
「スズキ株式会社とトヨタ自動車株式会社は、両社の協業を発展させ、スズキが開発するSUVタイプのバッテリーEV(BEV)を、トヨタにOEM供給することを決定しました。新モデルは、インドのスズキ・モーター・グジャラート社にて、2025年春から生産開始予定です」
上のような発表があったのは、2024年10月24日のことである。そして、インドのスズキ・モーター・グジャラート社で生産されるモデルこそ、スズキ『eビターラ』と名付けられたコンパクトSUVのEVモデルである。もちろんスズキにとっては初のBEV。因みに「BEVユニットとプラットフォームは、スズキ、トヨタ、ダイハツ工業株式会社の3社がそれぞれの強みを活かして共同開発しました」とある。ということは、いずれ近い将来にトヨタとダイハツから、eビターラの兄弟車が登場すると考えてよいわけである。
今回はあくまでもプロトタイプの試乗である。市販モデルが投入されるのは今年度中ということだが、早ければ秋ではないだろうか。
◆61kwhバッテリーで500km以上の航続距離今回試乗できたモデルは、FWDモデルと電動四駆のAWDの2モデル。いずれもサーキットでの試乗だから、運動性能以外は質感や完成度の高さなどにインプレ評価は限られる。バッテリー容量は49kwhと61kwhの2種類。FWDモデルには両方が設定され、AWDモデルには大容量の61kwhのみが設定される。勿論普通充電と急速充電に対応している。通常、その充電口は一か所に集約されて、蓋を開けると二つの充電口が姿を現すというのが一般的なのだが、スズキは何故か車両右側に普通充電口、左側に急速充電口と左右に振り分けた仕様としていた。
床に敷き詰められたバッテリーはIron Phosphate Battery Packと名付けられて、バッテリー自体はリン酸鉄を用いたもの。中国のFDBというメーカーが作るものだそうだが、実はこれ、BYDと同じメーカーのもの。BYDでもスズキが同じバッテリーを使っている旨の発表があったが、果たしてBYDの言うブレードバッテリーと同じかどうかは定かではない。
あくまでも発表された数値ではあるが、49kwhのバッテリーを搭載したFWDモデルのEV走行距離は、400km以上。これが61kwhになると500km以上とされる。一方車重が重くなるAWDの方は、450km以上とされている。急速充電は90kw仕様のチャージャーまで対応しているという。
◆初めてのBEVも、その出来は相当な優れものさて、プロトタイプということでクローズドコースでの試乗となったが、初めて作ったBEVということだが、どうしてその出来は相当な優れものである。試走コースは袖ケ浦フォレストレースウェイ。当然のことながら路面は整備されていて、段差や凹凸などあろうはずもないから、乗り心地に関しては評価無し。コースの途中でパイロンスラロームを行えたり、結構なフルブレーキングを敢行できたりするコース設定であったので、ハンドリングやブレーキ性能などはそれなりに試すことができた。
AWD、FWDともに加速は非常にスムーズ(当たり前だが)で、BEVに在りがちなビックリするような加速性能はドライブモードを変えても体感することはできなかったが、今やすっかり“普通を目指す”BEVが増えているから、今さら人を驚かせる加速など必要はない。元から静粛性の高さが自慢なのだから、これにスムーズさが加われば、少なくとも加速感に関して言えばICEより優れているのは疑いのないところである。おまけに重いバッテリーを床下に搭載するから、重心高が低く相対的に安定感が高く、ハンドリング性能に優れる点もBEVの強みである。
前述したようにドライブモードの切り替えがあり、エコ、ノーマル、スポーツがチョイスできるのだが、やはりサーキットではアクセルの踏み込み量がどうしても大きくなってしまうからか、大きな違いは感じられなかった。また、回生ブレーキの強さを変えることで、いわゆるワンペダルドライブを可能にするというイージー・ドライブペダルという機能があるのだが、こいつをセレクトしても多少はブレーキに強さが変わるものの、ワンペダルとまではいかなかった。
実は試乗後にエンジニアにその話をすると、センターディスプレイからブレーキの強さを3段階に変えられる旨話を聞いたが、事前の説明がなかったのでそれは試せなかった次第である。
◆デザイン、質感も含め、完成度は高いデザインは好みの問題もあろうが、コンパクトな割には固まり感が強く、どことなくダイナミズムを感じるスタイリングだし、インテリアの作りもシンプルではあるが、決してチープなイメージが無い、うまい具合に作られたものだと感じた。やはり背後にトヨタが見え隠れするからか、質感は高いと思う。
2種類のバッテリー容量が選べ、FWD、AWDの駆動方式も選べるスズキ初のBEV。その完成度はとても高いと感じた。
余談ながらリン酸鉄バッテリーは週に1回程度セル内のバッテリーを均一化させるために、フル充電が推奨されているそうである。また、数か月に一度はセルフキャリブレーションといって、バッテリー残量10%以下からフル充電することも推奨されている。
■5つ星評価パッケージング:★★★★インテリア/居住性:★★★★パワーソース:★★★★★フットワーク:★★★★おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




































