VW ゴルフ GTI《写真撮影 南陽一浩》

2021年も暮れかけだが、パンデミック下で脱炭素化が加速中でも、日本でフォルクスワーゲンがプロダクト攻勢の手を緩めることはなかった。『T-Roc(Tロック)』と『T-Cross(Tクロス)』というSUVブラザーズの準・中兄と末弟が絶好調だったせいもあり、日本市場でも地味めに受けとめられた『ゴルフ8』だったが、むしろ欧州ではEV化の尖兵たる既存自動車メーカーのように見られてきたVWが、ICEにこれだけ意欲的なモデルを追加してきたこと、広く目を配っていることは、グッド・サプライズと捉えられる。

そう、ゴルフの本命モデルたる2リットルディーゼルの「TDI」と、伝統のスポーツモデル「GTI」が2022年1月7日から発売されるのだ。いずれも2リットルターボで、WLTCモードで20km/リットルという欧式実用車の権化のような最新ディーゼルと、ガソリンのパワーユニットを370Nm・245psにまで高めた後者に、ひと足早く箱根で試乗する機会を得た。

GTIとTDI、精緻な佇まいのインテリア
アナログメーターを廃してすべてディスプレイ化したグラフィカル・インターフェイス、そしてデジタル化に伴う新しいインフォテイメントは、先行する1リットルおよび1.5リットルのゴルフ8と共通だ。常時接続環境がデフォルトで、メーターからインフォテイメントシステムまで一体感あるダッシュボード、そして画面表示の雰囲気は、見映えごと悪くない。むしろその精緻な佇まいこそ、ドイツ車に期待される何かでもある。

だが2本指で地図スクロール、1本指でエアコン設定、シングルタップや長押しを使い分けて、ルームランプや装着車ならルーフ開閉も行えるというタッチスライダーのショートカットは、あれこれ詰め込み過ぎて逆に使いにくくなった典型例で、いつか慣れる日が来るのだろうか?と軽く絶望せざるを得ない。

いきなり粗を挙げるところから始めてしまったが、GTIのミディアムグレーを地色に赤い大判チェックのスポーツシートは、見た目も座り心地も模範的。見て触って座って、実用的そうだがピリッとする高揚感は、GTIが始祖となったハッチバックというジャンルでしか得られない何かだ。

対してTDIの試乗車は「アクティブアドバンス」グレードで、グレーのエコノミー仕様のシートは化繊っぽさを隠さず、ややチープには感じる。グレード的に、上には「スタイル」が控えているためだ。無論、アクティブ・アドバンス/スタイルの差は、内外装の仕立てと装備の差だが、7世代目まででいうコンフォートライン/ハイラインほどの価格差は、一見ない。が、上級グレードのスタイルでは、純正インフォテイメントやテクノロジーパッケージと呼ばれるLEDマトリクスライトや駐車支援システムが、オプション設定となる。

アクティブアドバンスでは、これらは標準装備されるものの、電動パノラミックルーフやプレミアムサウンドシステムといったラグジャリーパッケージは元より選べない。つまり今回試乗したTDIアクティブアドバンスは、過不足ないが華もない実用性&経済性重視のグレードという意味で、リアル本国仕様に近く、しかも足元は17インチ履きだった。すると俄然、シートのプチ減点がカバーされて余りある興味が沸く人も、少なくないだろう。

最新鋭ディーゼルのTDIに感じた「王道」
というわけでVWの最新鋭ディーゼル、EA211エボに48V MHEVを組み合わせたTDIから走らせてみた。VWのディーゼルを説明するのに、ディーゼルゲート事件を思い出さないユーザーはいない。だが今回のディーゼルは「ツインドージング」。その仕組みは、SCRを吸入側と排気側に2基備えつけることで、低温時だけでなく高速道路上のような高負荷走行・高温時にもNOx化合物を効率よく分解する。VWによれば従来比で約80%もNOx排出を下げつつ、アドブルーつまり尿素の消費量もほとんど変わらないとか。

かのソフトウェア書き換え事件のトラウマ部分に向き合ったというか、弱点の本丸を叩き直さんがばかりの、意欲作なのだ。他にもEGRや制御プログラムの改良によって、ピークトルク発生域を1750rpmから1600rpmまで下げ、燃費は約5パーセントほど改善しているという。いわば上陸と展開時期こそ逆だったが、こちらが本命で、そこにMHEVが加わった感覚だ。

アクセルペダル踏み込みに対するレスポンス、つづいてのトルクのつき方は、申し分なく力強い。低回転域から360Nmものトルクがあるのだから、こちらがGTIかと一瞬、カン違いしてしまいそうなほどだ。高速道路にも踏み込んだが、漲るようなトルクとパワーの出方、円熟の7速DSGごとマナーのスムーズさ、それでいて静粛性も剛性感もたっぷりな居心地に、感心させられた。ワインディングで走らせても、オン・デマンドなパワー感と横方向の剛性にまんじりともしないハンドリング、突っ張り感のないまろやかな足回りの感触まで、正確無比かつ必要十分以上のフィールが味わえる。

225/45R17という、あえてハイトの少しあるタイヤサイズは、続いて乗った19インチ仕様のGTIより、ストローク初期の動きが明らかに軽くしなやかだった。すでに発売済みの3気筒モデルよりもどっしりした動的質感が、つねに安定スタンバイしているような安心感と守られ感は、コンパクトなドイツ車としてのゴルフの王道といえるだろう。

GTIのハンドリングはドラマチック
かくもTDIが高次元にあることを確かめた後、GTIに乗り換えた。外観でGTIの特徴は、伝統のハニカムパターンを採用したエアインテークグリルだ。フラックフレームの縁どり、そして両端にウイング状のアクセントがあしらわれ、フォグランプはハニカムパターンに馴染ませるように一体化されている。その走りはひと言でいって、TDIよりもっとドラマチックだ。

操舵フィールからして、とにかく雑味がなく緻密。これにはペダル類やステアリングの剛性は元より、EA888エボ4の型式名が与えられたTSI 2リットルエンジンの進化も貢献している。先代ゴルフ7のGTIパフォーマンス仕様から基本的にキャリーオーバーされているものの、インジェクターの最大噴射圧を大きく改良してより緻密な制御を可能にしつつ、ノイズ特性を改善、フリクションも低減されている。4気筒なのに、まさにシルキータッチといったところだが、ひとたび踏み込むと弾けるような感触を返してくる。

パワーフィールだけでなく、空力を見直すことで高速域における後車軸のリフト量をも抑えているという。こうした変更に対応するため、足回りではスプリングレートが先代GTIに比べてフロントが+5%、リアが+15%強化されているのだが、街乗りから荒れた峠まで、乗り心地に唐突な上下動や突き上げ感は皆無なのだ。足は固めたけれども、フロン後側のアルミ製サブフレームやハブマウントの改良といった地道な軽量化を重ね、車軸モジュール全体を軽くし、ストロークし始めのアタリの強さを抑えた、そんな滑らかさだ。

加えて特筆すべきは、先代GTIのパフォーマンスや「TCR」に採用されていた、「ヴィークル・ダイナミクス・マネージャー」を採用したこと。これは電子制御油圧式フロントディファレンシャルロックやXDS、さらにオプションのアダプティブシャシーコントロール“DCC”を統合制御するシステム。駆動面においては機械式デフのような作動フィールと、4輪の各ショックアブソーバーそれぞれの減衰力を制御することによる姿勢コントロールを、同時に可能にしているのだ。コンフォート寄りに設定することもできれば、スポーツモードではコーナー出口で加速すると、むしろインに巻き込んでいくような、FFらしからぬハンドリングすら見せる。フィールの自然さよりは力業という雰囲気だが、GTIとして目指すべき方向性は示している。

推しはディーゼルの標準モデル?
注目の車両価格は、TDIにはエントリーモデルとして「アクティブベーシック」344万4000円も用意されるものの、今回試乗したTDIアクティブアドバンスは398万9000円で、スタイルは403万8000円、R-ラインは408万8000円なので、実質的なディーゼル内価格差は5〜10万円だが、スタンダードモデル以上を望むなら有料オプションという扱いではある。

またGTIは466万円が車両価格だが、インフォテイメントやLEDヘッドランプ、さらにDCCパッケージを選ぶと、約60万円の上乗せとなる。

意外と推しはディーゼルの標準モデルに落ち着きそうな、ここ数年来のVWのイメージを覆す、実は革命的なゴルフ8かもしれない。

■5つ星評価
<TDI>
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

<GTI>
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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