角田裕毅(F1)《Photo by Red Bull / AlphaTauri》

2023年、今年も四輪モータースポーツでは海外のトップシリーズで日本人選手の継続的かつ一層の活躍が期待できそうだ。年頭にあたり、主な“世界戦線”における日本勢の戦いを展望する。

◆F1、WEC、WRCで存在感を示している日本勢
昨年(2022年)の秋、日本ではFIA(国際自動車連盟)公認の世界選手権シリーズである「F1世界選手権(F1)」「世界耐久選手権(WEC)」「世界ラリー選手権(WRC)」の開催が久々に実現した。鈴鹿サーキットでのF1日本GPは3年ぶり、富士スピードウェイでのWEC富士6時間も3年ぶり、そしてWRCラリージャパンは12年ぶりの開催実現(愛知・岐阜では初開催)だった。

日本ラウンド開催復活だけでも嬉しいが、それぞれの舞台で今、日本勢が存在感を発揮してくれていることが喜びの度合いを増す。昨年11〜12月のサッカーW杯における日本代表の躍進に続き、2023年は四輪モータースポーツの“日本代表”たちにもさらなる飛躍を願ってやまないところだ。

(*以下、本稿の内容は2022年12月末時点の情報等に基づく展望となる。写真はいずれも2022年のもの)

◆角田裕毅はアルファタウリでF1参戦3年目
まずはF1。角田裕毅が自身3年目のシーズンを迎える。今季2023年もアルファタウリ(搭載パワーユニット=PUは「ホンダRBPT」)で走る角田だが、これまでとはチームメイトが異なる。ピエール・ガスリーがアルピーヌに移籍し、新たにニック・デ・フリースが加入した。

デ・フリースは今季が初のF1フル参戦(出走経験1戦)。でも年齢的には角田より上で、フォーミュラEのチャンピオン経験を有するなど、実績充分のドライバーだ。切磋琢磨による相乗効果でチーム力の底上げをしていくことが新コンビには切望される。

角田は昨年12月のホンダの2023年活動発表におけるビデオコメントで、「コンストラクターズランキング(チーム部門の年間ランキング)5位を目指したい」との目標を語った。アルファタウリは2021年が6位、2022年は9位へと下がったので、これを“Aクラス”(全10チーム中の上半分)の5位に押し上げることができれば、角田もデ・フリースも大きく評価を高めることになるだろう。アルファタウリの系列上位チーム、レッドブルのシートが空くのは、現状では早くて2025年。そこに照準を合わせていきたい角田でもある。

角田個人のF1における年間最高決勝順位は1年目(2021年)が4位で、2年目(2022年)は7位。昨季はマシン戦闘力の面でアルファタウリが後退した影響もあって角田の成績も降下したが、3年目の今季は安定的なポイントゲット(10位以内)と、どこかで訪れるだろう好機での初表彰台ゲットが望まれる。

なお、F1では今季、レッドブルとアルファタウリの使用するPUの名称が「ホンダRBPT」になるとされており、2022年の“実質ホンダ”から、2021年までの「ホンダ」に扱いが少し近づく!?(RBPTはレッドブル・パワートレインズの略。2022年の両チームのPUはこの名だった) 名称はともかく、“ホンダ勢”として3年連続のドライバーズチャンピオン輩出、2年連続のコンストラクターズチャンピオン獲得にも期待がかかる(2021、2022年「王者」はマックス・フェルスタッペン、2022年「王車」はレッドブル)。

そして近未来のホンダ&レッドブル系F1シート獲得を目指す岩佐歩夢の活躍にも注目したい。昨季はFIA-F2選手権でドライバーズランキング5位(2勝)。F2で2年目となる2023年はさらに上の成績、チャンピオン獲りを視野に入れるくらいに躍進してもらいたいところだ。また、やはりホンダ&レッドブルの共同育成派遣として、英国のジュニアフォーミュラ「GB3選手権」に荒尾創大(あらお・そうた)が参戦予定となっている。

◆トヨタからはWECに可夢偉と平川、WRCに勝田が参戦
近年はトヨタ(トヨタGAZOOレーシング=TGR)が覇権を握っているWECとWRC、ここでも日本人選手が活躍してきた。そして今季2023年もその継続が充分以上に見込まれる。

昨季、WECのトップカテゴリー(現在はハイパーカー・クラス)にトヨタから初参戦した平川亮は、セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレーとともにチャンピオンクルーになった。日本人選手のWECドライバー部門王座獲得はトヨタの先輩である中嶋一貴、小林可夢偉に続くものだ(本稿におけるWECの王座はすべて“トップカテゴリー対象”のそれを意味する)。

2023年もトヨタはドライバー、マニュファクチャラーの両部門王座キープと6年連続になるルマン24時間レース総合優勝を狙う。マシンは「GR010 ハイブリッド」、ドライバー編成は平川組が平川、ブエミ、ハートレー、可夢偉組が可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペスで、いずれも不動だ。6人がすべて、トヨタでのルマン総合優勝とWECドライバーズチャンピオン獲得の経験を有する心強い布陣である(可夢偉は2022年からチーム代表を兼任中)。

今季のWECハイパーカー・クラスにはビッグブランドの参戦が増し、ルマンを中心に戦いの質が一段と向上しそうな様相を示している。トヨタ勢が列強とどう戦っていくか、これは大きな注目ポイントだ。これまで以上に2台が協力し合う局面が増えてくるかもしれない。

そしてWRCでは、今季もトップカテゴリー(2021年までWRカー、2022年からRally 1)にレギュラー参戦する勝田貴元に初優勝の期待がかかる(マシンは「GRヤリス Rally 1 ハイブリッド」)。これまでに勝田のラリー総合順位でのWRC表彰台は3回あり、2021年が2位1回(サファリ)、2022年は3位2回(サファリとジャパン)。まずは表彰台の数を増やし、そして好機で一発を狙う、というところだろうか。

今季の勝田は、いくつかのラリーでトヨタの“ワークス登録”としてマニュファクチャラーズタイトル争いに、つまりトヨタの王座防衛に直結する立場で走ることが決まっており、その意味でもさらなる上昇が必須となる。年間ドライバーズランキングでも昨季の5位より上に行きたい。安定した得点力(完走力)は昨季(リタイア1回のみ)で実証されているので、やはり次は“居る順位”のベースアップを果たしたい勝田だ。

「GRヤリス Rally 1 ハイブリッド」で戦うトヨタ・ワークス陣(TGR World Rally Team)の今季ドライバーは、カッレ・ロバンペラ(2022年王者)とエルフィン・エバンス(最高ランキング2位)がフル参戦で、セバスチャン・オジェ(王座獲得8回)と勝田が3台目をシェアする格好になる(オジェ参戦時も勝田はチーム外として「GRヤリス Rally 1 ハイブリッド」で出走する)。

なお、トヨタの「TGR WRCチャレンジプログラム」は勝田を支えるだけでなく、彼に続く日本勢の育成も行なっている。2023年も大竹直生、小暮ひかる、山本雄紀がフィンランドを拠点にして、欧州の地方選手権ラリーを中心にRally 4の車両で参戦する予定になっている。

◆佐藤琢磨、インディ500通算3勝目なるか!?
世界選手権ではないが、それに匹敵する存在感を誇るのが北米最高峰の「NTTインディカー・シリーズ」。ここはなんといっても佐藤琢磨のインディ500通算3勝目への挑戦が焦点になる。昨年12月のホンダの2023年活動発表では、琢磨の名はインディカー参戦陣容のなかにチーム未決定の状態で記載されていた。どういう体制の参戦になるにせよ、2023年も琢磨の最大目標は2017、2020年に続くインディ500制覇で変わりないだろう。

インディ500の勝ち方を知っているドライバーはそう多くはおらず、そのひとりである琢磨は常に勝機ありの状態で大舞台に臨める存在だ。インディ500で3勝となると、アメリカでもトップ中のトップレジェンドの仲間入り。ぜひ、その実現を今年の5月に見たい。

こうして見わたしてくると、現代は四輪モータースポーツにおける日本代表の黄金期、とも考えられよう。コロナ禍の影響で彼らの活躍が矮小化して伝えられていた面もあり、実感は薄いかもしれないが、日本勢の活躍度がかなりの高域にあることは間違いないはずだ。

2023年もF1、WEC、WRCの日本ラウンドがシーズン後半に開催予定であり、そこに日本勢が好成績で凱旋してくれれば、一層大きな盛り上がりも期待できるだろう。そんなシーズンになることを願わずにはいられない。

角田裕毅(F1)《Photo by Red Bull / AlphaTauri》 角田裕毅(F1)《Photo by Red Bull / AlphaTauri》 #22 角田裕毅(F1)《Photo by Red Bull / AlphaTauri》 ニック・デ・フリース(F1)《Photo by Red Bull / AlphaTauri》 岩佐歩夢(F2)《Photo by Red Bull》 左から平川亮、ハートレー、ブエミ(WEC)《Photo by TOYOTA》 左から小林可夢偉、コンウェイ、ロペス(WEC)《Photo by TOYOTA》 トヨタ勢の#8 平川組と#7 可夢偉組(WEC)《Photo by TOYOTA》 勝田貴元(WRC)《Photo by TOYOTA》 勝田貴元(WRC)《Photo by TOYOTA》 勝田貴元(WRC)《Photo by TOYOTA》 #18 勝田貴元(WRC)《Photo by TOYOTA》 佐藤琢磨(インディカー)《Photo by INDYCAR》 #51 佐藤琢磨(インディカー)《Photo by INDYCAR》