◆トレーサー9の開発は「全てやり切った」
「やり残したことは全くありません。すべてやり切ったと思っています」
と力強く語ってくれたのは新型『トレーサー9 GT』のプロジェクトリーダー、ヤマハ発動機の北村悠主査。やり残したこと。あるいは次期モデルに盛り込みたいなんて箇所はありますか?と、意地悪く聞いた質問に対する答えである。
もちろん、無限に予算があるわけではないから、もっとこうしたかったという何かがなかったわけではないとは思うが、「それぞれの分野のスタッフが妥協することなく取り組んでくれたおかげで、最高のマシンが作れたと思います」と胸を張る。
たしかに、価格を考えればオーバースペックともいえるてんこ盛りの装備群。これは『MT-09』と多くのパーツを共通化したことで価格を下げることが可能となったことも大きいだろう。そのうえでトレーサーらしいキャラクターの味付け。
「乗り心地や快適性だけでなく、スポーツ性能もしっかり盛り込んでいます。様々な状況で最適な減衰力を提供する電子制御サスペンションもそうですし、MTと共通の軽量ホイールも運動性に大きく寄与しています」
そして快適装備の数々。
「グリップヒーターは10段階と細かい調整を可能としていますし、グリップ形状にもこだわっています。」「コーナーリングライトは確実に安全性、快適性にメリットがあります。是非夜間の走行もテストして欲しいですね」
◆共通エンジンでも「トレーサーらしさを」
もちろん、装備が豪華ということだけで良いマシンになるほど単純ではない。
新設計されたエンジンはMT-09ではMTらしさを、トレーサー9ではトレーサーらしさも作り込んでいる。
「一般道での扱いやすさ。それは低中速トルクの向上とともに、ダイレクト感。それでいて、エキサイティングな高回転のパワフルさも表現出来たと思っています」
エンジンフィーリングがマイルドになったように感じられるのは全ての反応がスムーズになったからで、しっかり回せば胸のすくような豪快な加速感は健在。
そのエンジンは、セッティングも含めてMT-09とすべて共通なのだという。乗ってみると、同じエンジンではないかのようなフィーリングである。
「従来モデルでもエンジン関連は共通でした。そこで、エンジンが同じでも車体や車重が異なることで違うキャラクターが演出出来ることがわかっていたので、今回も全く同じユニットを搭載しています」
アップ&ダウン対応のオートシフターを装備することで、シフト操作が容易となり、3気筒ならではといえる、各回転数によるエンジンキャラクターの変化やサウンドをより楽しみやすくもなっている。
「オートシフターは今どき当たり前になりつつある機能ですが、その操作感にもこだわりました。もともとは速く走るためのレーシングパーツであったと思うのですが、現在では疲労を軽減するためだったり、快適性向上という狙いもあります。そのなかで、サーキットユースのようなカッチリとしたタッチではなく、街中でももっと気軽にシフト出来るようなタッチに設定してあります」と、こだわりを見せる。
◆機械側から水を差したくなかった
電子制御の大幅なアップグレードは6軸IMUを搭載したからこそ。自社で時間をかけて開発した。それにより、ウィリーコントロールやトラクションコントロールの介入も非常に自然である。
「ライダーが気持ち良く走っているときに、機械側から水を差すようなことはしたくなかったんです。安全のために機能するとしても、あくまで自然にというところは拘りましたね」
これは、より純粋にタイムアップを求めるスーパースポーツマシンの設定と少し味付けが違うのも面白いところである。
基本骨格はMT-09と共通であるが、トレーサー専用のチューニングが施される。「日本では問題がなくても海外の、例えばアウトバーンをタンデムで…などというシチュエーションでは直進安定性に課題が出ることがあります。フレームの細部を変更したりスイングアームを専用としたことで、スポーツツアラーとしての剛性感や快適性を高めています」
同じく「パニアケースの装着によっても操安性に随分と影響が出るんですね。その形状や取り付け方法もずいぶんと研究しました。取り付けダンパーだけでも多くの種類をテストして最善のものを採用しています。そういった安全性に裏打ちされた次元の高い走りを是非感じて欲しいですね」
【ヤマハ トレーサー9 GT 新型】基本はMT-09と共通、でも実現したかった「トレーサーらしさ」とは
2021年07月19日(月) 12時00分
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