キャデラック リリック《photo by GM》

ホンダと協業するGMの電動プラットフォーム「アルティウム」
庶民のアシたるコンパクトカーから本国での稼ぎ頭となる大型トラックやSUVも含め、販売する全ての乗用車を35年までにゼロ・エミッション化する。カバーするモデル群が広い総合メーカーがゆえに、GMの掲げた目標はことさら壮大なものにみえてくる。

ゆえに同じようなビジョンを持つホンダとの協業もより具体的な方向へと進んでいるわけだが、両社のポートフォリオにも大きく影響してくるのがGMが長年手掛けてきたバッテリーテクノロジーの「アルティウム」だ。

これはパウチ型のセルを24層束ねたバッテリーパックを1モジュールとし、6〜24のモジュールを平置きや重ね置きすることで多様な車種車格に対応する土台を構成、バッテリーの置き場となるフロアを挟み込む前後のコンパートメントやサブフレームの設計に柔軟性を持たせることで様々な車型に対応する。それによって開発の速度を高めながら工数を減らすというわけだ。

この骨格に合わせて新規開発された3種類のモーターを組み合わせ、用途に合わせて前輪駆動、後輪駆動そして四駆を構成するのがアルティウム・アーキテクチャーのアウトラインとなる。ちなみにホンダは、このアーキテクチャーを採用したコンパクトSUVと目されるBEVをGMと共同開発、27年以降に北米から順次展開することを決めている。

キャデラックのBEV『リリック』のスペックは
そういった面でも注目されるアルティウムを採用した初出しのモデルに位置づけられるのが、GMC『ハマーEV』と時期をほぼ同じくしてお披露目されたキャデラック『リリック』だ。新世代のキャデラックをアイコニックに表現するそのデザインは、さる7月に発表された大型サルーンのコンセプトカー『セレスティック』のアイデアをベースとしている。ちなみにセレスティックを手掛けたのは、GMのインハウスデザイナーである日本人だ。

リリックに搭載されるバッテリーは12モジュール。2×6列で床面に平置きされる。容量は100kWhとなり、ベーシックな1モーター後輪駆動パワートレインの場合は走行可能距離が米EPA基準で502kmとなる。急速充電は190kW出力に対応、そして航続距離は落ちるが、よりハイパフォーマンスなAWDモデルも追って用意される予定だ。

全長4996×全幅1977×全高1623mm。リリックの車格を既存モデルになぞらえれば、アウディ『Q8』の背丈を低くした感じとでもいえるだろうか。日本的にはEセグメント級SUVといえば、相応に大きな部類に入る。床面にバッテリーを敷くBEVがゆえ、フロア高はちょっと高めだ。自ずと脚を前方に伸ばし気味に座ることになるが、ホイールベースは3093mmと相当長く採られており、足元空間は余裕綽々だ。

欧州車的に「剛」な走りとは一線を画した、優しい乗り味
リリックを試乗したはGMのプルービンググラウンドだが、実はその前にダートコースでハマーEVに乗る機会もあった。12モジュールのバッテリーを二層、つまり24モジュール搭載し200kWhの容量を持つアルティウムアーキテクチャーに前1つ、後2つの3モーターを搭載し後輪は各輪を独立制御、それに同逆相各最大10度の後輪操舵を組み合わせることで、カニ歩きのような斜め横方向への移動も可能と、法外なパワーも含めてそれは、アルティウム・アーキテクチャーの持てる可能性を全力で誇示しているかのようなモデルだった。

対してリリックはといえば、直近までのキャデラックが指標していた欧州車的に「剛」な走りとは一線を画し、従来からのふわりと優しい乗り味を思い起こさせるような、そんなタッチが印象的だ。実はそれは乗り味のみならず、デザインの方も60年代前後の最も長大で優美だった頃のキャデラックにインスパイアされたところが多々あると、セレスティックの側に携わった件の日本人デザイナーは語ってくれた。

試乗グレードが、ベース車となる後輪駆動だったこともあってか、動力性能的に際立つのは速さよりも上質感だ。発進時のトルクは綺麗になまされており、その立ち上がりは穏やかだ。低中速域からであれば、アクセルを踏めばシートに押し付けられるようなGと共にシームレスな加速が得られるが、その躾も丁寧で首を仰け反らせるような下品さはない。件の足回りのしなやかさが体に乗るGを巧く和らげているところもある。

テストコースでは激しい凹凸路なども敢えてトライしたが、そういう場面でも乗り心地は乱れずふわっとしている。一方で足回りの追従性もしっかり確保されていて、上屋の動きに無駄なバウンドはない。BEVならではの低重心を巧く運動性能の側に転化したぶん、サスセットを乗り心地の側に寄せることが出来たのだろう。BEVの特質を存分に感じたいならツインモーターの四駆に限るだろうが、こちらはこちらで柔らかさをいい意味で個性に変え、歴史との紐付けに繋げている。

見ても乗っても新世代キャデラックの封切りを存分に感じさせるリリック。その日本導入の時期や仕様などは現在検討中で、来春くらいを目処に詳細の発表を予定しているという。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

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