フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン。鹿児島の磯海水浴場にて。《写真撮影 井元康一郎》

フォルクスワーゲンのCセグメントステーションワゴン『ゴルフヴァリアントTDI』で 3900kmあまりツーリングをする機会があったので、インプレッションをお届けする。

ゴルフヴァリアントの歴史はベースモデルである『ゴルフ』より浅く、最初に登場したのは第3世代ゴルフの時代で、ハッチバックのデビューから2年後の1993年。2013年に欧州デビューした現行モデルはヴァリアントとしては第5世代、第4世代が第3世代の整形モデルだったことを考慮に入れると実質第4世代である。


ホイールベースはハッチバックと同じで、もっぱらリアエンドを延長するという手法で作られている。カーゴスペースはVDA方式で605リットル。これは同クラスでは後発の現行プジョー『308SW』の610リットルに次ぐ広さで、Dセグメントミッドサイズのの『パサート ヴァリアント』の650リットルと比べてもそう変わらない数値だ。

試乗車は2リットルターボディーゼル+7速デュアルクラッチ変速機の「TDIハイライン マイスターエディション」。ドライブコースは東京〜鹿児島周遊で、往路は山陽、復路は山陰を通った。総走行距離は3934.1kmで、おおまかな道路比率は市街路2、郊外路5、高速2、山岳路1。本州内では常時1名乗車、九州内では1〜5名乗車。エアコンAUTO。

論評に入る前に長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1.車両重量の違いによるものか、ハッチバックより乗り心地に重厚感があった。
2.明るく居住感豊かな室内と良好な視界。
3.荷室はスペックにたがわず広大。安全のためのパーティションネットも標準装備。
4.ナビ表示可能なフル液晶インパネはCセグには贅沢と思えどやはり便利。
5.一貫して良好だった燃費とNOx処理還元剤AdBlueの消費量の少なさ。

■短所
1.動きは重厚なのにタイヤとシャシーのマッチングが悪いのかゴロゴロ感が強め。
2.ターボディーゼルは必要十分なパワーを持つが官能性に欠ける。
3.リアシートの二段階折り畳みが廃止されていた。
4.これはフォルクスワーゲンのキャラクターとも言えるが、色気は希薄。
5.ライバルと比較して価格が高い。

◆積載力アップと引き換えに失ったものは少ない


では、インプレッションに入っていこう。すでに本国登場後約7年が経過するゴルフヴァリアントだが、遠乗りグルマのトップランナーとしての実力はいまだ一級品。突出した性能は 持ち合わせておらず、要素ごとに見ればライバルに負ける部分も結構ある。内外装はフォルクスワーゲンの伝統とも言える地味系そのもので華やかさにも欠ける。

が、抜群の貨客積載力、ドライorウェット、良路or悪路を問わず安定性が確保されるたおやかな操縦性と良好な直進性、経済性の高さ、疲労の少なさなど、クルマとしてのバランスの良さが個別の不満を打ち消した。クルマのことを気にせず、伸び伸びとした気分でどこまでも旅ができるキャラという印象は最後まで変わらなかった。

ゴルフと言えば、基本形はあくまでハッチバックであり、ヴァリアントは派生モデルだ。が、4000km近く走ってみた限り、貨物の積載力アップと引き換えに失ったものは思ったより少ないように感じられた。


延長されたのはオーバーハングだけなので小回り性能はハッチバックのゴルフと変わらず良好だし、車内の居住感もまったく変わらない。ワゴンボディ化とディーゼルエンジン搭載というダブルの重量増によって機敏さはハッチバックのガソリンターボより後退したが、走行中のフラット感の面ではその重要増が逆にプラスに作用していた。

世界的なSUVブームの中、今やヴァカンスエクスプレスの主役もSUVで、Cセグメント以下のステーションワゴンはそれに押されて日本のみなず世界的に減少傾向にある。が、車両重量や前面投影面積、空力係数などで有利なステーションワゴンは大きな容積のボディを効率よく走らせるには非常に向いた形態であるし、重心が低いため低コストでより良い走りを実現させることもできる。

そんなムダを排した遊びグルマが欲しいというカスタマーにとってステーションワゴンは今も魅力的な選択肢になり得るし、ゴルフヴァリアントは購入リストの上位に常在できる実力派であるように思われた。



◆パワートレーンの重さがプラスになっている部分

まずはロングドライブの質を左右する操縦性、快適性を支えるボディ、シャシーについてだが、基本的な性格は極度の安定志向で、エキセントリックな動きがまったくと言っていいほどなく、安心感の高いものだった。ハッチバックのガソリンターボ、1.4リットルTSIの記憶に照らし合わせると、敏捷性はハッチバックのほうが断然上である一方、路面の荒れたルートでの接地性、フラット感は今回のヴァリアントTDIのほうが優位という感じであった。

この性格の違いの多くは両者の車両重量の違いに起因するものと推察される。重量はハッチバックの1.4TSIが1320kg、ヴァリアント2.0TDIが1490kg。重量増の大まかな内訳はワゴン化で+60kg、パワートレインの違いで+110kgと、パワートレインの違いが断然大きい。


面白いことに重量配分的にはTDIのパワートレインの重さはプラスに出ていて、車検証記載値から計算したところ前60:後40と、ハッチバック1.4TSIの62:38に近い数値だった。そのこともあってか、ウェットコンディションの荒れ道のように路面摩擦係数が低い道でも前輪のかかりが悪いと感じることはあまりなく、重いなりに非常に素直でコントローラブルだった。

筆者はこのドライブの数か月前、同じフォルクスワーゲンのDセグメントサルーン『パサートTDI』でロングドライブを行っている。両者ともいろいろ要素部品は違えど、「MQB」と名付けられたモジュラーアーキテクチャ(サイズの大きく異なるクルマを容易に作り分けられるプラットフォーム)を基盤に作られている。サスペンション形式も前マクファーソンストラット、後マルチリンクの4輪独立懸架と同一だ。


同じプラットフォームで重量も近いぶん性格は似ていて、路面情報の掴みやすさ、ドライバーのミスへの寛容性、路面状況を問わず保たれる安定性の3点については、ゴルフヴァリアントTDIはパサートTDIの下位互換という好フィールであった。パサートTDIの4輪で大地を抱え込むようにしなやかにホールドする驚異的なフィールはなく、そのへんは価格差が如実に出た格好だが、それでも山口でとんでもない狭隘の国道491号線にうっかり踏み込んだときをはじめ、多くの局面で足の良さを有り難く感じた。

◆足の特性とタイヤセレクトのミスマッチ


このように、走りの面では部分的にパサートを再現するような良さを見せたゴルフヴァリアントTDIだが、そんなところまで似せなくてもいいのにというのはハーシュネスカットの悪さ。車体の姿勢自体はフラットで、コーナリング中に少々のアンジュレーションを踏んでも容易にバンピング(上下の揺れ)しないのに、タイヤのゴロゴロ感は結構強めなのである。これはせっかくのクルマの感性品質を落とす弱点だ。

実はこの特質は2年前に乗ったハッチバック1.4TSIでも感じで、ロングドライブインプレッションでも触れた。今回と共通のファクターはタイヤ。225/45R17サイズのブリヂストン「トランザ T001」である。

トランザ自体は別に悪いタイヤではないのだが、ショルダーからサイドウォールが結構固く、しなやかさはあまりない。対してフォルクスワーゲンの足は数ミリ、周波数2、30Hzくらいの微振動、およびロール時の振幅大、ピストンスピード低の入力には素晴らしい応答性を示す一方、段差やアンジュレーションの通過などの振幅大、ピストンスピード高の入力に対してはフリクション感が大きく出る傾向がある。そういう足の特性とタイヤが喧嘩しているようなフィーリングだ。


今のままでも普通の良さはあるが、路面の不整を舐め取るようなフィールを持たせるなら、標準装着タイヤの選定を再考していただきたいところ。ちなみにGTI、GTE、前期型の1.4TSIなどにオプション設定されていたDCC(ダイナミックシャシーコントロール=電子制御サスペンション)は固いタイヤでも非常に素晴らしいハーシュネスカットを実現させていたので、電子制御とは言わずともショックアブゾーバーの質をそれと同等品にするかだ。

そんな思わぬ雑味はあるが、バンピングが少なく、フラット感が高いという性質のおかげで疲労感の小ささは特筆モノであった。シートのホールド性はそれほど高いわけではないが、ドライビングポジションを山道では視界を稼ぐためヒップポイントを高く、高速道路では低くと変えても身体に違和感を覚えることがない。連続運転における大腿部から腰椎にかけてのうっ血、疲労蓄積も極小であった。

◆ロングドライブで重宝した運転支援システム


ロングドライブでもうひとつ重宝したのは運転支援システム。試乗車のTDIハイライン マイスターエディションはフルスペックのシステムを持っており、通常のレーンキープアシスト、先行車追従クルーズコントロール、歩行者検知型の衝突軽減ブレーキなどに加え、先行車や対向車を避けてハイビーム照射するアクティブハイビーム、ステアリング操作や車速に連動したヘッドランプの可変配光、渋滞時先行車追従システム、さらには自動駐車機能までついている。

アクティブハイビームは2年前に乗った1.4TSIでは性能不足と思っていたが、どうやらその時の個体が調整不足だっただけのようで、今回は至って快適に作動した。可変配光システム、アクティブコーナリングライトなどとあいまって、真っ暗な山道を走っても視界で不安を持つことはなかった。

クルーズコントロールは車線認識の失探率の点ではとくに優れているとは思わなかったが、ミリ波レーダーが先行車を認識する距離が長めなのは美点で、とくに高速道路やバイパスでは重宝した。そして自動パーキングだが、これは筆者がそんなもん自力で停めればいいじゃないかと考えるタチのため、不覚にも使わなかった。一度くらい縦列駐車、車庫入れを試してみればよかったと、後から思った次第である。

後編ではターボディーゼル+7速DCTのパフォーマンスと燃費、居住性とユーティリティ、インフォティメント&オーディオなどについて述べようと思う。

フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン。鹿児島、薩摩半島南端の池田湖にて。《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 タイヤはブリヂストン「トランザT001」。サイズは225/45R17。《写真撮影 井元康一郎》 フロントバンパーから前タイヤハウスに向けて導風口が設けられている。前輪外側にエアカーテンを張り、気流の乱れを抑制するのが狙い。《写真撮影 井元康一郎》 コクピット。ステアリングスイッチを含め、操作系はきわめて使いやすかった。《写真撮影 井元康一郎》 フロントシート。体を強く拘束せず、それでいて必要なホールド性を持っていた。《写真撮影 井元康一郎》 後席。座ったときの確かな着座姿勢、横方向のホールド性とも優秀だった。《写真撮影 井元康一郎》 容量605リットルのカーゴルーム。ボードを落とせばトランクを長辺に沿って立てて積むこともできる。《写真撮影 井元康一郎》 静岡・浜名バイパスの高架橋下にて。《写真撮影 井元康一郎》 遠州灘を望む。《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 山口西部で幹線道から外れ、山間部のルートを走った。《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 山口の小月から日本海側の長門市まで国道491号線を初走りしたらタイピカルな狭隘国道だった。《写真撮影 井元康一郎》 国道491号線を行く。《写真撮影 井元康一郎》 山口の山の中でひなびた温泉に出くわしたのでちょっと寄り道。《写真撮影 井元康一郎》 国道491号線を長門市に向けて降下中。並行して新線のトンネルが建設されていた。険路を通る機会も次第に少なくなっていくことだろう。《写真撮影 井元康一郎》 日本三大砂丘のひとつ、鹿児島の吹上浜に流れ込む永吉川河口にて。川にはかつて薩摩半島西岸を走っていた南薩鉄道の橋梁の遺構が残る。《写真撮影 井元康一郎》 吹上浜・神之川河口にて日没を眺む。《写真撮影 井元康一郎》 フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI ハイライン《写真撮影 井元康一郎》 総走行距離3934.1km。《写真撮影 井元康一郎》