ボルボEX30のフロントビュー。デイライトは今流行りのマルチセグメントLED。《写真撮影 井元康一郎》

2023年8月に発表されたものの、型式認証の取得が遅れて供給が延び延びになっていたボルボのBEV(バッテリー式電気自動車)『EX30』の納車がようやく本格開始されることになった。そのEX30を短距離試乗する機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。

EX30は全長4.2m級のBEV。ボルボ自身はBセグメントクラスと定義している。プラットフォームは吉利自動車のBEVブランドZeekr(ジーカー)、メルセデスベンツと吉利と共同開発となったの小型車ブランドSmart(スマート)にも使われるBEV専用モジュールアーキテクチャ「SEA2」。車体サイズは全長4235×全幅1835×全高1550mmで、日本の古い立体駐車場の車高制限を意識したことがうかがえる。

駆動方式はツインモーター式の電動AWD(4輪駆動)とRWD(後輪駆動)の2種類が存在。追ってAWDを導入する計画もあるそうだが、日本初ローンチは航続距離延長型の69kWh・RWDモデルのモノグレード。トリムレベルは欧州市場では最上位の「ULTRA」相当で、ハーマンカードンのサウンドバーなどが標準装備される。価格は559万円。

◆手堅さと先進性がバランスしている
全体的な印象は手堅さと先進性が大変良くバランスしたクルマというものだった。パッケージングは優れており、室内は広大とはいかないまでも大人4人が長時間居続けても苦にならないだけのスペース的な余裕がしっかり確保されている。最高出力200kW(272ps)の電動パワートレインや総容量69kWhの大型バッテリーパックをショートボディに詰め込んでいるわりには荷室のフロアが低く、多人数での宿泊旅行や大荷物を積んでのレジャーユースも十分こなせそうだった。

車内の居心地も悪くなかった。インテリアはダッシュボードの薄型化や前ドアスピーカー廃止などの工夫で圧迫感を極力減らしたという話だったが、実際に乗ってみても体感的には実寸以上に余裕があるような印象だった。採光性もグラストップが標準装備だけあって基本的には良好。

ただし後席については後ドアのプライバシーガラスの濃度がいささか高すぎ、停止状態で座ってみた印象では閉所感が強め。欧州ではオプションのプライバシーガラスを標準装備としたのは日本市場のユーザーの好みを考えてのことだろうが、明るい室内を好むユーザー向けにノーマルガラスを選択できる余地があってもいいのではないかと思った。

操作系はメカニカルスイッチが激減し、車両設定のほとんどをソフトウェア上で行うようになった。インターフェースは車速メーターやADAS(先進運転支援システム)など車両情報の表示を兼ねたダッシュボード中央の12.3インチディスプレイ。今回のドライブではEX30の操作を深く知るような余裕はまったくなかったので、空調の内気循環/外気導入の切り替えすら覚束ないという有様だったが、Googleアシスタントが実装されているのでテスラ車のようにコマンドの呼び出しを音声でできるのであれば、加速度的に便利になるのではないかと推察された。

◆予想を超えた堅牢性のライドフィール
肝心かなめのライドフィールだが、こちらは予想を超えた堅牢性を示した。サスペンションは固めだがフリクション感は小さく、走っていて気持ちがいい。床板の老朽化で段差やうねりだらけの首都高速神奈川1号横羽線を通行してみたところ、衝撃の抑え込みのレベルはこのクラスではトップランナーと思える高さだった。

突き上げはもちろんあるがサスペンションのフリクション感が小さく、嫌な揺れが残らない。床板の継ぎ目の段差が連続するような箇所でもドタンドタンという低級振動の発生は少なく、ドゴッドゴッという減衰の効いた感触だった。共振が少ないので静粛性ももちろん高い。ボルボ関係者は技術説明で超高強度のボロン鋼を積極的に使っているとアピールしていたが、たしかにダイナミック剛性以前にスタティック剛性を徹底的に作り込んだという感じだった。

テスト車はオプション設定されている245/40R20サイズのグッドイヤー「エフィシェントグリップSUV」を履いていた。標準の245/45R19なら滑らかなフィールを示すだろう。

◆長距離ロードテストも行ってみたいと思わされる1台
動力性能は十分。200kWの電気モーター出力はこのクラスには過ぎたるもので、首都高速の短い合流車線でも本線車道に出るのに神経を使うようなことはなかった。加速タイムを合法的に計測できるような場所を通る機会はなかったが、0-100km/h加速の公称値は5.3秒。AWDの3.6秒に比べると遅いが、それでもCセグメント以上のクラスと比較しても相当に速い部類である。

アクセルペダル1本で完全停止までサポートするワンペダルドライブ機能を有するが、こちらは車速が高い時のアクセルオフでは強い減速度を示す一方で車速が低い時は減速度が弱いなど一定せず、ある程度の慣れが必要なように感じられた。

航続距離はもちろん未計測だがバッテリーの充電率低下は18%ぶんで、単純計算では満充電時の航続距離400km強が期待できる。温暖期であれば450km程度か。ADASは自車レーンだけでなく両隣のレーンも見るレベル2タイプ。車線維持のためのステアリング介入はかなり強めで、より安全側に振ったチューニングだった。

短時間試乗では天候、道路のコンディション、周囲の交通状況などのバリエーションが豊富でないため長所短所のすべてがわかるわけではないが、80km弱を走ったかぎりでは予想を大きく超えるパフォーマンスというのが率直な感想。機会あらばいずれ長距離ロードテストも行ってみたいと思わされる1台だった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おススメ度:★★★★★

ボルボEX30のリアビュー。テールからピラーにかけてブレーキランプが配されるボルボのデザイン文法が踏襲されている。《写真撮影 井元康一郎》 ボルボEX30のサイドビュー。全長4.2m台は同社の現行モデルの中で最小。《写真撮影 井元康一郎》 グラストップが標準装備される。サンシェードは実装されていない。《写真撮影 井元康一郎》 ボルボEX30のテールエンド。シンプルデザインである。《写真撮影 井元康一郎》 Cピラー上にEX30のオーナメントが装着されている。《写真撮影 井元康一郎》 ボンネット開放の図。AWDの場合は前アクスルにも電気モーターが装備されるが、このRWDは実質がらんどう。《写真撮影 井元康一郎》 ボンネットに体積の大きなエンジンを搭載しない電動専用プラットフォームゆえか、ストラットのトップを内側に寄せることができているようだった。《写真撮影 井元康一郎》 タイヤはオプションの245/40R20サイズ。通常は245/45R19。《写真撮影 井元康一郎》 ドア開放角はそれほど大きくないが開口部上端は高く、乗降性は悪くなかった。《写真撮影 井元康一郎》 前席。再生樹脂を積極採用したインテリアトリムが特徴。《写真撮影 井元康一郎》 ステアリングは円ではなく異形。上端は圧迫感削減、下端は乗降性向上のために詰められている。《写真撮影 井元康一郎》 再生材料特有の質感をプラスに生かすことを念頭にデザインしたという。《写真撮影 井元康一郎》 金属的質感を上手く使うのは近年のボルボ車に共通する特徴。《写真撮影 井元康一郎》 ドアハンドルは再生アルミニウム。オーディオのサウンドバー化によってドアスピーカーを廃止。ドアポケット容量はかなり大きかった。《写真撮影 井元康一郎》 センターコンソールは可動式で、カップホルダーを使わない時は収納できる。《写真撮影 井元康一郎》 後席はスペース的には必要十分で大人4人での長距離ドライブもこなせそうだったが、プライバシーガラスの色が若干濃すぎて暗く感じられた。《写真撮影 井元康一郎》 荷室は横幅はそれほどでもないが十分な広さ。ボード上のスペースは318リットル、下部は61リットル。ボードは取り外しも可能。《写真撮影 井元康一郎》 ボンネット下にも小さな荷物置き場がある。《写真撮影 井元康一郎》 オーディオはハーマンカードンのサウンドバーが標準装備。出力は1kWもあり、音質も標準装備品としては十分以上に満足のいくものだった。《写真撮影 井元康一郎》 スピードやADASなどのインフォメーションはセンタークラスタのディスプレイに表示される。スピードメーターは同様のレイアウトを取るテスラ「モデル3」より視線移動がやや大きい印象だった。《写真撮影 井元康一郎》 ドライブ終了の少し前に電費グラフを撮ってみた。気温9〜11度で16.6kWh/100km(約6km/kWh)は可もなく不可もなくといったところ。慣れればもっと伸ばせそうではあった。《写真撮影 井元康一郎》 ドアミラーはフレームレスでミラーユニット全体が動くタイプ。《写真撮影 井元康一郎》