BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》

ビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン)は、ミドルクラスサルーン、『5シリーズ』のフルモデルチェンジを発表。同時にBEVの『i5』の導入も明らかにした。そこで、その特徴や導入の経緯などについて話を聞いた。

◆BMWのど真ん中
---:5シリーズは今回で8代目となりました。まずはフルモデルチェンジのポイントから教えてください。

ビー・エム・ダブリューBMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティング プロダクト・マネージャー 御舘康成さん(以下敬称略):大きくはBMWのど真ん中のクルマとして、5シリーズをもう一度価値と存在感を高めることがあります。

また、2030年、BMWはグローバルでの販売台数のうち50%を電気自動車にすることを掲げています。いまはその7年前にあたりますので、ここで明確な方向性と次世代の電気自動車の普及に向けたゲームチェンジャーとしてのクルマをぜひ作りたいと思ったのです。

---:そうすると、今回のポイントは電動化ということですね。

御舘:それが一番大きいと思いますが、実はそれだけではありません。少し大きなところからお話しをしますと、実は日本では、BMWといえば『3シリーズ』というイメージが強くて、5シリーズの販売割合はあまり大きくはないんです。しかし、BMWは駆けぬける歓びと、高級車らしい快適な乗り心地の両方を妥協せず、さらにその両方を高めるために持てる技術を投入し、さらなる走り込みをしているブランドです。従って、世界のスポーツセダンの絶対的なベンチマークである3シリーズよりも広くて快適であること。かつ昨年発売したラグジュアリードライブの頂点を極めた『7シリーズ』に対して、オーナードライバーズカーとしてスポーティな立ち位置にあるのがこの5シリーズなわけです。つまり、この5シリーズこそが“THE BMW”だろうというのが私の中で一番強い思いです。

近年、SUVが人気で、セダン市場がどうしてシュリンク気味ではありますが、セダンの方が、着座位置が重心点に近いですし、クルマと一体になれます。さらにリアもハッチゲートを持たず、リア周りに構造部材が入って、静粛性と快適性が担保されているのですから、BMWが一番作りたいのは実は5シリーズのセダンだろう、というのが最も私が感じていることなんです。

ですからこのクルマこそ妥協せず、スタイルも走りも、それから様々なデジタル技術も最高のものを実現したいということが、この8代目のプランニングを始めるにあたって一番思っていたことでした。この5シリーズをもう一度、メインステージに乗せたいと思っているのです。

◆シャークノーズは格式と車格感の表れ
---:8代目は大きくデザインも変わりましたね。

御舘:はい、今回シャークノーズが採用されています。初代から3代目まで取り入れられていましたが、それ以降なくなってしまった一番の要因は空力だったんです。しかし今回、キドニーグリルを縦方向に大きくして、その上端を少しスラントさせてシャークノーズにすることで、格式と車格感を高めているわけです。

さらにその分ボンネットが長くなります。ロングボンネットイコール高性能パワートレインが入っている、ということが想起できますので、高級感も十分に演出できています。それでいて、モデルにより違いますが、ベースモデルでCD値0.23を記録しました。確かに他ブランドのBEV専用車はCD値0.22ですが、こちらはシャークノーズを採用しての値ですから、非常に優秀だと思います。

---;確かにセダンベースでオーソドックスな形でのこの値は凄いですね。

御舘:これは私も最初に聞いたときにはびっくりしました。本当に素晴らしいエンジニアリングだと思います。

また、デザインそのものも少し変わりました。BMWはドアハンドルのところにパキッとキャラクターライン(ジッケライン)を通していましたが、今回はその位置が変わりました。それでもそのラインの作り方は非常に精緻で、微妙な配置になっています。これまでのものが鉄板をシャープに折り曲げてスポーティさを演出しているとすれば、新型は鉄の塊を削り出したかのような重厚感があるんです。その結果として本当にひとクラス上のクルマになったなと思います。

またホフマイスターキンク(リアドアガラス後端の湾曲した輪郭)も意匠は変わりました。これは空力のためにCピラーがこれまでよりも寝ているので、ホフマイスターキンクの位置も少し後ろに引っ張られた感じになったからでしょう。ただし、真っ直ぐその下にあるリアフェンダーに稜線がつながっていますので、エレガントさとスポーティ感の両方を両立するという意味では、すごく素晴らしいスタイルだなと思います。

---:サイドビューを見ると若干テールが下がっていますが、Cピラーからの流れを合わせてとても上手くまとめてあるのですね。

御舘:電動化するにあたり、フロアにバッテリーを搭載するので当然車高が上がるわけです。このクルマも3.5cm高くなりました。シルエットは、シャークノーズにしてロング&ハイボンネットで、空力を意識しながらルーフラインに繋げています。そこからストンと落としてるのですが、車高が3.5cm上がった分をそのままにしてしまうと、サイドビューが厚ぼったい印象になってしまうんですね。ですからサイドのロッカーパネルはブラックアウトにしていますし、その上にあるキャラクターラインも少しキックアップさせることでシャープな印象にしています。それらの結果として引き締まった感じを持たせているのです。

---:デザインにもかなりのこだわりが感じられると。

御舘:今回のデザインは何よりも3シリーズとは違うという明確な主張が感じられます。確かにシャークノーズにしたために伝統のショートオーバーハングではなくなり、全長も伸びましたが、3シリーズ、5シリーズ、7シリーズそれぞれのポジショニングが明確になりましたので、もうお客様は3シリーズにしようか5シリーズにしようかと悩むことはないと思います。

◆パワートレイン選択は痺れるディレクションの結果
---:今回、ガソリンとディーゼルの内燃機関モデルとBEVが導入になりました。日本市場においてこの戦略はどのような考えによるものでしょうか。

御舘:我々は率先して電気自動車に移行していきたいと考えています。実は先代5シリーズのPHEVはセグメントリーダーでしたし、最量販車でもありました。この新世代プラットフォームは電動化に対応していましたので、バッテリーはトランク下ではなくあえてクルマのど真ん中に持ってきて、ガソリンタンクはトランクに位置しています。このように重量配分を悪化させずに環境性能に対応しているのはBMWだけなんですね。さらに駆け抜ける歓びもあるという本当に素晴らしいエンジニアリングでした。

しかし今回、その自慢のプラグインを入れないんです。さらにBMWの命であるストレート6も入れません。いわゆる量販の4気筒のガソリンとディーゼル以外は全て電気です。これはちょっと“痺れる”ディレクションではありますが、2030年に世界販売の50%を電気にすると明言し、日本は先進国ですから当然50%を超えるでしょう。そこから遡って7年前の現時点で、その答えがないメーカーがこの数字を有言実行できるのか疑問です。我々は言っているだけではなく未来を作るメーカーですから、そのための答えを今回きちんと出しました。それがこのラインナップに隠された意味なのです。

ですから価格もかなりこだわったフェアな値付けです。先代のプラグインハイブリッドに性能差、装備差を加えると今回の価格になります。決してバッテリーが高いからとコストアップで決めているわけではありません。電気自動車を世の中に普及させるために、PEHVは潔くやめますというのであれば、電気自動車はそのお客様が納得して買っていただけるだけのフェアな価格でないと通用しないでしょう。もちろんドイツとは揉めました(笑)。ですが、BMWが世界中でいっている2030年に販売割合の50%を電気自動車にするためには、その何年も前にその答えとなる商品を出していないと絶対にダメだといって、真摯に議論した結果、本国もこの価格を認めてくれたわけです。

もちろんドイツにはPHEVもありますし、ストレート6もあります。さらに今回PHEVの電池が薄くなって重量配分がさらに良くなりましたので、ものすごく欲しかったのは事実です。でもやめました。それをやっていたら販売が分散してしまいますし、何よりも今回のi5の出来が素晴らしいですし、その走りも抜群です。本音でいうと、ストレート6に乗っている場合じゃない(笑)。

この要因のひとつは、BMWのサスペンションコントロール技術がすごく上がっているんです。電気自動車の唯一にして最大の課題はクルマが重いことですよね。アクセラレーションはトルクウェイトレシオで当然出せますし、静的重量配分だけは何とか50:50にしたとしても、結局動的重量点の移動に対してはやはり難しいんです。それをコントロールするためには内燃機関よりも1段も2段も上のサスペンションコントロール技術が必要になってくるわけです。

そこで日本導入に際し、特にi5 M60にはこだわってインテグレーテッドアクティブステアリング(後輪ステア)とそれからアダプティブMサスペンションプロ(電動アクチュエーターを使ったスタビライザー)を標準にしています。そうすると、動的重心点の変化を極力抑えて常にクルマの挙動がドライバーの意図の中にあるようにすることができるのです。以前の仕様では確かに乗り心地は良くできましたけれど、その制御レベルではさすがに走りを良くするところまではいかなかった。それがBEVになると電圧レベルも高くなりますし、それを使った制御レベルも上がるので、完璧に電気自動車のネガをほぼほぼ潰してます。

実際にドイツで乗ってきましたけれど、例えばアウトバーンを200km/hで走らせても、ワインディングロードを走らせても、びっくりするくらい変わっています。2030年に我々の目標、50%が電気自動車になることが達成されて、過去を振り返ると7年前に導入したこのクルマがゲームチェンジャーだったと思い返せるでしょう。ですから潔くPHEVもストレート6もやめたのです。

もちろん課題はあります。航続動距離も含めて難しいのは分かっています。それでもBMWだからこそ厳しいところに向かってやっていくんです。そういう心意気ですね。

◆デジタルエクスペリエンスは実利重視で
---:日本仕様においては他にもこだわりの装備があるそうですね。

御舘:はい。実はプレミアムのお客様はデジタルエクスペリエンスに興味津々なんです。でもよくよく聞いてみると、フィーチャーリスティックでふわふわしたものではなく、もっと実利的なものが欲しいことが分かりました。そこで今回こだわって標準装備にしたのが、4方向ドライブレコーダーです。ガラスに取り付けるものではなく、駐車支援などに使う前後左右のカメラをそのままドライブレコーダーで使えるようにしました。ですから窓越しに撮っているのではないので、後ろからの煽り運転のクルマのナンバーもはっきりと写りますし、横の幅寄せにも対応できます。

次がアラームシステムです。日本では高級車もあまり装備されていませんが、最近車上荒らしなども多いので採用しました。このアラームの特徴はクルマに異常があった時に、アラームが鳴って撃退するだけではなく、携帯電話にアラームが鳴ったことを通知すると同時に、クルマの周りの画像と車内の画像も送られてきます。ですから本当に物取りがバッグを狙っているのか、子供がガレージでクルマの中のボールを取ろうとしただけなのかが離れていてもわかるわけです。

もうひとつ。センタースクリーンで対戦型ゲームができます。他社でも似たようなものはありますが、それらはセンタースクリーンをタッチしながらテトリスをやるなどですよね。しかしBMWの場合はQRコードを読み込むことで携帯端末がコントローラーになるのです。そうして対戦型のサッカーとかレースなどのゲームができる。例えばお父さんがお兄ちゃんの塾を待っている間に、お父さんと弟くんとで対戦したり、最大4人まで対戦ができたりますので、後席の人も参加できる。確かにBMWらしいかといわれたらちょっと違うかもしれませんが、結構面白い装備です。

そのほかにもクルマのサイズが大きいので、リモートパーキングシステムも標準装備です。これは単にパーキングサポートだけでなく、家や職場などで駐車スペースが複雑なルートであっても全部覚えられますから、クルマに任せることが可能です。また、横が狭くてクルマから降りにくい場所でも、途中で降りて、あとは携帯端末で車庫入れも可能です。

このように充実した標準装備なども含めて、言い訳なしでの本気で5シリーズをBMWのど真ん中のクルマにしたいと考えています。ですからスタイルも走りも電動も、それからデジタルエクスペリエンスも全部これでもかというくらいの仕上げになっているのです。

BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 ビー・エム・ダブリューBMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティング プロダクト・マネージャー 御舘康成さん《写真撮影  内田俊一》 BMW 5シリーズ《写真撮影  内田俊一》 BMW 5シリーズ《写真撮影  内田俊一》 BMW i5 M60《写真撮影  内田俊一》 BMW 5シリーズ《写真提供  BMWジャパン》 BMW 5シリーズ《写真提供  BMWジャパン》 BMW 5シリーズ《写真提供  BMWジャパン》 BMW 5シリーズ《写真提供  BMWジャパン》 BMW 5シリーズ(初代)《写真提供  BMWジャパン》 BMW 5シリーズ《写真提供  BMWジャパン》