テスラ モデルY RWD《写真撮影 中村孝仁》

◆俗っぽい自動車感を捨て去るには十分
かつて『モデルS』に試乗した時はその圧倒的な加速感に驚き、酔いしれた。テスラに試乗するのはそれ以来のことだが、このクルマに心酔する人の気持ちは少し理解できる。

恐らくこのクルマほど、乗る前のコックピットドリルが必要なクルマはない。とにかく我々のような旧人類が使い慣れた物理スイッチというものがほとんど存在しないからだ。確かにステアリングコラムからはウィンカーレバーとシフトレバーが生えているが、物理的なスイッチとして機能するものは恐らくこれだけ。あとはすべてダッシュセンターにある大きなディスプレイから必要な操作を探し出して、そこでコントロールする。

ドライバーの眼前にはステアリングはあるものの、その先に本来あるべきメーターディスプレイはない。つまりスピード表示であったり電池残量(ICEなら燃料残量)、可能走行距離などの情報もすべてセンターディスプレイに表示される(因みにディスプレイは15インチサイズ)。というわけで本当に徹底していて、クルマに乗り込むと広がる景色な、まあ見事なほど潔くシンプルで、清々しい。ここまでやれば、俗っぽい自動車感を捨て去るには十分である。これがモデルSとは違う『モデルY』に試乗した時の感想だ。

◆天井以外の質感は十分に高い
質感は十分に高い。と言っても重箱の隅をつつく狸モータージャーナリストの手にかかると、全面ガラスのルーフ周りに少しだけ残る内装が裁ち落としとなっていて、ルーフガラスとその内装の間に手を入れると、ざっくり裁ち落とされた素材に触れることができる。実はこの辺りは同じ日に乗ったBYD『ATTO3』の方がきちんと作られていて、さすがにアメリカ製の良くも悪くも質感の切り捨て感が凄いと思わざるを得なかった。

シート素材は一見本革、しかし実態はフェイクらしいが今ではフェイクの方が耐久性も高く汚れにくいのでこちらで正解である。前述した裁ち落としの天井以外の質感は十分に高い。

今回試乗したモデルはRWDと名が付くモデル。2種のうちいわゆる下級グレードの方。上級はデュアルモーターでAWDである。ということはシングルモーターで、バッテリーもスタンダードと書かれたもので上級モデルよりも容量が小さいようだ。因みに上級のAWDはロングレンジと称するバッテリーを搭載する。この辺りの詳しい内容はホームページを見てもわからなかった。一応航続距離は最大507kmとされている。

◆安定感は抜群、「スポーティ」と言えば聞こえはいいが
さて、静粛性の高さは発進から次の停止に至るまで至って静かなことは言うまでもなく、BYDのような余計なギミックの音は出ない。ウィンカーを出すと車両サイドを映し出すのはヒョンデの『NEXO(ネッソ)』と同じ。これは便利だと思うがそれを見るためにはディスプレイに目を移す必要があるので、まあチラ見程度にしか確認できない。

加速は2種選ぶことができ、いわゆるエコにあたるのがチルと呼ばれるモードで、もう一つはスタンダードと名付けられている。このスタンダードで十分に速いので、敢えてスポーツは備えていないようだ。

減速の方は実は1種のみで、現状ワンペダルドライブを可能にし、停止までブレーキを踏まなくても車両を止めることができる。減速Gはかなり強めで、これを弱めることができないか聞いてみたところ、お客様の大半がこの仕様を好まれるということで、今はワンペダルの回生強め以外の選択肢は無いそうである。

バッテリーを床下に敷き詰めたテスラの安定感は抜群である。抜群ではあるが、では乗り心地がどうかというと、正直かなり硬めでダンパーなどのツッパリ感が強い印象である。同じ日に乗った他の電動車と比べてもスポーティーと言えば聞こえはいいが、残念ながらしなやかさに欠ける乗り心地であった。

◆電動車のパイオニアとして存在感は未だ強い
収納性の高さは売りにしているようで、リアのラゲッジとフロントのトランクスペースは実に使い勝手が良さそうであるし、その容量も大きい。この前後の収納スペースを見ると、如何に電気自動車のパーツ点数が少なくメカニカルトレーンがコンパクトに作られているかを痛感する。自動車産業に携わるであろうかなりの人手が削減され雇用が失われる印象が強い。

とはいえ、それでテスラを責めるわけにもいかず、電動車のパイオニアとしてその存在感は非常に強い。昨年は130万台以上を全世界で売り上げ、お膝元のアメリカでは22万5000台以上を売り上げた。北米の全自動車販売ランキングでも8位に顔を出している。しかも上位7台はすべてICE搭載車だから電気自動車としては勿論トップ。

さらに注目すべきはモデルYより上位のモデルが対前年比で売り上げが落ち込んでいる中で、モデルYだけが対前年比39.79%増を達成している。電気の時代が間近に迫っている印象を与え、同時にセンスで選ぶならテスラ…そんな気にさせるモデルであった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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