VW ゴルフGTI 新型《写真提供 中村孝仁》

VW『ゴルフ』が日本に導入されたのは1975年のこと。つまり、節目の50年を迎えたわけだ。そして「GTI」の名を持つ高性能版が日本デビューしたのは1977年のことだった。

いま、日本に導入されるベーシック『ゴルフ』は1.5リットルのeTSIと言うエンジンを搭載し、その出力は110psである。翻って1977年に登場し、当時ハッチバックの超高性能と呼ばれたGTIは1.6リットルの排気量で、その出力はやはり110psであった。50年経つと、当時の超高性能は現代のベーシックになるというわけである。

◆50年経った今、神格化された存在に
77年と言えば、私は日本におらず、ゴルフが生まれたドイツに住んでいた。そして友人が真新しいゴルフを買ったので、乗せてもらった。学生だったから勿論ベーシックなゴルフだった。それでも新車のゴルフを買うなんて、随分と恵まれた境遇だった。

排気量は確か1.1リットル。調べてみるとそのパワーはたったの52psしかない。そのたった52psのゴルフで、アウトバーンを130km/hで巡航しビクともしない抜群の走行性能を見せたのだから、如何に110psのGTIが凄まじいパフォーマンスを持っていて速かったかは、想像に難くない。だから、GTIに関して言えばその時点ですでに神格化された存在で、このクルマに関しては、50年経った今、なんとなく神話のように語られるモデルと言って間違いないのである。

以来、時を重ねてGTIも8世代を経てきたのだが、最初のインパクトから比べると今のGTIはその度合いが少し低い。それは4代目のモデルあたりから、GTIよりもさらにハイパフォーマンスなモデルが生み出されてしまったからだろう。

初めは『R32』の名でデビューした、狭角V6エンジンを積むモデル。その後は『ゴルフR』と名を変えて今に至っている。そしてパフォーマンスの差は、初代のゴルフが1.5リットル70psだったのに対しGTIが110psだから、ほぼ60%アップ。今、ゴルフGTIは245ps。これに対して最新のゴルフRは320psだから、その差は3割アップに縮まっているものの、考えてみればパワーは最強モデルが単純に、ほぼ3倍になっているのだから、アップの度合いが少なくなって当然である。まあ、この比較は少し乱暴すぎるけれど、要するに当時のGTIと言うのはそれほど凄かったという話である。

◆No.2に格下げになったとはいえ
最新のゴルフGTIに乗ってみると、No.2に格下げになったとはいえ、やはりすさまじく速いことは間違いない。ただ、パフォーマンスと言うか、加速力に特化して話をすると、我々は完全に麻痺していて、BEVの加速力を知ってしまうと、どんなICEのモデルが来ても、少なくとも「加速力」については、精々「速いね」で終わってしまう。だが、実は多くのBEVもその加速力と言うか、瞬発力の凄さだけで「凄いね」で終わってしまうケースが多いのである。

クルマとして「運転して愉しい」を具体化してどんどんと引きずり込まれていくような楽しさを持つクルマは少ないが、GTIはそれを持つ数少ないモデルの一つである。ホットハッチなどという言葉が一時持て囃されて、ヨーロッパのブランドなら大抵はその種のモデルが用意されていたものだが、今となっては逆に日本のメーカーの方が、それを揃えているケースが多いように感じる。ヨーロッパ車ではゴルフを除くと、ルノーがこのジャンルから手を引いてしまったので、考え得るのは同じドイツのBMW『1シリーズ』、『M135』あたりしか思い浮かばない。

近年のニューモデルはやれ、大型のディスプレイが付いただの、ADASの装備が充実しただのと、安全とインフォテイメント系の進化が主要なテーマになっていて、走りに対する熱はすっかり冷めている印象が強い。まあ、安全装備とインフォテイメント系の充実は今の世の中外せないから、それは仕方がないが、どうも走って楽しいを文字にして説明するのが難しくなっている。

◆自動車を運転することが楽しかった時代に引き戻される
GTIの良さを端的に説明するとしたら、使い勝手の良いパフォーマンスとでも言おうか。それでも245psのパワーは手に余るかもしれないが、アクセル開度半分で楽しいパフォーマンス走行ができる。それが強みかもしれない。試乗車はオプションのDCCが装備されていたから、コンフォートに入れて快適に走るもよし、スポーツをチョイスしてワインディングを軽快に飛ばすもよしである。

エクゾーストサウンドもeTSIユニットを搭載するモデルとは異なり、常にエンジンを意識させるサウンドが室内に入る。それをうるさいと感じるならば、GTIをチョイスしない方が良いだろう。初代GTIのシートはチェック柄のファブリック。それが今も同じで柄は違うが似たようなイメージである。この種のシートは50年代のメルセデスのレーシングカーが使っていた。そのスポーツイメージを取り入れたのだと思うが、高級=本革の今、こうした素材の採用は嬉しい。ゴルフGTIに乗ると、本当に自動車を運転することが楽しかった時代に引き戻される。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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