スズキ スペーシア 新型《写真撮影 宮崎壮人》

スズキ『スペーシア』が新しくなった。ジャパンモビリティーショーで、コンセプトカーとして紹介されたモデルが、そのまま市販された形である。

早速試乗会が開催されて、富士の裾野で試乗をしたのだが、正直言うとノンターボのスペーシアには不向きな条件だったので、改めてお借りして試乗をしてみた。その結果試乗会の時には気付かなかったことも含め、やはり数日乗ってみるとあれこれと気付くものである。結論から先にお話しすると、ノンターボのモデルはスローライフ派向きのモデルで、せっかちな人にはあまりお勧めできない。

◆ノンターボがスローライフ派向きな理由
その理由はというと、ノンターボ車はとことん効率を考慮した設定になっていて、そのメーカーの思惑通りに運転すれば快適だし静かだし、それに燃費も素晴らしい。ところがそれを外れると、喧しいし、遅いし、イライラすることになる。富士の裾野が何故不向きだったかというと、ご存じの通り山に向かって上り勾配のところが多く、そうしたところではどうしてもアクセルを深く踏み込む必要があって、本来持っているはずの静粛性を堪能することがほとんどできなかったからである。

改めてお借りして横浜近郊を数日走らせてみたら、少なくとも信号グランプリなどには参加せず、のんびりと郊外を流す程度の車速で走ると、実に快適で静粛性も高い。大きな理由は燃費を考慮してか、加速の際に少し踏み込んだアクセルを戻すとすぐにCVTがステップATでいうところのシフトアップをして常用スピード域のレベルのギア比にしてしまうからである。簡単に言えばMTで1速2速を使った後にいきなり4速か5速にアップするようなものである。

だから、一度話したアクセルペダルを再度踏むと今度は大きな唸りを伴って加速せざるを得なくなる。この時アクセルをほんの少しだけ踏めば、スムーズに、しかしゆっくりと加速を始めるが、せっかちには向かない。だからスローライフ向きなのである。

年費はすこぶる良くてWLTCでは23.9km/リットルだが、それは無理としても普通に走って20km/リットルを超える燃費性能を示した。本気で燃費運転をしたらもしかするとWLTCに迫る燃費を記録できるかもしれない。

◆リッターカーのソリオをも上回る乗り心地
乗り心地もすこぶる良い。この部分は現実的に下克上が起きていて、リッターカークラスの『ソリオ』を超える快適さを示す(ホントはまずい)。例によって本当にあれこれと次から次へとアイデアを出してくると感心させられるほど使い勝手に関しては優れている。走りの変化という点では、上級モデルにEPB(電動パーキングブレーキ)が装備されたことでACCが停止まで効力を持つようになった。これは大きな変化である。

感心したのはフロントのAピラーを可能な限り細くしたことによって、視界が良好になり、死角が大幅に減少したことで、これは素直に実感できると思う。EPB同様上位モデルだけだが、ヘッドアップディスプレイも装備された。ただ、その高さ調整がセンターディスプレイの階層の深い部分に埋もれて、呼び出しにくいのは難点。

難点と言えば、先代と比べてリアビューミラーの取り付け位置が変わったのか、天地方向の視界が制限されて、少々見づらい。また、給油口の蓋を開けるレバーがダッシュの下の方についているのだが、夜間などは見えづらい。他のスイッチすべてがピクトグラムを白で着色しているのに、この給油口のピクトグラムにはそれがない。個人オーナーが常に乗るなら問題なかろうが、カーシェアやレンタカーなどを考慮した場合は着色した方が親切だと思った。

使い勝手の良さは枚挙に暇がないのだが、一つ挙げれば新たに装備された「マルチユースフラップ」の存在だ。これはオットマン機能を持たせたフラップで、レッグサポートや、荷物を支えるフラップにも使えるという代物。ただ、サイズが小さいのでオットマンとして使うにはどうかと思えた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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