ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》

あいにくの雨だが、ナイケンでは問題じゃない。

テストコースは濡れた落ち葉も散乱するスリッピーな状況。そんななか、水たまりができたタイトコーナーであっても、ステップ裏のバンクセンサーとイン側に出したヒザのスライダーを路面に擦りつけてコーナリングできてしまうのだから、もはや異常事態だ!

フロント2輪、リア1輪で、車体をバイクのようにリーン(傾けて)させて曲がるヤマハ『NIKEN(ナイケン)』を、雨の降りしきるクローズドコース(日本サイクルスポーツセンター/静岡県伊豆市)にて試乗した。

驚きは旋回性の高さと容易さ、そして精神面にも及ぶ安心感だ。フロントの接地感はこれまで体感したことのない強力なグリップ感で、雨水が川のように流れるほどのウェット路面であるにも関わらず「スリップするかもしれない」という不安がまったくない。

バイク経験者なら説明するまでもないだろう。雨の中での走行がいかに億劫で、危険なものか。タイヤや電子制御技術、レインウェアやヘルメットのシールドがいくら進化しようともカラダには要らぬ力が入り、疲れやリスクは倍増。もしツーリング先なら、「なんで、こんな日に出掛けてしまったんだろう」と後悔することもあるだろう。

しかし、このナイケンはそうならない。2輪のバイクなら、ただただ転倒しないよう安全に走らせるだけで精一杯というコンディションのなか、アグレシッブなほどにスポーツライディングを楽しめてしまう。これはもう新しいジャンルの乗り物、新種の遊びと言っていいかもしれない。

◆ハンドリングは重い?それは誤解だった


見るからにボリューミーな前2輪の「LMW=リーニングマルチホイール」機構は、ステアリングフィールが重くなっているのでは…!?と乗る前に懸念したが、心配無用だった。

走り出した途端に、シートに掛けた荷重を意識するだけで車体はスンナリと右へ左へと思い通りに寝ていく。慣れが必要とか、特別な意識も要らない。腰やヒップでコントロールする、ヤマハらしい軽快なハンドリングは3輪になっても健在だ。

どんどんハードに攻め込んでいくと、ついにリアタイヤが流れる。ただし、フロント2輪がしっかりグリップしているから、オフロードのようなカウンターステアになるようなことはない。一瞬、グイっとステアリングがイン側に巻き込まれて、すぐに立て直される。もし2輪だったら…と想像するとザワッっとなるが、何事もないことがわかると、それもまた楽しめてしまう。

雨の中、ヒザを擦ってコーナーを駆け抜けるなんて、いくらクローズドコースでも2輪なら正気の沙汰ではないところだが、そんなフルバンク状態であってもナイケンの場合、乗り手はリラックスしきっていて、余裕をもったままワインディングが楽しめる。これまで幾度となく味わってきた、2輪のスポーツバイクでの“ヒリヒリ”とした歯を食いしばってのあの気の抜けない感覚は、ナイケンでは微塵も感じないのだ。

もしかしたらナイケンの深いバンク角での旋回安定性が当たり前になって慣れすぎてしまうと、もう2輪のバイクには戻れなくなってしまうライダーも現れてしまう可能性すら感じてしまう。そう思うほどの、別次元なのだ。

肩に力が入らないし、精神的なゆとりもあるから視野も広く持てる。こんな雨の日の走行は、普通だったらサッサと切り上げてしまいたいところだが、もっともっとと欲張りになって走り続ける。疲労感がまるでないから、もしツーリングに出たのなら長距離を走りたくなるだろう。もちろん直進安定性も高い。

エンジンは『MT-09』譲りの排気量845cc並列3気筒で、クランク慣性モーメントを18%向上し、FIセッティングの見直しで、最高出力116馬力と充分すぎるほどにパワフル。高速道路をゆったり走ることも考えられていて、50km/h以上になるとオートクルーズコントロールがセットできる。

◆もうリスクを背負ってのツーリングとはオサラバ


任意保険の更新をするとき、愛車のメーターを見て1年間に走行した距離を知るが、5000kmにも満たないことが多い。つまりツーリングは月に1回程度で、行く場所はいつも同じではつまらないから毎回違う。

そうなると、もう知り尽くした場所のつもりでも、路面コンディションやその道の先は把握できているようで決してそうではない。

なのに、せっかくの休日に出掛けたのだから、スポーツライディングもそれなりに楽しみたいとなって、少しばかり無理もしがち。まるで年に1回の運動会で、オーバーワークしているお父さんの状態に自分がなっていて、つまりリスクが高いことをしているのだ。

ナイケンはそんなユーザーの休日をイメージして開発したと、ヤマハ発動機MC事業本部の加藤新さんが教えてくれた。なるほど納得できる。運動会で怪我をせず、休日明けには心身ともに元気溌剌と働けるようにしておきたい。

もちろんバイクビギナーにも良いかもしれないが、とことん2輪に慣れ親しんできたベテランライダーにこそ、ナイケンの楽しさを知ってもらいたいと思う。言うまでもないが、公道でヒザを擦るためではない。きっと新しい感動があるはずだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★★

青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

ヤマハ ナイケン(NIKEN)と青木タカオ氏《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ ナイケン(NIKEN)《撮影 佐藤靖彦》