、先進運転支援機能も充実した国産コンパクトミニバンの2列シート版、ホンダ『フリード+』やトヨタ『シエンタ』のほうが安心じゃない? となったりする。

が、そんな心配や不安はもはやない。新型にはカングーとして初搭載となる衝突軽減ブレーキを始め、アライアンス関係にある日産由来の先進運転支援機能、具体的にはACC(アダプティブクルーズコントロール)、レーンセンタリングアシストなど、十分な機能が搭載されている。そうした部分で購入を躊躇していた愛犬家も、これなら安心して愛犬と快適で安全かつ爽快なドライブを楽しむことができるというわけだ。

国産車にも、この「青山尚暉のわんダフルカーライフ」でこれまで紹介してきたドッグフレンドリーなクルマはたくさんあるものの、オシャレでちょっと人とは違うドッグフレンドリーカーとして新型カングーは、先代ユーザーの愛犬家と愛犬にはもちろん、それ以外のクルマに乗っていた愛犬家と愛犬にとっても絶好の1台と思える。オーバーヘッドコンソールに愛犬用アイテムを忍ばせておける使い勝手も文句なしである!

ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 先代カングーと筆者の愛犬《写真撮影 青山尚暉》 先代カングーと筆者の愛犬《写真撮影 青山尚暉》 カングーWith Pet《写真撮影 青山尚暉》 カングーWith Pet《写真撮影 青山尚暉》 カングーWith Pet《写真撮影 青山尚暉》 カングーWith Pet《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 ルノー カングー《写真撮影 青山尚暉》 5人乗りのシトロエン ベルランゴ《写真撮影 小林岳夫》 シトロエン ベルランゴ《写真撮影 小林岳夫》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》 プジョー リフター GT《写真撮影 中野英幸》