アウトメカニカ上海 2024《画像提供 メッセフランクフルト》

自動車アフターマーケットに特化した国際自動車産業見本市として、世界14都市で開催されているアウトメカニカ(Automechanika)。その中でもアジア最大規模となる「アウトメカニカ上海 2024」が12月2日から5日までの4日間、中国・上海のNational Exhibition and Convention Center 14ホールにて開催された。


181カ国・地域から、過去最高の22万2341人が来場
世界に先駆けて普及するNEV(中国政府がEV・PHV・FCVを指す言葉)関連の自動車産業が中国で活況を呈していることに連動して、アウトメカニカ上海の規模も年々拡大し続けており、初開催から20周年を迎えた今年のアウトメカニカ上海は35万平方m(昨年比16.7%増)に及ぶ広大な展示会場に6763社(昨年比20%増)が40カ国・地域から出展。会期4日間の来場者数は181カ国・地域から昨年比20%増の22万2341人が訪れ、海外来場者は28%増(海外来場者数上位3カ国は、マレーシア、インド、韓国)。これまで最多だった2019年度(出展者数6590社/来場者数15万9728名)を上回り、4年ぶりに出展者数、来場者数ともに過去最多を更新した。オンラインプラットフォームを通じたライブストリーム視聴回数も約3億回にのぼったと主催のメッセフランクフルトは発表している。

大気汚染や自動車の排ガス問題への対応として、中国では2009年からNEV購入時の補助金政策が開始され、急速にNEVの普及拡大が進んでいる。2023年7月からは自動車の排ガス規制強化により、基準を満たさない車両の生産・輸入・販売が禁止されたことでNEVの普及拡大に拍車がかかり、中国は世界最大のNEV市場へと成長した。このような背景から、今年のアウトメカニカ上海には、持続可能性やコネクティビティ、自動運転、バッテリー充電や交換といったNEV関連をはじめとする幅広い自動車アフターマーケットの最先端技術やサービスが世界中から集まる結果となった。

メインステージで展示された7製品
会場には、NEVのさらなる普及拡大を念頭に、持続可能な未来を推進する革新と変革に焦点を当てたメインステージ「Innovation 4Mobility Showcase Areas」が設けられ、注目製品の展示や30以上のセミナーのほかワーキングラウンジも特設された。

製品展示コーナーには注目の7製品を展示。AI診断スキャンツール、エンジン排ガス測定装置、高度なセキュリティを組み込んだ自動車ネットワークプロセッサ、超小型高解像度長距離LiDAR、バッテリー寿命を向上させる金属プレート、統合スキームで低電力化に貢献する小規模な発電施設のディスプレイモデル、高級車・大型車向けの高出力電動パワーステアリングシステムR-EPS(BYDグループ傘下ブランドのEVミニバン、デンツァ『D9』採用)が展示され、多くの来場者たちが立ち止まって各製品の詳細を確認していた。

世界市場の架け橋として17カ国のパビリオンを特設
アウトメカニカ上海 2024はNEV関連を中心とした最新技術・サービスが集結する “ 世界市場の架け橋 ”としての存在感を放つ。日本を含めてオーストラリア、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、マレーシア、ポーランド、シンガポール、韓国、スペイン、台湾、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国といった世界17カ国の自動車アフターマーケット関連商材が各国ごとに展示されるパビリオンが特設された点も今年の特徴といえるだろう。

グローバル・メガサプライヤー各社がNEV関連を訴求
世界規模で自動車アフターマーケット業界を牽引するメガサプライヤーも数多く出展し、持続可能性の実現に向けたNEV関連製品を強く訴求していた。ボッシュはNEV向けの熱管理システムを発表。ZFは近日発売予定の新製品として、エアスプリングとショックアブソーバーを1つの部品に組み合わせるサスペンションシステム「SACHSエアストラット」を展示。コンチネンタルは、再生可能な原材料を使用した持続可能性と安全性に優れた新しいブレーキフルード「ATE SecuBrake」をアピール。日立アステモは新エネルギー電力・自動運転分野としてHEV用モーターやHEV用インバータ、自動運転制御ユニットなどを展示していた。

ロボットやAI活用で塗装作業を省力化
車体整備機器においては、ロボットやAI活用による自動化・省力化が注目を集めていた。ロボットアームにスプレーガンを装着した塗装ロボットや全自動塗装ブースが出品されており、これまで人(塗装工)が行っていた塗装作業を機械に任せて人材不足をカバーすると同時に、人体に有害な可能性がある特定化学物質の飛散を避ける手段としてハイテク技術を活かした塗装作業の省力化・省人化の流れは必然的だと感じた。

中国企業も“再製造品”ビジネスに注力
“ 再製造 ” の文字を掲げる中国企業のブースもあり、思わず足をとめた。再製造とは「回収品を新品と同基準で再製造すること」を意味し、英語ではRemanufacturing(リマニュファクチャリング)、日本ではリビルトパーツと呼ばれている。車齢や保有年数の伸長により供給対応年数を超える純正部品が増える中、日本においても再製造部品の市場が広がっている。

再生・修理用精密部品の製造に注力し、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、ランドローバー、ポルシェ、フォード、ゼネラルモーターズ、クライスラーといったグローバル展開する車種の再製造品を強くアピールしていた中国企業があった。BYD、長城汽車、吉利汽車など中国国内の独立系ブランドに加え、トヨタ、ホンダ、日産などの日本車モデルも含まれており、再製造品の品質に関して強い自信がうかがえる出展内容だった。

性能や品質の高さを感じた中国製NEV用タイヤ
タイヤにも注目。BYDやシャオペンに純正採用されているというNEV用タイヤや、雪があまり降らない都心部向けに訴求されていたオールシーズンタイヤのほか、悪路が多い中国の道路で力を発揮する自動修復技術を駆使したパンク防止タイヤもあった。中国製タイヤに対する“ 安かろう悪かろう ”というイメージを覆す、性能や品質の高さが感じられた。

快適&エンタメ性にこだわった内装カスタム
中国の富裕層は、ラグジュアリーな高級車の内装をカスタマイズするニーズが高いようだ。快適かつエンターテイメント性がある車内空間の演出にこだわったカスタマイズパーツが多くあり、中国ならではの趣向性を感じた。経年劣化した高級車の内装を、同一ブランドのハイグレードクラスの内装にまるごとアップグレードしたり、長距離運転の疲れ軽減や介護が必要な高齢者向けにマッサージ機能付きシートを後付けしたり、音楽に連動する車載用ライトを後付けしてカラオケなどを楽しむニーズがあるらしく、ユニークで大胆な内装カスタマイズを訴求するブースが多かった。

簡単にEVバッテリーの劣化度を測る機器の登場に期待
NEVの普及拡大が進む中国において、EVバッテリーの劣化度(State of Health:SOH)を測る機器や、劣化したEVバッテリーの性能を一部回復させるメンテナンス機器は必要性が高い重要な機器といえる。今回のアウトメカニカ上海で大々的に出展されていることを期待したのだが、なかなか見つけらなかった。

自動車整備機械の総合メーカー・LAUNCH TECHのブースで、ようやくそれらしき製品を見つけることができた。EVバッテリーの充電と放電を行えるツール「EVP711」があり、充電時間や充電回数によってバッテリーの劣化度を数値上計算できるという。この仕組みをわかりやすく紹介するために、BYDのリチウムイオンバッテリーに電極を接続した状態で同ツールが展示されており、来場者の注目を集めていた。今後、中古EVを定量的に価値判断することができる、SOH測定機器の普及が進み自動車アフターマーケット事業者が手軽に中古EVのリセールバリューを判断できれば、中古EV市場がより活性化することだろう。

世界最大のNEV市場へと成長した中国では、今後も他国に先駆けて画期的な技術やサービスが登場する可能性が高く、中国の自動車アフターマーケット動向に世界中から注目が集まる状況が続くことは想像に難くない。次回のアウトメカニカ上海は、2025年11月26日から29日に開催が予定されている。

<取材協力:メッセフランクフルト>

アウトメカニカ上海 2024《画像提供 メッセフランクフルト》 アウトメカニカ上海 2024《画像提供 メッセフランクフルト》 アウトメカニカ上海 2024 メインステージ「Innovation 4Mobility Showcase Areas」《画像提供 メッセフランクフルト》 AI診断スキャンツール、エンジン排ガス測定装置(左画像)、高度なセキュリティを組み込んだ自動車ネットワークプロセッサ、超小型高解像度長距離LiDAR、バッテリー寿命を向上させる金属プレート(右画像)《画像提供 メッセフランクフルト》 高級車・大型車向けの高出力電動パワーステアリングシステムR-EPS(BYDグループ傘下ブランドのEVミニバン「Denza D9」採用)《画像提供 メッセフランクフルト》 日本のパビリオン(アウトメカニカ上海 2024)写真撮影 金武あずみ(JC Resonance) トルコのパビリオン(アウトメカニカ上海 2024)《画像提供 メッセフランクフルト》 ボッシュの出展ブース(アウトメカニカ上海 2024)《画像提供 メッセフランクフルト》 日立アステモの出展ブース(アウトメカニカ上海 2024)《画像提供 メッセフランクフルト》 ロボットアームにスプレーガンを装着した塗装ロボット《画像提供 メッセフランクフルト》 全自動塗装ブース《画像提供 メッセフランクフルト》 中国企業が製造した再生・修理用精密部品《写真撮影 松岡大輔(JC Resonance)》 BYDやシャオペンに純正採用されているというNEV用タイヤ《写真撮影 松岡大輔(JC Resonance)》 旧車の「内装アップグレード」製品のサンプル《写真撮影 金武あずみ(JC Resonance)》 音楽に連動する車載用ライトのサンプル《写真撮影 金武あずみ(JC Resonance)》 LAUNCH TECHのブースに出品されていたEVバッテリーの充電と放電を行えるツール「EVP711」《写真撮影 松岡大輔(JC Resonance)》 BYDのリチウムイオンバッテリーに「EVP711」を電極を接続した状態《写真撮影 松岡大輔(JC Resonance)》