ヤマハ TRICITY125 / NMAX《写真撮影 真弓悟史》

ヤマハは、125ccクラスのスクーターに豊富なラインナップを持つ。ホンダが『PCX』と『リード125』の2機種、スズキが『バーグマンストリート125EX』、『アヴェニス125』、『アドレス125』の3機種を用意するのに対し、『アクシスZ』、『ジョグ125』、『シグナスグリファス』、『NMAX』、『トリシティ125』と5機種を展開。多様なニーズに応えてくれている。

コストパフォーマンスに優れるエントリーモデルの役割をアクシスZとジョグ125が果たし、スポーティな走りと、それに見合うアグレッシブなスタイルをウリにしているのが、シグナスグリファスだ。では、価格的に上位2機種に位置する『NMAX』と『トリシティ125』は、いかなるモデルなのか。

ごく簡単に表現すると、ビジネスシーンでも違和感のないプレミアムなデザインを持つのがNMAX、フロント2輪による高いスタビリティを体感できるのがトリシティ125であり、直近のモデルチェンジはNMAXが2021年6月、トリシティ125が2023年2月だ。ここからは、そんな両モデルを比較してみよう。

◆『NMAX』と『トリシティ125』を比較
搭載されるエンジンは、いずれも124ccの水冷4ストローク単気筒で、最高出力も最大トルクもボア×ストロークも圧縮比も変速比も同じだ。ヤマハが掲げる「BLUE CORE(ブルーコア)」という設計思想の元、燃費や環境性能に配慮されているのも共通ながら、車重と車体構造の違いから燃費が若干異なる。NMAXのWMTCモード値が46.9km/リットルを公称するのに対し、トリシティ125は44.9km/リットルと、2km/リットルの差が生まれている。

車重は、NMAXが131kg、トリシティ125が168kgだ。LMW(リーニングマルチホイール)テクノロジーの構造上、トリシティ125は一般的なバイクと比較して、フロントのホイール、ブレーキキャリパー、ブレーキディスク、フォークがそれぞれ倍増。それらと車体をつなぐリンク類も凝ったものとなるため、重量増は免れない。

ただし、雨、泥、マンホール、横断歩道のペイントといったグリップ力を低下させる路面状況において、接地感を維持。もちろん物理的な限界はあるものの、フロントタイヤが滑り、普通ならなす術もない場面でもクリアできる頼もしさがある。

そしてもうひとつ。急減速を強いられた時の安心感も高い。フロントが2輪に分散されたことによる摩擦係数の増大は明らかで、重量増を補って余りある制動距離の短さと踏ん張りを披露する。

こうしたメリットとのトレードオフとして、取り回しの気軽さはNMAXにかなわない。ひとたび走り出せば気にならないとはいえ、押し引きは明確に重く、車幅も無視できない。自宅のガレージに余裕があり、また通勤先の駐車スペースも同様ならデメリットにはならないが、公共の駐輪場や狭い場所での出し入れには、それなりに気をつかうことになるはずだ。

◆NMAXはスクーターならではの機動力
その点、NMAXはこのクラスのスクーターならではの機動力で、どこでもスイスイと走れてしまう。ハンドリングは軽く、適度に締め上げられたサスペンションがスポーティさを発揮。タウンユースはもちろん、ワインディングに持ち込んでもキビキビとした走りは損なわれない。

NMAXに乗っていて「その気」になれるのは、センタートンネル構造を有している点も大きい。頑強なフレームと、それを覆う外装が車体中央に配され、疑似的なニーグリップ(正確には足首やふくらはぎだが)が可能なため、下半身の収まりがいい。コーナーでは踏ん張りが効き、またフロアのセンターに足を載せたり、前へ投げ出したりと自由度が高いところも好印象である。

◆足つき性はトリシティ125に分がある
その点、トリシティ125は、足を揃えて乗るフラットフロア構造ゆえ、その乗車姿勢はスクーター然としたものだ。スポーツ性は望めない反面、乗降性は安楽そのもので、NMAXのように足を大きく上げたり、またいだりする動作が不要になる。

シート高は、NMAXが765mm、トリシティ125が770mmだ。数値自体はNMAXの方が低いが、足つき性はトリシティ125に分がある。この差もセンタートンネル構造か、フラットフロア構造かの違いからくるもので、足を降ろした時、NMAXはシート下部のパネルが内股に干渉。わずかとはいえ、足が開き気味になるのが要因だ。そのぶん、走行中はパネル部分が下半身のホールドをサポートすることになり、このあたりは一長一短。走りを優先するならNMAX、ストップ&ゴーの気軽さならトリシティ125が勝る。

◆利便性はトータルでNMAX、だが注意点も
では利便性はどうか。スクーターの場合、やはり重要視されるのが収納スペースの容量だろう。メインとなるシート下トランクは、NMAXが約23リットル、トリシティ125が約23.5リットルで、その差もさることながら、シートがガバッと大きく開口するトリシティ125に対し、NMAXは途中で停止。不便とまでは言わないが、直接比較するとトリシティ125の方が荷物の出し入れがしやすく、NMAXはヒンジ部分の剛性不足(ガタつき)も気になる。

ただし、NMAXはフロントに収納ボックスと小物入れ、DCジャックを用意し、ヘルメットホルダーを2個装備することでこれをフォロー。トータルでは、NMAXの方が使い勝手がよさそうだ。

もっとも、注意点がひとつある。2023年モデルのNMAX(8月22発売)からは、「ヤマハモーターサイクルコネクト」とのペアリング機能が廃止されるのだ。専用アプリを介してスマートフォンと連携し、電話やメールの着信、エンジン回転数、メンテナンスの推奨時期、車両の最終駐車位置などが表示されるというものだったが、ガジェット好きにとっては、こうした機能の有無は気になるところだろう。装備の簡略化にともなって価格が下がったわけでもなく、むしろ1万1000円アップしているところも考慮が必要だ。

◆一体どのようなユーザーにふさわしいのか
さて、ここまで記してきたあれこれが、NMAXとトリシティ125を同条件で使った上で感じた差異である。フロントタイヤの構造が決定的に異なり、それが乗り味の違いを生んでいることを踏まえると、それぞれのモデルは一体どのようなユーザーにふさわしいのか。

街中における軽やかな走りもさることながら、モーターサイクル的な資質が高いNMAXは、スクーターにもスポーツ性を求め、ショートツーリングにも使いたいユーザーにとって、よりよい選択になるはずだ。その意味では、シグナスグリファスもほぼ同じステージにあるのだが、より落ち着いたデザインや車体色、質感を持っているのがNMAXだ。

一方、風雨を問わず、いつでも乗って出かける必要があるユーザーには、やはりトリシティ125をおすすめしたい。路面コンディションが悪化しても、ほとんど損なわれない物理的、あるいは心理的な安心感はフロント2輪ならではのものゆえ、他ではちょっと換えがきかない。

価格帯が異なるため(NMAX=37万9500円/トリシティ125=49万5000円)、そもそも単純に横並びに比較できるモデルではないが、コストが問題にならないのであれば、LMWの独自性と、それがもたらす優れたスタビリティをおすすめしたい

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ NMAX《写真撮影 真弓悟史》 ヤマハ TRICITY125 / NMAX《写真撮影 真弓悟史》