
ヤマハ発動機は成長領域に経営資源を集中するため、2024年に半世紀にわたるプール事業から撤退を発表した。これに伴い、プール管理部の松井健良氏らは『FRPプール50年の実績と構造的特徴に関する報告』を論文としてまとめ、第10回FRP複合構造・橋梁に関するシンポジウムで発表した。「インフラなど新たな活用の手がかりになってくれたら」とそのねらいを説明する。
ヤマハは1974年に国内初のオールFRP(繊維強化プラスチック)製プールを発売した。FRPは樹脂とガラス繊維の組み合わせで物性を変えられ、強さや軽さ、高い耐腐食性、設計の自由度やメンテナンス性の高さが特徴である。コンクリート製が主流だった当時、FRPプールはこれらの長所を武器に需要を拡大し、累計納入件数は6500件を超えた。2020年の新規公共スクールプールのシェアは約55%、FRPプールに限れば約95%に達し、国内プール事情の発展に大きな影響を与えた。
ヤマハのプール開発は、プールを建築物ではなく工業製品として捉え、FRP製ユニットを工場で製造し現場で接合する工法を採用した。これにより工期短縮や品質管理の優位性を実現した。一方でFRPは温度収縮が大きく、競技用プールの高精度要求には課題があったが、伸縮度管理の手法を開発し世界水泳での採用実績もある。
東日本大震災では、被災地で断水が続く中、ヤマハのFRPプールの水が生活用水として活用されるなど、社会貢献性の高さが示された。共著者の内山仁平氏は震災調査を通じて事業の社会性を再認識し、菊地秀和氏は撤退を残念に思いながらもFRPを用いた浮桟橋(ポンツーン)開発など新たな挑戦に意欲を示している。ヤマハは今後もFRP技術の可能性を追求し、より良い社会づくりに貢献していく方針だ。