トヨタGAZOOレーシング「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」トークショー(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》

東京オートサロン2025のトヨタGAZOOレーシングブースにて1月11日、「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」をテーマにしたトークショーが行われた。

登壇したのは、レーシングドライバーの佐々木雅弘氏、石浦宏明氏、大嶋和也氏、トヨタ自動車 凄腕技能養成部 平田泰男氏、ROOKIE Racing ニュルブルクリンクゼネラルマネージャー 関谷利之氏、トヨタ自動車 GRヤリス チーフエンジニア 齋藤尚彦氏の6名。

スーパー耐久シリーズ、全日本ラリー、WEC、WRCなど様々なカテゴリに参戦し、レースの現場でクルマと人を鍛え上げ「もっといいクルマづくり」に邁進するトヨタGAZOOレーシング(TGR)。前日の10日には、『GRヤリス』でニュルブルクリンク24時間耐久レースへ6年ぶりに参戦することを発表し、2リットル直列4気筒ターボエンジン(開発中)をミッドシップレイアウトで搭載した『GRヤリス M コンセプト』も初公開した。また、モータースポーツやサーキット評価の知見を活かしながら開発し続けているエアロパーツを搭載したコンセプトモデル『GRヤリス エアロパッケージ』もブースに展示されている。

更に、これまでTGRとROOKIE Racing(RR)は「クルマづくり・人材育成の主体はTGRであり、プライベーターチームとしてモータースポーツ参戦を行うRRはその活動の一部」という関係性だったが、今後は「レースなどの極限状態における走行データを共通言語として、現地現物でクルマや人と向き合う開発パートナー」となることも発表。ともにモータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりや人材育成を、一段高いステージへ引き上げていくことを目指すとし、「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TGRR)」としてニュル24時間耐久レースやスーパー耐久シリーズに参戦する。

プロドライバー、メカニック、エンジニアそれぞれの視点や立場でどのようにクルマづくりを行っているのか、現場でのエピソードを交えながらトークが繰り広げられた。

ニュルという過酷な環境でクルマを鍛える意義
まずはニュルブルクリンクでの開発について。

----:ニュルブルクリンクでクルマを走らせるときに、メカニック目線で考えることは?

ROOKIE Racing ニュルブルクリンクゼネラルマネージャー 関谷利之氏(以下敬称略):ドライバーは内装、乗っている空間がやはり気になるもの。いかに安心させられるか。なにかコクピットに取り付けるにしてもドライバーが『これ大丈夫かな?』と思わないように、そういうところまで気を使ってクルマを作る必要があります。また、コース上は上下の入力も含めてすごく振動が多い。常に大丈夫かなとあらゆるところに気をつけています。特にワイヤーやハーネス系などとくに気を使っています。そういった部分は市販車にも活きてくるところかと思います。

レーシングドライバー 石浦宏明氏(以下敬称略):平田さんは15年ほど前からご一緒させていただいています。最初は本当に怖くて…(笑) でも、僕らもプロメカニックの方ではなくトヨタ自動車の方が手掛けたクルマでニュルを走るということで、ちょっと大丈夫かなと思う部分もありましたが、厳しい平田さんがしっかりとコントロールしていれば大丈夫だなと。安心感がありました。それに、今も常にもっとどうしてほしい? というのを聞いてくれますし、ドライバーの意見を聞いてクルマを作ってくれるので、それがニュルでの一番の安心に繋がります。

レーシングドライバー 大嶋和也氏(以下敬称略):レース中に完璧に直るまで走らせてくれないんです。ちょっと凹んでるくらいいいじゃんと。僕もまだ若かったので少しでも速くコースに復帰して上位を狙いたいと思いましたが、きっちり直すまでコースに出してくれなかった。その分完璧に直してくれる安心感がありました。

トヨタ自動車 凄腕技能養成部 平田泰男氏(以下敬称略):自分も成瀬さん(故成瀬弘さん・マスターテストドライバー)に育てていただいたので、その教えといいますか、そういったきっちりしたところは継承して若いメカニックにも伝えていかなければと思っています。

----:成瀬弘さんはどんな人物だった?

平田:ものすごい情熱があり、クルマを触りだすと時間を忘れてしまう方。クルマ作りは官能がすべてで、感じたこと思ったことに仮説を立ててそれを検証している方。最終的にそれを検証してダメなところを直すという。データではなく感じたことでクルマづくりをしていました。

関谷:経験と仮説を立てて、なぜ?なぜ?なぜ? をずっと続けていた方。終わりが見えないです。これでいいかなと言っても、翌日にはまた改良が始まる。本当に寝てるときにもクルマのことを考えているのでは? という方でしたね。

----:エンジニア目線でのニュルとクルマづくりとは?

関谷:サーキットの現場でトラブルが起きたときにどうしたらいいか、僕らもアイデアがほしいです。これまでのエンジニアさんは「そこは担当ではないです」という方が多かったですが、今はそこからすごくエンジニアの方も変わってきたと思います。

トヨタ自動車 GRヤリス チーフエンジニア 齋藤尚彦氏(以下敬称略):たしかに以前はエンジニアでも担当分野以外はわからないし、担当部分でも「データ上は問題ありません」という答えになってしまっていたこともありました。データと仮説から外れたインプレッションがあったときにそう答えてしまっていたこともありましたが、GRヤリスの開発をすることでレーシングドライバーのみなさんとコミュニケーションを図りました。GRヤリスが発売後もスーパー耐久に参戦、全日本ラリーで鍛え直していく中でエンジニアの意識もどんどん変わっていきました。クルマも鍛えられていきました。スーパー耐久でさんざん壊して直して改善して、そこからニュルを想定したテストしていますが、今も壊れまくっています。(スポーツランド)SUGOでロングランのテスト中にも、左フロントタイヤのハブボルトが折れるトラブルがありました。あってはならない不具合でした。

石浦:ニュルの方が入力も遥かに大きいですし、ニュルだったらもっと早く折れていたかもしれません。今これが起きたことで対策することができる。こういったことを一つひとつ直していくことがすごく大切なことですよね。

齋藤:こちら粉々になったピストンはニュルで石浦さんがドライブ中に壊れたものです。2番のピストンだけ壊れてしまいました。スーパー耐久、全日本ラリーでも鍛えていたんですけどニュルではこうなりました。ニュル特有の振動である部品が壊れてオイルが燃焼室に入り、異常燃焼からこうなってしまいました。グラフにありますけど、富士スピードウェイとは比べ物にならないほどの圧倒的な上下Gが発生しています。こういったことがニュルでは起きます。

GRヤリス をミッドシップ化した理由とその“楽しさ”
続いては、今回お披露目されたGRヤリス M コンセプトの開発背景や特性について。

齋藤:GRヤリス発売後にスーパー耐久、全日本ラリー、雪上などでさらに鍛えていく中でモリゾウさんが『神に祈る時間』があると。どうしてもクルマが言うことを聞かない時間があると咄嗟に言ったんですね。

レーシングドライバー 佐々木雅弘氏(以下敬称略):ハンドル切ってもタイヤがグリップするまでだったり、クルマが曲がり出すまでに時間があることがあります。とくにセッティングが決まっていないクルマだったりすると「曲がってくれ!!」と思いながら待つ時間があるわけです。石浦選手や大嶋選手の乗っていたスーパーフォーミュラだったり、やっぱり後ろにエンジンがあってバランスが良い。運動性能が高いんですね。神に祈る時間も少なくなってくるわけです。

齋藤:そこでスーパー耐久のときにモリゾウさんと話をしまして、エンジンを逆にしようと。ミッドシップにしちゃおうという話になりました。すぐ図面を引いて、重量配分などを計算しました。そんな相談をスーパー耐久のピット裏のテントでやっていました。

佐々木:運転がシャープになりすぎる部分もあります。神に祈る時間がなくなるということは、クルマが思った以上に動いちゃう。なので『GR86』やGRヤリスで運転を鍛えた人に乗ってもらいたい。そういったネガな部分もクルマの楽しさにつながると思っています。クルマの動きをしっかりと覚えた人が乗ると、究極に楽しいクルマにできると思います。フィンランドでこのMコンセプトの1号車に乗ったとき、やはりバランスがよくて雪の上でもハンドルを切った瞬間に向きが変わって、アクセルオンではトラクション性能に優れて前に進んでいく。その良さはすごく感じました。モリゾウさんもずっと走っていました。

齋藤:前後重量配分に関してはミッドシップ4WDのデータがないのでモリゾウさんなどセンサーのすごい(鋭い)方にずっと乗っていただいて、どのくらいが良いのかをテストしています。そのときに実はロアアームが折れてしまっていました。モリゾウさんが帰ってからわかったのですがこういうことも起きるわけです。

石浦:アンダーステアが出なくて気持ちよく走れるし、なによりも背中からエンジンが感じられる。今の時代、外にあまりエンジン音を出せないじゃないですか。だけど、エンジンを感じられるのは本当に嬉しいです。街中でも音や振動を感じられるのは良いですよね。発売されるクルマかわかりませんが、ぜひ出してもらいたいですね。

大嶋:GRヤリスの開発から乗ってきて安定感はすごいのですが、やはりフロントの重さはネックになっていました。しかし、Mコンセプトに乗って4WDでこんなに曲がるクルマってあるんだなと。すごく楽しかったです。

佐々木:下山のテストコース(トヨタテクニカルセンター下山)で怒られるくらいの速さで走れる。それだけバランスの良いクルマです。楽しくて仕方ないクルマが出そうですし、こんなクルマでしっかり馬力があるものがほしくて。想いを伝えて、クルマファンがみんなほしいと思えるクルマにしていきたいと思います。


今シーズンのスーパー耐久シリーズにはこのGR ヤリスMコンセプトが参戦予定。身近なサーキットで新型車の開発現場を見ることができてしまうのだ。どのように進化を続けていくのか注目したい。

GRヤリス M コンセプト(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 GRヤリス M コンセプト(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 GRヤリス M コンセプト(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 トヨタGAZOOレーシング「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」トークショー(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 平田氏は、トヨタのマスターテストドライバーだった故・成瀬弘氏の教えを継承しているという《写真撮影 土屋勇人》 平田氏は、トヨタのマスターテストドライバーだった故・成瀬弘氏の教えを継承しているという《写真撮影 土屋勇人》 GRヤリス ニュル24時間耐久レース参戦車両《写真撮影 土屋勇人》 トヨタGAZOOレーシング「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」トークショー(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 トヨタGAZOOレーシング「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」トークショー(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 ニュルと富士スピードウェイでは、上下G入力の差が歴然としている《写真撮影 土屋勇人》 壊して直して改善を繰り返しながらクルマを鍛えている《写真撮影 土屋勇人》 ニュルでのテスト中に粉々になってしまったピストン《写真撮影 土屋勇人》 壊して直して改善を繰り返しながらクルマを鍛えている《写真撮影 土屋勇人》 スーパー耐久のピット裏テントで、GRヤリスのミッドシップ化についての話し合いが進められていた《写真撮影 土屋勇人》 GRヤリス M コンセプトの図面《写真撮影 土屋勇人》 (左から)レーシングドライバー 佐々木雅弘氏、石浦宏明氏、大嶋和也氏《写真撮影 土屋勇人》 トヨタGAZOOレーシング「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」トークショー(東京オートサロン2025)《写真撮影 土屋勇人》 レーシングドライバー 佐々木雅弘氏《写真撮影 土屋勇人》 レーシングドライバー 石浦宏明氏《写真撮影 土屋勇人》 レーシングドライバー 大嶋和也氏《写真撮影 土屋勇人》 トヨタ自動車 凄腕技能養成部 平田泰男氏《写真撮影 土屋勇人》 ROOKIE Racing ニュルブルクリンクゼネラルマネージャー 関谷利之氏《写真撮影 土屋勇人》 トヨタ自動車 GRヤリス チーフエンジニア 齋藤尚彦氏《写真撮影 土屋勇人》 トークショーのMCを努めた森田 京之介氏《写真撮影 土屋勇人》 GRヤリス エアロパッケージ(プロトタイプ)《写真撮影 吉田瑶子》 GRヤリス エアロパッケージ(プロトタイプ)《写真撮影 吉田瑶子》 GRヤリス エアロパッケージ(プロトタイプ)《写真撮影 吉田瑶子》 トヨタGAZOO Racingブース(東京オートサロン2025)《写真撮影 吉田瑶子》 トヨタGAZOO Racingブース(東京オートサロン2025)《写真撮影 吉田瑶子》 トヨタGAZOO Racingブース(東京オートサロン2025)《写真撮影 吉田瑶子》 トヨタGAZOO Racingブース(東京オートサロン2025)《写真撮影 吉田瑶子》