トヨタ GRヤリス RZハイパフォーマンス《写真撮影 中野英幸》

ついにトヨタのホットモデルである『GRヤリス』を公道で試乗する機会を得た。短い時間ではあったが、そのインプレッションをお届けするとともに、GRヤリスの詳細を紹介しよう。

◆GRヤリスのディメンション、ヤリスとの違いは


まずディメンションだ。GRヤリスはTNGAプラットフォームを用いたモデルだが、フロントはTNGA-B、リヤはTNGA-Cと2つのTNGAプラットフォームを組み合わせる形で使用している。ホイールベースはヤリスよりも10mm長い2560mmとなる。ボディ寸法は全長が3995mm、全幅が1805mm、全高が1455mm。ヤリスよりも55mm長く、110mm幅広で、40mm低い(4WD比)。

トレッドは「RZ」系がフロント1535mm、リヤ1565mmで「RS」はそれぞれマイナス10mmとなっている。『GRスープラ』のときに話題になったホイールベース/トレッド比を計算してみると、RZ系のフロントで1.67、リヤが1.64でGRスープラの1.55には及ばないが、スポーツカーらしい配置と言って差し支えないレベルを実現している。


ボディは3ドアハッチバックとなる。ボディワークではドア、エンジンフード、リヤハッチにアルミを採用。ルーフはカーボンとなっている。ルーフをカーボン化したことでアルミに比べて3.5kgの軽量化を実現、重心高は2.5mm下げられ525mmとなったという。また、ドアを大型化することでアルミ採用部位を拡大、軽量化を推進している。一方でフロントフェンダーのアルミ化などの提案もあったものの、スチールを採用。これはクラッシュ時の修理しやすさなどを考慮したものだ。

◆1.6リットル3気筒ターボの「RZ」で走り出す


まずは1.6リットルターボエンジンを搭載するRZ系のインプレッションをお届けしよう。エンジンのスペックは272馬力、370NmでこれはRZハイパフォーマンスもRZと同じ数値だ。RZハイパフォーマンスとRZの違いはおもに駆動系と足まわり。駆動系だとRZハイパフォーマンスは前後にトルセンLSDを装着し、足まわりだとサスペンションセッティングとタイヤチョイスが異なる。

また、RZハイパフォーマンスはレッドにペイントされたブレーキキャリパーが装着されるが、内容的にはRZの金属むき出しキャリパーも同様で、フロントが18インチアルミ対向2ポット、リヤが16インチアルミ対向2ポットでドラムインディスクとなる。

シートに座り込むと意外なほど目線が高い。筆者の身長は173cmで、取り立てて背が高いわけではない。シートリフターを使ってクッション高を下げると少し落ち着くが、デフォルトのシート高は高めだ。助手席はシートリフターがないためより高さを感じる。シート高については、ラリードライバーの評価はちょうどよく、レーシングドライバーは低いと言うものだという。

クラッチペダルの操作踏力は重めだが、重すぎるという印象ではない。これ以上軽いと帰って操作性が落ちそうだと開発者に話したところ、「これ以上軽くはなりません」とのこと。エンジンの発生トルクが大きいため、この重さでギリギリとのことだ。トランスミッションは6速のMT。少しストロークは長めだが、シフトフィールはしっかりしていて、ねらったシフトポジションに正確にシフトできるものだ。


1速にギヤを入れ、アクセルペダルをブリッピングしてクラッチをつなげばGRヤリスは素直に動き出す。ハイパフォーマンスカーにありがちなクラッチワークのセンシティブさは存在しない。低速トルクはしっかりとしている。また3000回転付近からはターボによる過給がしっかりと効き全域にわたって、トルク感が落ち込むことはない。

GRヤリスの1.6リットルエンジンは3気筒である。すべてをブランニューしたこのエンジンは、4気筒も考慮されたという。しかし、低回転域でのトルク感を重視しあえて3気筒を選択。中速以上の回転域はターボによってトルクを得るという方向を採ることになり3気筒としたというのだ。

レッドゾーンは6900回転からとなるが、そこまでの回転上昇はよどみなくスムーズ。トルク感もつねに維持され、落ち込むことはない。フルスロットル時の過給圧計の針は150kpaを超え1.8kpaに達しようという動きを示すこともある。過給自体も遅れがなく、針は敏感に上昇傾向である。フルスロットルでの加速からシフトアップをすれば、2-3速チェンジ時でタイヤが“キュッ”と音を立てて空転する。

◆「無敵の存在」と呼べるほど速いRZハイパフォーマンス


GRヤリスは全車4WDである。4WD機構の詳細な解説は省略するが、エンジンは横置きで、プロペラシャフトによりリヤに駆動力を伝達。リヤ側にカップリングが存在し、駆動力配分をコントロールしている。この駆動力配分は前後60対40配分の“ノーマル”、前後30対70の“スポーツ”、前後50対50の“トラック”の3モードが選べる。もちろんこの駆動力配分は基本配分であり、状況によって適正に配分される仕組みだ。モードの名前の
付け方からわかるように、もっとも速く走れるのは前後50対50のトラックということになる。

GRヤリスの開発には数多くのラリードライバーが関わっている。その名前を列記すると、ヤリーマティ・ラトバラ、トミ・マキネン、オィット・タナック、セバスチャン・オジェ、クリス・ミーク、トヨタ自動車社長の顔も持つモリゾーと、そうそうたる顔ぶれである。ドライバーはそれぞれにセッティングに対してこだわりがあるが、50対50の駆動力配分を推したのはマキネン、ラトバラ、モリゾー、タナックはリヤより配分の30対70が推しであったという。

基本、どのモードで走っても、クルマの動きは素直で、コーナーもクリアしやすい。4WDだから曲がりにくいということもまったくない。だが、ノーマルモードはステアリング操舵力の軽さもあり、楽に走ることができる。じつはこれ大事だ。つねに臨戦態勢のスポーツカーは乗っていて楽しいのだが、どうしたって疲れてしまう。それを回避できるモードがあるのは歓迎すべき状況と言える。


フロントの駆動力配分が減るスポーツモードは、クルマをアクティブに動かしていくのに適している。前後駆動力配分が50対50となるトラックモードは、計算し尽くされた速さのモードだ。運転して楽しいとか、クルマを操るなどといったレベルに持っていくには、相当のハイスピードが必要だ。つねに安定して4輪にトラクションをかけて走るにはこのモードが最良と言える。

加えて、前後にトルセンLSDを装着するRZハイパフォーマンスは、無敵の存在といってもおかしくないほど速い。ハイパフォーマンスでトラックモードを選び、コーナーに進入していく。ブレーキは4輪のパッドが正確に平たくローターに当たる感触があり、均一感がある減速を行える。このブレーキ、トヨタ系サプライヤーのアドヴィックスと共同で開発したという。サプライヤーというすそ野の技術力を上げるという面でも、今回のGRヤリスを作り上げた功績は大きい。

話がそれた。ターンインで姿勢を作り、コーナーに進入してしまえば、あとはこっちのものだ。アクセルを踏み込め次のコーナーを目指すだけだ。ターンインで姿勢が作りにくいときは、クラッチペダルを踏み込んで荷重を前に動かしてやればクルマの向きはさらにアクティブに変えられる。それでも足りなければ、サイドブレーキを引くという手段も残っている。それがやりやすくなるように、GRヤリスはリヤブレーキをドラムインディスクとしたのだ。

◆1.5リットル&CVTの「RS」もコスパ高し


さて、GRヤリスにはRSというグレードも存在する。これはRZのボディ&シャシーに、ノーマルヤリスの1.5リットル(120馬力/145Nm)を搭載するモデルで、駆動方式はFF、ミッションはCVTのみとなる。しかし、これがじつにいいのだ。いわゆるシャシーが勝っているというタイプのクルマで、軽快でありながら決して破綻することがないしっかりした走りを実現する。

まず、車重がRZに比べて150kgも軽い。それでも1130kgとヤリスと比べると100kg強ほど重いのだが、最終減速比を3.781から4.553と軽くして対処しているためクルマの重さも出力の低さも感じない(もちろんRZに比べれば出力の差は雲泥であるが)。


RSもアルミドアやカーボンルーフを採用している。4WDシステムこそ搭載しないが、かなり贅沢な作りと言える。RSの価格は265万円で、このコストパフォーマンスはかなり高い。

4WDのRZは396万円となるが、これもコストパフォーマンスは非常に高い。最後に残ったのがRZハイパフォーマンスだ。RZハイパフォーマンスの価格は456万円。RZとの価格差は60万円。RZハイパフォーマンスはRZに比べて前後にトルセンLSDが装着され、ホイールが鍛造となる。これだけでも60万円は吸収されるレベル。つまりGRヤリスはどのモデルであっても、コストパフォーマンスは十分に高いといえる。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

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