トヨタ ヤリス 新型《写真 トヨタ自動車》

2020年は国産Bセグメント=コンパクトハッチバックの当たり年と言えるかもしれない。代表格であるトヨタ『ヤリス』とホンダ『フィット』の新型が、ともに2月に発売される。昨年の東京モーターショーで初めて一般公開となった両車だが、いよいよ待望の市場投入となる。発売を前に、両車のトピックをおさらいしておこう。

◆日産ノートの快進撃を止めることができるか


その前に、直近の国産Bセグコンパクト市場を振り返ると、2018〜2019年の日産『ノート』の快進撃は外せないだろう。2018年は年間で13万6324台を販売し、登録車のトップに輝いた。2019年も年間で2位、11万8472台を記録している。「e-POWER」効果があったとはいえ、2012年発売のいわば“末期”モデルがここまで成り上がるとは誰が予想しただろうか。

そんなノートの陰で、着実に台数を積み重ねていたのが、ホンダ・フィットとヤリスの先代にあたるトヨタ『ヴィッツ』だ。年間で、ヴィッツが10位(8万1554台)、フィットが同12位(7万4410台)だった。決して売れていないわけではないが、ノートの後塵を拝していたのは事実。新型ヤリスと新型フィットがほぼ同時に市場投入されることで、三つ巴の戦いは避けられないだろう。

とはいえ、ヤリス、フィットともに、オールニューの新型車で、その進化はめざましく、デザイン、走行性能、燃費、先進安全装備と、あらゆる面をアップデートしコストパフォーマンスを高めており、ノートの牙城を崩すには十分な武器が揃っているといえる。そんな新型ヤリス、新型フィットのトピックを紹介していこう。

◆ヴィッツ改め新型「ヤリス」は「既成概念を大きく超える」


まずは新型ヤリスだ。従来のヴィッツの名を廃し、これまで海外で使われていた「ヤリス(YARIS)」を国内モデルにも採用し、グローバルモデルとして全面刷新したのは周知の通り。そして、最新のコンパクトカー向けTNGAプラットフォーム(GA-B)を初採用することで、軽量かつ高剛性、低重心なボディを実現し「コンパクトカーならではの『軽快なハンドリング』という強みを活かしつつ、お客様の既成概念を大きく超える『上質な乗り心地』と『最新の安全・安心技術』を備えたクルマを目指した」(トヨタ自動車)。

ボディサイズは全長3940×全幅1695×全高1500mm、ホイールベースが2550mm。先代であるヴィッツ(全長3945×全幅1695×全高1500mm、ホイールベースが2510mm)と比べると、全長を5mm短縮しながら、ホイールベースを40mm拡大していることがわかる。また、車両重量を50kg軽量化、ねじり剛性を30%以上強化、重心高を15mm下げることで、優れた操縦安定性と上質な乗り心地を両立した。


パワートレインの目玉は、新開発の直列3気筒1.5リットル「ダイナミックフォースエンジン」を採用した新世代ハイブリッドシステムだ。これによって、力強くシームレスな走りを実現すると同時に、WLTCモードで36.0km/リットル(ハイブリッドX グレード)というクラス世界トップレベルの燃費を実現している。また、1.5リットルのガソリン車(2WD)には、6速MTを設定しているのもクルマ好きには見逃せないポイントだろう。ハイブリッドにコンパクトとして初めてE-Four(電気式4WD)を設定したのもトピックだ。

ひと目で「走り」に期待できそうなデザインは「B-Dash!」がコンセプト。「大胆(BOLD)に、活発(BRISK)に、そして美しく(BEAUTY)。鋭い加速で、弾丸のようにダッシュ!するイメージ」だという。前後フェンダーの張り出しや、シャープなヘッドライト、立体的なリアコンビネーションランプがスポーティさを醸し出している。


先進安全機能では、交差点右折時の対向直進車・右左折後の横断歩行者も検知対象とした最新の「Toyota Safety Sense」を装備。さらに、トヨタ初となる高度駐車支援システム「トヨタチームメイト[アドバンストパーク(パノラミックビューモニター機能付)]」が新しい。ステアリング・アクセル・ブレーキ操作を制御し、駐車操作をアシストしてくれる。区画線のないスペースでの駐車もアシストしてくれるので、運転に不慣れな人にとっては朗報といえるだろう。

価格は最廉価グレードの1リットルエンジン搭載「X “B package”」が139万5000円、ハイブリッドが「HYBRID X」の2WDで199万8000円から(どちらも税込)となっている。

◆「WRCで勝ち抜くため」のGRヤリス


さらに新型ヤリスの話題で見逃せないのが、トヨタとして久々のスポーツ4WDを搭載したホットハッチ『GRヤリス』の存在だ。WRCで勝ち抜くために生まれたGRヤリスは、専用の新開発1.6リットル3気筒ターボエンジンに、同じく新開発スポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を採用、そして専用ボディとなる3ドアボディを組み合わせている。

3気筒エンジンとして世界最高レベルの272psを発揮する、というだけでも本気度が感じられるが、アルミ素材のエンジンフード、トランクリッドおよびドアパネル、形状自由度の高いSMC工法で成形されたCFRP素材のルーフパネルなど全面的に“別モノ”と呼べるほどの進化を遂げているのが特徴だ。発表から2週間で約2000台の予約があったことからも人気の高さがうかがえる。価格は「RZ“First Edition”」が396万円、「RZ“High-performance・First Edition”」が456万円だ。

◆「心地よさ」全面に押し出す新型「フィット」


これに対する4代目となる新型フィットは、アグレッシブなイメージの新型ヤリスとは対照的(?)に、心地よさや使い勝手のよさ、愛らしさを全面に押し出している。コンセプトとして打ち出しているのも「4つの心地よさ」だ。

ひとつは「心地よい視界であること」。フロントピラーを極細にしたことで、運転席に乗った瞬間から大きく開けた視界を実感できる。インテリアを水平基調にしたり、ワイパーを運転席から見えにくくするなど、細かい部分にもこだわった。右左折時の視認性の良さ、安心感はもちろんだが、開放的な気分を味わえるのが何よりのメリットだろう。

2番目は「座り心地がよいこと」。上級セダンへの採用も見越した新設計の「ボディースタビライジングシート」を先行して採用している。やわらかく包み込むような感触としながら、長時間の運転でも疲れにくい。車名の通り、まさに体に「フィット」するシートだ。


3番目は「乗り心地がよいこと」。ここで打ち出しているのが、新型ヤリスと同様に最新のハイブリッドシステムだ。従来のDCTと組み合わせた1モーターの「SPORT HYBRID i-DCDハイブリッド」から一新し、新開発の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」をコンパクトカーで初採用。エンジンをかけずに積極的にEVモードで走行できるようになり、燃費だけでなくスムーズな走りを手に入れた。詳細なスペックは未発表だが、現行型でクラストップの燃費をうたったフィットだけに期待大だ。

4番目が「使い心地がよいこと」。前席間にテーブルコンソールを用意したり、手や足が触れる部分にソフトパッドを採用するなど、日常の足として使うコンパクトカーならではの使い勝手を追求。ホンダのお家芸である低床パッケージが生み出す広い室内空間と、多彩なシートアレンジによる積載性の高さは大きなアドバンテージとなる。

先進安全機能では、「Honda SENSING(ホンダセンシング)」に前方を広角に検知するフロントワイドビューカメラを新たに採用。ホンダとして初めて近距離衝突軽減ブレーキも追加した。全タイプにこれらを標準装備としたのも大きなメリットとなっている。


グレード体系を大きく刷新し、ライフスタイルや好みによって選べる5つのタイプに分かれたのもトピックだ。シンプルなデザインの「BASIC」、リラックスできるこだわりの空間をめざした「HOME」、撥水性素材を使うなどフィットネススポーツのような軽快感やアクティブさを打ち出した「NESS」、質感や手触りのよさにこだわった高級仕様の「LUXE」、そしてミニバンの『フリード』にも加わり人気のSUVテイスト「CROSSTAR(クロスター)」を用意している。

外観デザインは「柴犬のように、人と寄り添うパートナー」をカタチで表現すべく、極力シンプルに、丸みを帯びたやわらかい印象を与えるものとなった。U字型のLEDを備えた大きなヘッドライトや、グリルレスにも見えるシンプルなフロントマスクもまた「心地よさ」を印象付けるアイコンとなっている。

ボディサイズや価格を含めた詳細なスペックは発売時までお預けだが、その期待は非常に大きいと言って良いだろう。



◆新型ヤリスの発売は2月10日、新型フィットの発売は2月14日

事前に両者のプロトタイプ車に試乗したジャーナリストの評価は、新型ヤリスが「軽快さを活かした素直なハンドリング」や「新ハイブリッドの加速感やスムーズさ」がトピックだったのに対し、新型フィットは「セダンのようなゆとりある運転感覚」「静粛性が高く1クラス上の上級感を手に入れた」ことなどを挙げていた。

新型ヤリスの発売は2月10日、新型フィットの発売は2月14日と、発売タイミングまで“ガチンコ対決”な両車。それぞれの戦略、方向性の違いが、ユーザーにどう受け止められるか。国産コンパクト対決の火蓋は、まもなく切られようとしている。

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