日産 アリア《写真撮影 中村孝仁》

日産『アリア』がお披露目されてから市販に移されるまでに、ほぼ2年の歳月が流れた。そのスタイリングを、横浜本社のギャラリーで見るたびに「デカくなったノート」という認識を個人的に植え付けてしまった。それが何を意味していたかというと、「騒ぐ割には大したことない」という勝手な認識である。今回初めて試乗してみて、その刷り込みと認識は大きな誤解であったことをまずは報告しようと思う。

第一印象は、洗練、上質、そして知的
『アリア』はとても洗練された電気自動車(BEV)である。日産はBEVに対しては一過言あるだろう。まだ市場が全くないところ(三菱の『i-MiEV(アイミーブ)』は軽ということでカウントしていないが)にリーフを投入し、12年間市場をリードしてきた。その蓄積をもってアリアを投入してきたわけだから、当然ながらそれなりに自信満々だと思うわけである。初めて乗った第一印象は、やはり、洗練、上質、そして知的という3つのキーワードで語ることができる。

諸々の数値については他の記事でも読めると思うので敢えてここで書かないが、性能的にそこそこのパフォーマンスとそこそこの航続距離を持ったクルマであることは、そうした数値を見て頂ければわかると思う。そのうえで洗練というのは電気自動車としての動的質感の洗練度が非常に高いと感じられたこと。

次の上質は内外装の設えがなかなか凝っているし、新しい価値観を提供している印象を受けたこと。そして3つ目の知的は電気自動車と言えば闇雲に出足が良くて、パーシャルからアクセルを全開にすると頭をヘッドレストに打ち付けるような凄まじい加速を売り物にするBEVが多い中で、滑らかな加速感やそのパワーの出し方に実にインテリジェンスを感じられるスマートな仕上がりを持っているところにその知性を感じたことによるものだ。

1920kgの車重がもたらすもの
もちろん手放しですべてに花丸をあげるわけにはいかない。このクルマの最大の欠点はその乗り心地にある。おおよそ200〜300kg、モノによってはベースとなった内燃機関モデルに比べて600kgも重くなってしまうクルマもあるBEV。電池の搭載量の割には比較的軽めに収めているアリアである。といってアリアの場合は元になるモデルがないので比較しようがないのだが、要するに既存の内燃機関モデルをBEVに転用した場合、概して重量が重くなる傾向にあるのに対し、初めからBEVを想定した専用のプラットフォームを持つクルマでは車重はだいぶ軽く収まる傾向にある。

ただそうは言っても車両サイズ的にいえばC〜Dセグメントのクルマであるにもかかわらず、1920kgと2トンに手が届く車重はやはり重いと言わざるを得ず、この電気自動車=車重が重いはBEVの本質的な矛盾をはらんだ大きな要素である。

というのもBEVを購入すると重量税は免税となる。そもそも重量税は重いクルマが公共財の道路を傷めるからその分を支払いなさいというのが基本。なのに車重の重い電気自動車を免税にするのは本来なら本末転倒である。

その重さのせいでこれまで色々なBEVに試乗してみたものの、本当に満足のいく乗り心地を提供してくれるBEVはごく限られたモノしかない。車重が重いからどうしてもサスペンションはそれなりの硬度を必要とするのだろうからダンパーもスプリングもある程度強化しなくてはならない。結果として乗り心地がイマイチとなるのだろうか。多くの重いBEVはクルマが跳ねる傾向が強い。そしてフラット感の希薄な乗り味のモデルが多いのである。

アリアも例外ではなかった。とにかくよく跳ねる。直接的なガツンと言う衝撃は伝わらないのだが、常にぴょこぴょこと跳ねていて落ち着きがない。フラットな路面では上質な乗り心地を提供するが少しでも凹凸があると跳ねる。個人的印象としてトヨタ『bZ4X』とスバル『ソルテラ』は例外的に良かったように感じた。

乗り心地以外はとても洗練度の高いBEV
試乗車は「B6」というアリアにとってはベースグレードのモデル。お値段539万円だが、メーカーオプション110万3300円、ディーラーオプション16万4432円が乗って合計は665万7732円と結構なお値段になる。補助金を使っても500万円台中盤というところだろうか。

音は静かだし、冒頭書いたように動的な質感は非常に高くスムーズで快適(あくまでも駆動系の動き)、そして洗練されて上質な室内空間。広さだけでなく新たな提案的な装備が満載である。イルミネーションライトも独特で、日本の行灯をイメージさせたものだそうだが、最初は光の反射で照らされているのかと思いきや、いつまでもともっているのでそれと気づく。

スイッチ類も独特。タッチスイッチではあるのだが、それがディスプレイをタッチするのではなく、フェイクウッドのインパネをタッチする形になっているし、センターコンソール上のeペダルスイッチなどは単なるタッチではなくちゃんと押し込む必要がある。そのセンターコンソールも前後に150mmほどスライドする。一番後ろまで下げるとウォークスルーも可能である。といった具合でアリアのインテリアは見ても触っても新しいもの感が満載だった。

WLTCモードで航続距離は470kmだそうだが、現実的には400km行けばよい方だろう。ただ、必要十分だと思う。それにこの電気残存の%と可能走行距離表示はかなり精度が高そうで、他社のBEVと違っていきなり20km減ったりあるいは途中で増えたりということは一度もなく、律義に徐々に減っていったから、充電の目星をつけやすかった。

どこをとっても乗り心地以外はとても洗練度の高いBEVである印象を受けた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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