トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》

ハイブリッド車の代名詞とも言えるトヨタ『プリウス』が、フルモデルチェンジで5代目となった。開発の狙いは「愛車」であり、快適な加速、スムーズな青銅、意のままのハンドリング、静粛性などが開発の柱になっている。

また新型から2.0リットルガソリンエンジンを使うハイブリッドシステムが主軸となり、従来からの1.8リットルエンジンでのハイブリッド車も残るが、愛車としての開発の柱が成り立つことになる。

◆剛性の高さと静粛性を実感
2.0リットルのハイブリッド車試乗では、最上級グレードZで前輪駆動(FF)と4輪駆動(E-Four)を運転する機会を得た。

走り出してまず体感したのは、剛性の高い車体の感触だった。それに伴い、運転操作に対する動きの手ごたえもより確かになり、クルマ全体が上級になった様子を知る。また、いっそうの静粛性にもこだわったとして、室内の静けさも実感した。3代目から4代目への移行でも、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採用したことにより、格段の進歩を遂げたと感じた。そのTNGAが、『C-HR』や『カローラ』などを経てさらに成熟し、新型プリウスに上級さという格上の感触をもたらしたのではないか。

一方で、走りでも魅了するとして操縦安定性を高めているが、そのために50%の扁平タイヤが装着され、ロードノイズが静粛性が高まったがゆえに気づきやすくなっている。全体的には乗り心地と操縦安定性の調和がとられているが、車両重量が60kg重くなるE-Fourでは、路面の段差を乗り越えた際のハーシュネスがきつくなり、せっかくの上質な乗り心地を阻害する。走りをよくするといっても、ここまで偏平なタイヤが必要なのか、疑問は残る。

その点、60%偏平のタイヤを装着する1.8リットルガソリンエンジンのハイブリッド車は、そうした衝撃をいなすしなやかさがあった。超偏平タイヤはまた、摩耗後に交換する際に、あるいは冬場にスタッドレスタイヤを装着したい場合にも、タイヤ価格が高くなり維持費の負担を増やすことも忘れてはならない。

◆フロントピラーに対する懸念とは
新型プリウスの大きな話題の一つが、外観の造形だ。トヨタは、「一目惚れするデザイン」という。確かに、写真で見る以上に実車は精悍な姿で、存在感も強い。またリアフェンダーが張り出した造形は、「虜にする走り」を目に印象付ける効果を持つ。

しかしながら、発表での写真を見たときから気になっていた、大きく傾斜したフロントピラーが視界に悪影響を及ぼすのではないかという懸念は、試乗でさらに高まった。運転者の頭に迫りくるように傾斜したフロントピラーは、真正面の前方視界にはそれほど影響を及ぼさないが、カーブでのすれ違いなどで対向車との距離感を掴みにくい。ことに道幅の狭い屈曲路でのすれ違いには神経を使った。

また、車体全体に丸みがあるせいかもしれないが、車幅感覚もつかみにくい。屈曲路でのすれ違いだけでなく、道路の端に寄せて停車するといった場面で、どこまで幅寄せできるかを瞬時に判断しにくく、寄せ切れない。

◆愛車とは、日々使って永い年月愛着を持てるクルマのこと
さらに、試乗でより鮮明になったのは、後方視界の悪さだ。これまで、2代目から前型まで、リアハッチバックの傾斜をなだらかにしたプリウスの造形により、後方視界の悪化を補うため、リアウィンドウ下に後方を透けて見通せる窓が設けられていた。しかし新型では、それがなくなっている。このため、ルームミラーで確認できる後ろの様子が制約を受けている。

さらには、斜め左後ろのピラーのところから外を見通しにくくなったため、たとえば車道へ後退して出て行こうとしたとき、後続のクルマの接近をまったく確認できないのだ。これでは、不安で道路へ出ていくことができない。あるいは、勇気を奮ってアクセルを踏むしかなく、万一、障害物や人などに接触しないことを祈るのみだ。

いくら一目惚れするデザインを追求するといっても、カーデザインは絵画ではなく、工業デザインとして機能を満たしていなければ意味をなさない。そこを忘れた造形と感じる。同じことは、『マツダ3』のハッチバック車でも言える。

愛車とは、日々使って永い年月愛着を持てるクルマのことを言うのではないだろうか。一見格好がよくても、出かけることに不安をもたらすクルマに愛着を感じるだろうか?

外観や性能にいくら凝ってみても、混合交通という公共の道路で安心して移動の手助けをしてくれるクルマこそが愛車となって永く役に立つのであり、それを忘れたクルマは奇抜な存在でしかないのではないか。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★

御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988〜89年FL500参戦。90〜91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。

トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2リットルハイブリッド E-Four)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(2.0リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(1.8リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(1.8リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 トヨタ プリウス 新型(1.8リットルハイブリッド FF)《写真撮影 中野英幸》 御堀直嗣氏とトヨタ プリウス 新型《写真撮影 中野英幸》