MINI JCW カントリーマン《写真撮影 中村孝仁》

新しくなったミニは、最初に『カントリーマンS ALL4』というモデルに試乗させていただいた。そして今度は同じボディの「JCW(ジョン・クーパー・ワークス)」版である。

言うまでもなくジョン・クーパーが作り出したミニ・クーパーの血統を受け継ぐモデルの究極形ともいえるモデル。もちろん先代までの「JCW」には試乗したし、カッ飛び系のモデルであったことは記憶しているが、今度のモデルはそれに輪をかけたちょっと凄みのあるクルマだった。

◆「クーパーS ALL4」でも十分なパフォーマンスと思っていたら…
先代までは確か同じ2リットルエンジンながら最高出力は231psで、十分ハイパフォーマンスだと感じていたが、この時代にはさらに強力な『JCW GP』という限定車が繰り出され、そのパワーは306psにまで引き上げられていた。残念ながらこのJCW GPには試乗したことがないので伝聞でしかその凄さを知る由もない。しかし、今回はたとえカントリーマンベースと言えども、そのパワーは317psにまで引き上げられていて、これはJCW GP越えのパフォーマンスを有する。

正直な話、クーパーSのALL4でも十分なパフォーマンスと思っていたのだから、204psが317psにまで強化されたら、それがどれほどのものかはおおよそ想像がつくと思っていたが、まさかこれほどとは正直そのパフォーマンスは想像の外側にいた。

と言っても日常的に走る限り、このクルマは完全に猫を被っている。つまり、クーパーSのALL4と何ら変わるところはない。若干乗り心地が硬いかな?程度の差しかわからない。つまり、これほどのパフォーマンスを持ちながら快適性を十分に担保して、日常的に使い倒す高性能車というまさに優等生的な走りのフィーリングを見せるのである。

そんなわけだからすっかり舐めてかかっていた。なんだ、これなら敢えてJCW買う必要あるのかな?と。車両本体価格で比較するとクーパーS ALL4の566万円に対し、JCWは667万円だからほぼ100万円アップ。まあ、今時のクルマとして見た場合は決して高くはない。でも同じ使い勝手で日常的には同じような走りだと、JCWの必要性を感じなかったというわけである。

◆このクルマは決して舐めてかかってはいけない
ところがちょっとしたチャンスがあって全開を試みた。すると瞬時に音が変わり恐ろしいほどの加速力を見せつけ、同時にステアリングをしっかり強く持ち直してドライバー自らがそれをコントロールする必要性に迫られた。今どきのクルマは安全デバイスがたくさんついていて、トルクステアとは無縁だと思っていたのだが、こいつはそれを感じさせるとてつもないパフォーマンスを持っていたのである。一度きりだと路面の状況などによって生じた可能性もあるので、さらにもう一度試してみるとやはりかなり強烈にステアリングを持っていかれる。

このクルマにはパドルシフトが付き、マイナス側のパドルを押し込むことでターボの最大ブースト圧を得られるブーストモードが付いているのだが、そんなものを押しながらステアリング操作などできないほどに強烈な加速を示す。だから、このクルマは決して舐めてかかってはいけない。もしかするとパワージャンキーのドライバーには面白くて仕方がないクルマかもしれない。

タイヤはクーパーS ALL4の225/55R18から、245/40R20に格上げされているが、それでもグリップ力の足りなさを感じてしまうほど。実際のグリップ力は十分なのだが、感覚的にそう思わせてしまうほどのパワーがあるということである。

まあ正直なところ、このクルマのパフォーマンスを引き出せる腕でのあるドライバーはそうはいないだろうが、その片鱗に触れる楽しさは最高である。だから、JCWはそうした領域を楽しみたいドライバーには価値ある商品と言えよう。

◆ミニという名の普通サイズのクルマとして見れば
この世代からトランスミッションは7速DCTが装備される。正直言って先代までの出来の良い8ATには特に渋滞時などではスムーズさの点で見劣りするものの、ワインディングをそれっぽく走らせるのはこちらの方がはるかに楽しいし、サウンドもATと違って小気味良い軽快感をもっているから、ドライビング自体は先代よりも高揚感が高い。

使い勝手や大型円形ディスプレイの表示内容などは、基本的にクーパーS ALL4と同じ。ただダッシュ全体に灯されるアンビエントライトの色などにはJCWの独自性が示されている。

最早ミニという名前だからコンパクトなクルマだという概念は捨てなくてはならないが、ミニという名の普通サイズのクルマとして見た時は、素晴らしい出来具合である。ボディバリエーションは沢山あるが、基本モノグレードのミニ。そのうち本当に小さな別グレードのミニが出て来るのかもしれない。小さいのが欲しければその時に買えばよい。ちょうどVW『ゴルフ』が大きくなりすぎて、その下の『ポロ』を出した時のように。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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