レクサス GX550 オーバートレイル《photo by LEXUS》

◆道具感を押し出した新型『GX』のフォルム
『GX』はレクサスのSUVラインナップにおいて、『LX』、『RX』に次ぐ第三のモデルとして02年に登場した。初代は120系をベースに、2代目はそのフルモデルチェンジ版である150系をベースにと、一貫して「小さい方」の『ランドクルーザー』、日本でいうところの「プラド」の成長と歩を合わせて進化を遂げてきた。中身的に共通している項目は、ラダーフレーム形式のシャシーにリアリジットの足回り、V8エンジンの搭載などが挙げられる。主力市場は中東そして北米だ。

3代目となるGXもまた、ランドクルーザーが250系へと進化する、そのタイミングに乗じてフルモデルチェンジを迎えることになった。しかも今回は20年以上ぶりに、骨格レベルからの完全刷新となる。そのため基本設計はトヨタ側とレクサス側が共同で行い、大枠が固まってから各々の銘柄が独自に開発を進めるというプロセスを経たそうだ。そして晴れて日本でも3代目は正式販売されることとなった。

新しいGXのデザインは乗用車やSUVとの親和性を図った丸みあるフォルムから一転、道具感を押し出した直線基調のフォルムとなっている。ボンネットは凹凸のはっきりした形状によって、四隅の見切りやすさや幅の把握しやすさにもしっかり配慮がなされている。また、ウエストラインは前席からうんと低い位置に置かれ、側方が確認しやすいような設定とした。それに合わせるようにミラーも縦長の形状として、ミラー端間の幅は前型よりも狭くなっている。一方で型式上の全幅は1980mmとLXやランドクルーザー300と変わらない。

と、それはGXの新規採用となるラダーフレームのベースとなるのが、300系ランドクルーザーやレクサスLXと同じGA-Fプラットフォームという点に関連している。つまりGXや、恐らくだが後に詳細が判明する250系ランドクルーザーは基本ディメンジョンは上位2モデルとほぼ同じになるということだ。ちなみにホイールベースは4モデル揃って2850mm。80系以降、ランドクルーザーの黄金比とされるそれを継承している。

◆レクサスらしいオンロード性能を重視
同じ設計の骨格といえども用いるものや充てがうものは各々異なっている。GXはレクサス水準のオンロード性能を重視し、ラジエターサポート中央部、Cピラーとホイールハウス間にブレースを、ステアリングサポートやボンネットフードロック部に補強材を追加している。また、ボディ部は開口部スポット打点の短ピッチ化や部位ごとに異なる減衰特性の構造接着剤を塗布するなど、剛性強化と共に前後の減衰バランスなどをチューニングしている。

新型GXのサス形式は前ダブルウイッシュボーン、後ろラテラルロッド付4リンクリジットとライトデューティ系オフローダーの定番的仕様だ。ちなみにヘビーデューティ系としては不動の70系ランドクルーザーも擁するなど、トヨタが擁するラダーフレーム系四駆のバリエーションは世界随一と言っても過言ではない。会社的にみればCO2排出量においての利もあるだろうが、世界の隅々までモビリティを届ける上で求められる走破性や耐久性という側面を、いかに大事にしているかが伝わってくる。

新型GXが搭載するエンジンは3.5リットルV6ツインターボ。V35A-FTSといえばLXと同じ形式だが、こちらはタービンを小径化したほかエンジンマネジメントも変わっており、最高出力354psと約60ps低くなっている。一方で最大トルクは650Nmとピタリ同じだ。両車の違いは単なる序列的な差別化ではなく、GXの方がより厳しい悪路環境で使われることを想定し、低中回転域の粘りや応答性などを重視した結果だという。ミッションは10速ATで副変速機を備えるほか、グレードに応じてセンターとリアのデフロックシステムも搭載される。ちなみに仕向地によっては2.4リットル4気筒ターボを軸としたHEVも用意されるが、日本仕様に設定はない模様だ。

そしてGXには今回、新たに「オーバートレイル」というグレードが用意されている。これは標準グレードに対してオフローダー寄りのデザインやアイテムが与えられたもので、今回試乗した米国仕様を例にとれば、フロントトレッドを20mm拡幅、両角部を切り上げた専用バンパーのほか、骨盤をしっかり支えて乗員頭部の揺れを抑える仕立てのシート、走行状況やドライブモードに応じてスタビライザーの効きを最適化させることで路面接地力を高めるE-KDSS、オンロードから悪環境まで安定したトラクションを目指してトーヨータイヤと共同開発したオールテレインタイヤなどを採用したものだ。

◆他銘柄ではお目にかかれない独自のポジション
試乗ではこのオーバートレイルを中心に、20インチを履くベースグレードの「プレミアム」、22インチを履く上位グレードの「ラグジュアリー」と、3車を試すことが出来た。いずれも驚かされたのはオンロードでの乗り味が望外に洗練されていたことだ。ボディオンフレームのリジットサスといえば、操作に対する動きの遅れや路面凹凸によっては突き上げや横揺すりなどの癖が現れるものだが、可変ダンパーなどを持たない20インチのプレミアムでも応答にズレのない自然な動きが印象的だ。タイヤのエアボリュームも手伝って路面追従の柔軟性も高く、コーナーでは加減速や舵の操作に対して適度なロールやピッチをみせながら自然に振る舞ってくれる。

クルマの素性の良さを全面に感じさせてくれる20インチの動きに対して、22インチを履くラグジュアリーはややタイヤの横剛性に引っ張られる感はあるが、乗り心地的には著しい損はない。むしろコーナリングでのカッチリした舵感や応答性を好む向きもいるだろう。18インチのオーバートレイルはマッド寄りのパターンを持つオールテレインタイヤでありながら、ブロックの倒れ込みなどタイヤ由来の応答の曖昧さは抑えられている。また、いかつい見た目の割には高速域でのパターンノイズの少ない点も特筆できるところだ。

オーバートレイルの悪路走破性は、30度のバンクや登坂路、深く彫り込まれたモーグルなどのセクションで試すことが出来たが、マルチテレインセレクトの世話になることさえなく、ドライブモード副変速機を用いるだけであっさりと走り切る、そのトラクション能力の高さに驚かされた。電子制御による駆動コントロールがなくとも、アクセル操作だけでじんわりと駆動力を乗せていくようなアクセル操作が苦にならない、そのセッティングの妙に加えて、搭載エンジンの粘り気も巧く働いているのだろう。

そして物理的に効いているのがタイヤ外径による地上高アップに加えてスタビライザーをほぼフリー化するE-KDSSによる路面追従性の高さだ。パンパンに膨らませたエアサスによって車高を持ち上げて走破性を確保するシステムに比べると、トラベルの大きなアシをコイルサスで支えることで得られるアタリの柔らかさがレクサスに求められる動的水準に見合っている。LXは車高調整を油圧化することで驚くほどの悪路快適性を実現しているが、GXも悪路での乗り心地はそれに迫るものがある。走破性や耐久性といったラダーフレームオフローダーの素養と、快適さや安心感といったレクサスらしいもてなしの世界観とが段差なく融合している。

新しいGXは、他の銘柄ではなかなかお目にかかれない、独自のポジションにいるクルマではないだろうか。

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

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